「強み」以外は外部から取り入れる。自分の持つ能力を超えて成長するために

徒歩による移動が、馬、自動車へと変わり、手紙での連絡が、電話、メールへと変わる。人類の歴史では、「機能拡張」が繰り返されてきました。そしていま、世界はデジタル革命という、新たな機能拡張を起こしています。

機能拡張とは、すでにある技術やサービスを利用することで、人や組織が持つ機能を拡張すること。(株)経営共創基盤の共同経営者である坂田幸樹氏は、著書『機能拡張』の中で、「これからの時代に事業を成長させ、人間らしい豊かな生活を送るためには機能拡張が必要だ」と語ります。企業が実践するためのポイントや、個人の能力の限界を解放するために伸ばすべきスキルについて、同著の編集を手掛けた小早川幸一郎が聞き出します。

※この記事は、2024年4月配信の、クロスメディアグループの動画コンテンツ「ビジネスブックアカデミー」を元に文章化し、加筆・編集を行ったものです。

坂田 幸樹(さかた・こうき)

株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)。外資系コンサルティング会社、外資系消費財メーカーを経て、リヴァンプに入社。ディレクターとしてアパレル企業、ファーストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。リヴァンプ支援先のシステム会社においては代表取締役に就任し、経営改革を推進。IGPI 参画後は、ロジスティクス、メディア、テレコム、広告、製造などの幅広い業界においてグローバル戦略立案・実行支援、クロスボーダーM&A の支援に従事。

小早川幸一郎(こばやかわ・こういちろう)

クロスメディアグループ(株)代表取締役。出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開中。

必要な機能を外部から取り入れる

小早川 まずは坂田さんのキャリアについてお話ししていただけませんか?

坂田 私は新卒で経営コンサルティングの会社に入り、いくつかの企業を経て経営共創基盤(IGPI)に入社しました。現在では東南アジアとオーストラリアのエリアを統括し、現地に進出する日系企業や現地企業のアドバイザリー業務を中心に担当しています。
例えば日系企業がそれらのエリアで事業を始めるとき、一緒に企画を考えるところから始めて、現地の企業や政府、大学との連携、最終的にビジネスが立ち上がるところまでご支援する。それに、現地企業に対しても、経営改善の施策立案・実行や、スタートアップへの出資といったご支援をさせていただくこともあります。

小早川 そんな坂田さんの幅広いご経験を、今回は『機能拡張』という本にたくさん詰め込んでいただきました。私もそうありたいと思いますが、うまくいっている経営者や組織は、本当に機能拡張が上手ですよね。

坂田 そう思います。有名なのはGoogleですね。Googleは検索エンジンの事業から始まり、AndroidやYouTubeといったサービスは別の会社を買収したものです。

小早川 組織に必要なケイパビリティを自社で採用・育成していくのではなくて、外から取り入れるということですよね。わかりやすいのは、外部スタッフを入れることやM&Aだと思います。自前で必要な機能を揃えるのに時間がかかることを考えれば、投資額が増えても外から借りてくるほうがメリットが大きい。最近は人手不足の中で、ますます機能拡張が必要になってきているのでしょうか。

坂田 そうですね。世界中の人材と連携をしながら事業をやっていくという発想が、極めて重要になると思いますね。

小早川 私もこれまで20年近く経営を続ける中で、どちらかというと自前主義でやってきましたが、やっぱりスピードが出ません。外部の力を借りながら組織を成長拡大していかないと駄目だなと、ぼんやりとは考えていたのですが、今回ご著書を編集したことが「よし、やるぞ!」という決定打になりました。

坂田 近年はデジタル革命などと言われるように、社会の変化がすごく速くなっています。昔だったら10年かけて社員を育てればよかったものが、1年・2年で対応しないと勝負にならないような時代になっているんです。

自社の強みを最大限に生かす戦略

小早川 この本を書こうとしたきっかけは、どんなことでしょうか。

坂田 日本企業のご支援をする中で、機能拡張があまり得意ではない組織や人が多いと気づいたのがきっかけです。例えば、海外のテック企業がM&Aをしようとするとき、3社の候補のうちの1社を選ぶのではなく、3社まとめて買うような動きが出てきています。スタートアップは成功確率も低く、未来が予測できません。だったら全部買う、駄目なら売却する。そうした発想を含め、機能拡張は世界的に主流の戦略になっていますが、日本では本気で取り組んでいる企業がまだ少ない。機能拡張の考え方が広く浸透するきっかけになればいいなと思ったのが、執筆の動機です。

小早川 本の中では、機能拡張なしでは企業は生き残れないと書かれています。改めて、このことについてお聞かせください。

坂田 デジタル革命が起きてから、企業や個人ができることはすごく増えています。何を自分たちの強みとするかを押さえた上で、それ以外のものは外部から持ってくればいいと考えています。

ベトナムのビングループという財閥がすごい取り組みをしています。まず、グループ内のビンファストという企業がEVを製造し、各国に輸出を始めています。それだけならほかの自動車メーカーと同じですが、ビングループはスマートシティーの開発をしていて、街のいたるところにEV用の充電ステーションを設置しています。さらにタクシー会社をつくって、アプリでタクシーを呼べるようになっています。そのタクシーもすべてEVです。

もともとビングループは小売業や不動産業を主体としていて、自動車事業は専門外でした。デジタル革命によりパーツのモジュール化が進んだことで、EVは規格に沿ったパーツを仕入れて組み立てればつくることができる。EVを取り入れることで、自社の強みである街づくりを機能拡張したんです。こうした動きに対して、従来の自動車製造のようにサプライチェーンをすべて自社で構築していこうとすれば追いつかないですよね。

創造的破壊から創造的統合へ

小早川 なるほど。ビングループは機能拡張という概念を理解しているから、ビッグピクチャーを描いて戦略を練ることができたんですね。

坂田 ポイントとしては、どれだけ抽象化して考えることができるかだと思います。自動車メーカーを始めると考えれば自動車を作ることになりますが、それをMaaS(Mobility as a Service:一人一人の移動ニーズに対応して、あらゆる移動サービスを最適に組み合わせるサービス)と考えれば、移動サービスを提供することになる。ビングループはそこからさらに一段高い抽象化をして、スマートシティーという街の機能を考えたのだと思います。車という具体的な機能をいったん抽象化して、もう一度、街という具体に落としこむアプローチだと思います。

小早川 ご著書をつくる中で、いまあるものを再表現する「創造的統合」についてもお聞きしました。イノベーションは「創造的破壊」とも呼ばれますが、それとは別のアプローチで面白く感じました。創造的統合は、いまの事例とも関係する概念でしょうか。

坂田 そう思います。ひと言で言うと、縦割りから横割りへの変化です。例えば日本には昔、個人経営の酒屋さんや八百屋さん、肉屋さんがいっぱいありました。それがコンビニチェーンやスーパーマーケットチェーンができたことで、少なくなってしまっています。

これは、縦割りのサプライチェーンです。メーカーで作ったものを、自社のセンターを通してお店に届ける。それによって、いつコンビニに行ってもおにぎりがあり、スーパーに行っても欠品がない状態がつくられています。これはもともとあった構図を破壊して作り上げたものです。

なぜこれが必要だったかというと、デジタル技術がなかったからです。対して、東南アジアでそうした個人のお店は「パパママショップ」と呼ばれ、いまでもたくさん残っています。ただ、すべてデジタル化されているんですね。従来の日本のシステムのように多層化したサプライチェーンではなく、BtoBのeコマースに発注できるようになっています。表面上はまったく変わっていないけれど、デジタルの技術で再表現されているんです。

スペシャリストではなくゼネラリストになる

小早川 ここまで、組織としての機能拡張についてお聞きしましたが、個人の能力の限界をどう解放していくかというお話もお聞きしたいと思います。本書の中では、スペシャリストではなくゼネラリストを目指すべきだと書かれていますね。

坂田 「T字型人間」という言葉がありますよね。縦棒が専門性で、横棒がその広さ。まずは専門的なスキルを高めた上で、いろいろなことができるようになるという考え方です。私が経営コンサルタントになった20数年前は、縦を作ってから横を作りましょうと言われていました。どんな職種でもいいので、まずは専門性を磨いてから横を浅く広くつくる。こうした考え方はいろいろな業界で定説のようになっていますが、いまはこれが逆になっていると感じます。横を作ってゼネラリストになってから、結果としてスペシャリストになればいい。

小早川 なるほど。それはなぜでしょうか。

坂田 一番大きな理由は、業界や専門領域の垣根がなくなってきていることです。
例えば、海外には多数の機能をまとめた、「スーパーアプリ」と呼ばれるアプリがあります。東南アジアでは、グラブやゴジェックというスーパーアプリが有名です。どちらも、もともとは配車アプリですが、グラブはeコマースとして家に物を届けるサービスを提供しています。ゴジェックでは自宅の清掃やマッサージ、さらに遠隔医療で診断を受けて薬を届けてもらうことができます。

これらのアプリを提供するのがどの業界の企業かと聞かれれば、誰も答えられないですよね。デジタルですべてが統合されて、業界の壁がなくなってきている。縦割りから横割りの世界に変わっているんです。

その上で、何かの専門領域が必要なら専門家に頼むこともできる。さらに生成AIに頼めば、いまでもそこそこのクオリティで専門分野をこなしてくれます。こうした状況で縦を作ることに時間をかけるよりも、まずは横軸でいろいろなものを実現していきながら、縦軸を作っていけばいいと考えています。

機能拡張に必要な基礎能力を鍛える

小早川 生成AIの話が出ましたが、本の中では機能拡張のために生成AIをどう活用するのかということにも触れられています。

坂田 はい。仕事を分解すると、五つのプロセスに分かれると思います。1つ目が、こういう問題を解決したいという問いを立てること。2つ目が、問いに対するインプットをすること。3つ目が、インプットした情報を何らかの形で変換すること。4つ目がそのアウトプットで、5つ目がアウトプットしたものについて、実際にやるかやらないかを判断すること。
この中の、インプット・変換・アウトプットに関しては、現段階でAIに太刀打ちできなくなっています。その部分はAIに任せて、問いを立てることと判断に人間の力を活用すべきです。

小早川 よく、「AIの進化によって人間の仕事が奪われる」といわれます。確かにその部分もあるとは思いますが、生成AIを活用する時代だからこそ、人間の能力を上げていかないといけないということですね。その能力とは何かということについても、書籍の中では触れられています。

坂田 大きくは、3つです。「一般教養」と「一般常識」、その基礎になる「言語化能力」です。

小早川 一般教養も一般常識も言語化能力も、「AIがあるんだからAIに任せればいい」と考える人も多いと思います。しかし、むしろAIを使いこなすために、それらの能力が必要なんですね。

坂田 まさにそうです。一般教養というのは、簡単にいえば教科書に書かれていることです。やはり幅広い知識がなければ、問いを立てられません。例えば財務のことがまったくわかってない経営者がM&Aをするときに財務のアドバイザーを雇っても、何を相談すればいいかわからないはずです。専門家である必要はないけれども、一定程度の教養がないといけない。これはいろいろな分野について言えますよね。

ただ、一般教養は誰にでも習得可能です。差別化のためには、リアルな経験を通して身に付く一般常識が必要です。例えば自分の置かれた状況で失敗をすることでしかわからないことが、オリジナリティになるんです。

小早川 それらの基礎知識を身に着ける方法として、本では思考実験について書かれていますよね。

坂田 有名な思考実験は、トロッコ問題ですね。ある人がトロッコに乗って線路を進んでいくと、その先に5人の作業員がいて、このままだと5人を轢き殺してしまう。線路を切り替えて向きを変えれば、その先にいる1人を殺すだけで済む。このとき、どちらの行動を選ぶべきか、というものです。

人生で起きるさまざまな問題を思考実験で解いていくことが、一般教養や一般常識に加えて、言語化能力を鍛える上で有効です。例えば、大企業とスタートアップのどちらに入社するかという問いがあったとします。給料や職場環境、将来性などいろいろ比較しますよね。それを一段上に抽象化して、「何のために働くのか」という問いに変えた上で思考実験をしてみる。すると、より自分らしい問いを立てることができるようになります。

小早川 わからないことがあれば検索したりChatGPTに聞いたりする世の中ですが、自分自身で考えることで、AIの活用もよりうまくできるようになるということですね。

「人間らしい浪費」で個性を取り戻す

坂田 いまはいろいろなものが情報化されていて、あまり考えずにそれらを消費してしまっていることが多いと思います。これが、「人間らしさ」や「個性」といったものを薄めてしまっているように感じます。

あるフランスの哲学者は、「消費」と「浪費」という言葉で対比しました。消費は、際限のないものです。例えば、スマホにお勧めされたYouTube番組を見る。あるいは、広告に誘導されて商品を買う。誘導されるがままで、終わりがありません。一方で、浪費は際限があるものです。自分で選んだ贅沢な料理をお腹いっぱい食べて満足し、「もう食べれません」と止まる性質のものです。

いまはみんな消費側に寄ってしまっています。自分にとって浪費と思えるようなことにお金や時間を使うことで、人間らしさを取り戻せると思います。それができなければ、消費社会がどんどん広がってしまいます。際限なく消費して、没個性の世界になっていく。それは、企業の利益やGDPといった指標ばかりを追いかける社会です。

これからは、「3つのP」という考え方が求められるようになると思います。「プロフィット(収益)」だけではなくて、「ピープル」と「プラネット」を大事にする。人類や地球環境をどう豊かにしていくかという発想が生まれることで、より良い社会になっていくはずです。

小早川 確かにそうですね。地球や人に関心がなければ、プロフィットも出せない世の中になりつつあるように思います。
最後に、視聴者の方、読者の方にひと言お願いします。

坂田 海外から見ると、日本はすごく可能性のある国です。例えばアニメや漫画といったコンテンツ、それに伝統工芸品。食の面でも、ミシュランの星をほかの国の何倍も取っています。日本が持つ良いものを再表現して、世界に発信していく。それによって世界全体が豊かになっていけばいいかなと思います。

それに、日本人一人ひとりにも大きな可能性があります。大谷翔平さんのように、世界を舞台に活躍する方がいろいろな分野にいる。そうした面でも、もっと自信を持っていただきたいと思います。

テクノロジーを使って機能拡張すれば、日本の、日本人の持つ強みをより一層発揮できると思います。暗いニュースも多いですが、あまり悲観せずに、できるだけ明るく前向きに生きていく。今回の本が、その助けになれば幸いです。

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