【CROSS TALK】「Why」を伝え、自分を解放することで信頼を得る。幸せになるための「営業スキル」とは

アットラスト株式会社CEO遠藤公護×ビジネス書出版社代表小早川幸一郎

「営業」は一般的に「誰でもできる仕事」と捉えられることがあります。しかし、営業の力は、ただサービスや商品を売ることにとどまりません。営業スキルを極めることで、自分の歩みたい人生を、自ら切り拓くことができます。

ITエンタープライズ営業の第一線で20年以上の経験を持ち、これまでのビジネス書とは異なるアプローチで『人生を変える営業スキル』を書き上げた遠藤公護氏は、「信頼(Trust)を築くことが重要だ」と語ります。本当の信頼を築くためには、どうすればいいのか。これまで多くのビジネススキル本をヒットさせてきた小早川幸一郎が、その秘訣を聞き出します。

※この記事は、2024年1月配信の、クロスメディアグループの動画コンテンツ「ビジネスブックアカデミー」を元に文章化し、加筆・編集を行ったものです。

遠藤公護(えんどう・こうご)

2001年にサンマイクロシステムズに入社し、パートナー営業とハイタッチ営業を経験。2010年にオラクル社との買収を経てシステムズ部門に配属、金融営業部の部長として営業推進に従事。2014年にTableau Japanに入社し、2人目のエンタープライズ営業として日本市場におけるデータ活用推進を支援。2017年よりエンタープライズ営業 第一営業本部長に就任し、主に通信業、メディア、テクノロジー企業の営業責任者として、Tableau社のコアバリューであるDelight Our Customer推進に注力。2019年Salesforce社の買収を経て、Tableau, A Salesforce Companyの執行役員に就任(アジア最優秀マネージャーの表彰を含む営業受賞歴は15回以上)。2023年にAT LAST.Inc(アットラスト株式会社)を設立。

小早川幸一郎(こばやかわ・こういちろう)

クロスメディアグループ(株)代表取締役 出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開中。

人生の「正解」の原点となった選択

小早川  遠藤さんは、ITエンタープライズ営業の第一線で長年ご活躍されています。まずは、これまでの経歴についてお話いただけますか。

遠藤 はい。私は、21年間一貫して外資系の営業をやってきました。一度転職したことがあるのと、勤めていた会社が買収されたことが2度あるので、全部で4社で働いた経験があります。
最初に就職した先は、サン・マイクロシステムズ(以下、サン)というITサービス企業です。実は、新卒時にP&Gのマーケティング部にも内定をいただいていましたが、お断りしたんです。その理由を、「自分は営業しかできないから」とお伝えしました。大学生だった当時、「営業は誰にでもできる仕事」という間違った認識をしていたんです。営業に対する敬意を持たない言い方をしてしまいました。
P&Gのマーケティング部での1つの役割が、数学を使った分析で商品価格の設定を導き出すことでした。私以外の内定者は有名大学を出ている理系の方ばかり。文系の私は、正直、びびってしまったんですよね。

P&Gといえば、ビジネスパーソンの憧れる企業です。 「あのとき、なぜP&Gに挑戦しなかったんだろう」と思い起こすこともあります。しかし、このサンという会社で私の営業としての人生は始まり、幸運なことに妻との出会いもありました。
振り返ると、本当に何になりたいかわからなかった20代の私にとって、営業とは、自分の成長とともに見えてくる「本当になりたいに自分になるために、必要なスキル」を身につけさせてくれる職業です。このことを思い出すたびに、人生の選択として間違いなく「正解」だったと思えます。

小早川 なるほど、その後に、サンはオラクルに買収されますよね。オラクルではどのような営業をしていたんですか。

遠藤 サンがオラクルに買収されたタイミングで上司が退職してしまい、その空いた部長職に、私が就任することになりました。いきなり管理職になった私の引き出しはゼロです。人を管理することも、売り上げ目標を達成することも難しく、部長になってからの4年間は本当に大変でした。

引き出しのなかった私の営業はカタログ営業が中心で、例えば、「スペックがこれで、これくらいの値引き率です」といった製品説明ばかり。チームは一生懸命取り組んでくれたものの、私個人はお客様に対して何の感動も生まない営業スタイルだったと思います 。
私はもともと「人のためになりたい」という思いを持っていました。たくさんの人に喜んでもらえるような仕事をするため、まったく違う分野への転職を考えるようになりました。

「Why」を伝えることのできる営業になる

小早川 キャリアの前半は苦労が多かったんですね。そこから、どのような分野へ転職をされたんですか?

遠藤 生活に直接貢献できるような仕事が良いと考え、以前内定をもらっていたP&Gや、クロックスなどの消費財メーカーを考えたのですがうまくいかず、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを扱うタブローという会社に転職しました。
BIツールとは、ITを活用してデータを収集・分析しビジネスの意思決定に役立つような分析をするツールです。タブローは、「Help People(人を助ける)」をミッションとしていて、私の思いとリンクしている部分がありました。

小早川 会社が変わったことで、営業スタイルも変化しましたか?

遠藤 私がタブローに入ってすぐ、シアトルで2週間の研修がありました。そこでリーダーシップ理論で有名なサイモン・シネック氏の講義を聞いたんです。「ゴールデンサークル」についての内容で、この体験が、私が営業としてまったく違うステージに進んでいくきっかけになったと思っています。それは、人生をも変える教えでした。
ゴールデンサークルについては、拙著の中でも解説しています。世の中を変えたリーダーや会社、製品は、「Why(信じるところ)」「How(どのように)」「What(事実)」の順番でメッセージを伝えている。Whyを意識し、Whyから入ることによって相手から共感が得られるという考え方です。
ここでいうWhyとは、例えば「なぜこの製品を作ったのか、なぜあなたにこの製品が必要で、世の中に価値を生むのか」などの製品が持つ世界観を伝えることですね。

小早川 「Why」の話に関連して、ご著書の中では、「社長は営業としても優秀だ」ということを取り上げていましたね。

遠藤 そうですね。私は現在の会社でスタートアップ企業を支援していますが、自らコネクションをつくって売り上げをたてている社長がたくさんいらっしゃいます。それは人の気持ちを動かすレベルで「Why」を伝えることができるからです。
ただし、企業としてそれを「良し」としてはいけません。タブローの創業者でありCEOだったクリスチャン・シャボー氏は、「Whyを伝えることはトップではなくてもできる。担当だからこそ、Whyを強く持つことで世の中に発信できる。自分なりのWhyをつくりなさい」と言っていました。経営者としては、担当者に「この製品を売りたい。この会社のためになりたい」と思える体験をどうやってさせるかというところが、すごく大事なんです。

「エンタープライズ企業突破」の鍵は

小早川 いまでは「BIツールといえばタブロー」というイメージですが、もともと認知度の低かった製品を成長させることのできた経緯を教えていただけますか。

遠藤 IT営業の起点はリード獲得ですが、そもそもスタートアップ企業にとってリード獲得は最も難しいところです。さらに、私が担当していたエンタープライズ企業では、すでに使っている製品があり、現状維持を好む傾向があります。現状の製品に満足しているお客様に別の製品を売り込むには、機能や価格だけではなく、その製品を応援したいと思わせる必要があります。

小早川 「エンタープライズ企業突破」は本のキモになる部分ですよね。突破のコツはあるんでしょうか。

遠藤 最近、あるスタートアップ企業を支援している時に、「遠藤さん、一発で解決できる方法を教えてください」と言われたんですが、「それはありません」と回答しました。現場の担当者が試行錯誤を繰り返し、緻密なプランニングをすることで、「これだったら勝てるんじゃないか」という勝ち筋を見つけていく。「エンタープライズ企業突破」の答えは現場にあると思っています。
現場の担当者の方に伝えたいことは、製品を売りたいという思いがあるなら、自分で製品を普段使いのものとして徹底的に使う。自分が売るものが世の中の人にどんな影響を与えているのかということにまで、アンテナを立ててほしいということです。その体験の中で「Why」がつくれる。そして、その愚直な姿勢がお客様との間に「Trust」を生み出していくのです。

「自分らしく」が本当の信頼を築く

小早川 遠藤さんはずっと外資系だったこともあり、今回の本も編集前は英語で書かれた部分が多かったですね。いくつか日本語に変えたものもありましたが、英語のまま残した中の1つが「Trust」でした。「Trust」とは信用のことですね。強いキーワードだと感じたのですが、そこには、どんな思いがあったのでしょうか。

遠藤 お客様との関係性を築くうえでは、Trustがとても大切です。チームメンバーにも、日常的に「お客様との間で何でも相談できる戦友的な関係性は作れているか?」と問いかけていました。

小早川 なるほど、Trustのためにはどんなことが必要でしょうか。

遠藤 私が尊敬している上司に「自分らしくいることがTrustをつくる」と教えてもらったことがあります。上司はこのことを、自分を開放するという意味の「Unleash」と表現していました。プライベートと仕事でまったく違う自分でいると疲れますよね。仕事でも、家族とでも、1人でも偽りのない同じ自分でいることで、人から信頼されるようになるという考え方です。
この上司の教えから、自分自身をUnleashすることで、「営業とお客様」の壁を超えた信頼をつくることができたと感じています。

小早川 「Trust」のための「Unleash」。営業の根本となる考え方ですね。

遠藤 そうですね。この考え方はずっと持ち続けています。

良い会社は買収されてしまうもので、タブローもセールスフォースに買収されました。そこでは多くのお客様を「Delight」させること、つまり、喜ばせて、輝かせる、そして「幸せを届ける」ということを意識して営業をしていました。 
私はここで、社会に出た20年前とはまったく違う、AIを活用した最先端の営業も体験しました。AIが自社の顧客データから、お客様に提案すべきものを教えてくれるんです。
ただ、営業スタイルが変わっても、私はリーダーとして、変わらない信念を、自分のチームに伝えてきました。それは「営業は、お客様との間に人としてのTrustをつくることが、すべての基本」だということ。それができて初めて、AIの力も借りられるんです。

「大人の営業」とは

小早川 先日、当社の営業スタッフに、遠藤さんがワークショップを行ってくださいました。スタッフから、本の中にあった「大人の営業」についてのお話も聞きたいという声が挙がっています

遠藤 「大人の営業」とは、いままで誰もつくってなかったような、「新しい道」をつくれる営業、そして「会社を支える」営業だと思います。自分が世の中に伝えたいと思える製品を広げていくことができ、数字をつくって会社を存続させる力がある。若い世代が憧れ、手本にしたくなる営業です。
私はそうした営業を「大人の営業」と表現して、そのためには何が必要なのかを自分なりに考えました。今までなかった道を作る中で得た気づきや私自身の経験を周囲に意識して発信し伝えることで、いつの間にか自分も「大人の営業」ができるようになっていきました。
例えば、「どうやったらこの製品が世の中に伝わるのか」「僕の中のWhyはこれだ」と人に伝えることで、「遠藤の話すことは面白い」と言ってくれる人が生まれます。それがコミュニティになり、いつのまにか新しい世界が生まれていったんです。

小早川 なるほど。「大人の営業」を通して、これからは、どんなことを実現していきたいですか?

遠藤 本にも書きましたが、私には、これから、やりたいことが三つあります。

一つは、もっと「重い荷物を持ちたい」。ずっと営業の仕事で鍛えてきた自分の力で、もっと世の中を変えたいと思っています。私の知人に、沖縄の貧困や、弱者を救う活動をされている方がいます。経験を重ね自分の足腰が鍛えられたいま、その方のような活動をしていきたいと思うようになりました。

二つ目は、子供世代に自由な働き方の背中を見せたい。私は、もともと自分の中の狭い世界に入ってしまう性格でした。そんな私でも営業の世界に飛び込み、起業できたんだということを次の世代に伝え、「なりたい自分になれるんだ」という勇気を与えられる存在になりたい。

三つ目は、「愛されるリーダーのつくり方」をテーマに、2冊目の本を書きたいと思っています。私は、タブローで2年連続でアジア最優秀マネージャー賞を受賞しています。それは、幸せなことに、チームに愛してもらえるリーダーだったからだと思っています。「愛されるリーダー」になるために、自分自身が信じてやってきたことを、新しいリーダーシップの形を伝えられたらと思っています。

「幸せな場所をつくる」という言葉に込めた思い

小早川 2023年に立ち上げられた会社のホームページには「幸せな場所をつくる」と大きく表示されていますね。

遠藤 以前、小早川さんに「遠藤さんは名前が非常に珍しいですね」と言われましたよね。私の名前は「公(おおやけ)を護(まも)る」と書きます。この名前の通り、みんなを守れるような場所や、みんなが自分に戻れるような場所をつくりたいと考えたんです。「営業スキル」と「リーダーシップ」を持って本当の意味での自信を感じられる、また、そうした人生に少し疲れたときに自分に戻れる、その両方を叶える会社をつくりたい。そんな「幸せな場所をつくる」ことを実現したいと思います。

小早川 最後に、本を読んだ方へのメッセージをお願いします。

遠藤 「自分の人生を振り返ることができました」「スタッフに、どのように伝えるべきか、この本から自信をもらいました」など、読者の方からたくさんのうれしいメッセージをいただいています。
この本は私の体験した具体的なエピソードと、その時私自身がどういうことを思って、何をやっていたかということを、ストーリー・テリングの形で書きました。この本に書いてあることがすべての読者の方々に当てはまることはないと思いますが、参考になる考え方や解決方法を見つけ出して、自分だったらどう考えるかのきっかけにしてもらい、一歩踏み出す勇気や自信を持ってもらうことができたらと思っています。

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