徹底的に学生の側に立ち続ける。「心」を理解しようとする姿勢が韓国学生と日本企業の架け橋に

韓国の就活イベントで出会った学生たちは、驚くほど優秀だった。日本語は堪能でTOEICは800点超え。ポートフォリオまで持参している。しかし、日本企業は彼らの実力を見抜けない。

そのギャップを埋めるのは、目の前の学生の「心」を理解しに行く姿勢だった。株式会社ビーウェルインターナショナル代表取締役の大亀雄平氏は、学生時代の起業、その後の挫折を経て、2019年に日韓採用の架け橋となるサービス「KOREC(コレック)」を立ち上げた。一貫しているのは、徹底的に学生の側に立つという姿勢。その人の想いや人となりへの理解を深める。その一手間が、国境や言語を越えたつながりをつくる。

大亀雄平(おおかめ・ゆうへい)
1982年、兵庫県神戸市出身。2006年、大阪市立大学在学中に株式会社ビーウェルを創業。関西を中心に就活イベントや講演会、企業とのマッチングなどを開催し、学生の就職活動を支援する。これまで約2万人の大学生と関わってきた経験を生かし、2019年、韓国人の就職支援プラットフォーム「KOREC」をローンチ。韓国の学生に向けた日本企業への就職支援事業を手掛ける。

昔から「人と人をつなぐこと」が好きだった

私はサラリーマン家庭で育ち、親族にも商売人や経営者はいません。起業なんて選択肢は、人生の中にありませんでした。それが変わったきっかけは、大学時代に神戸の経営者のもとでかばん持ちを経験したことです。今でいうインターンですね。その社長は当時の私より7つ上の27歳。複数の事業を手がけていて、若くても起業ができるということを初めて知りました。そこで「自分にも何かできるんじゃないか」と思ったんです。

起業するに当たって意識したのは、「自分が勝てる場所で始めよう」ということです。自分の強みは何かと考えたとき、答えはシンプルでした。自分は大学生で、大学生の気持ちがわかり、学生同士の強いネットワークがある。そのマーケットなら自分でも勝負できると考えて、大学在学中にビーウェルを設立しました。

振り返ると、人との縁をつなぐことは昔から意識していたように思います。中学、高校、大学と進む中で、イベントを企画しては数百人を集めていました。友人とのネットワークを広げながら、人と人が出会う場をつくること自体が好きでした。この「つなぐ力」が、後のビジネスの土台になっていきます。

しかし、勝てる場所の見極めが甘かった時期があります。飲食店の話が舞い込んだとき、アルバイト経験があるから大丈夫だろうと安易に手を出してしまいました。そのときの私は、「何のためにやるのか」「誰を感動させたいのか」という問いをまったく立てていなかったんです。

勢いで始めた事業は当然長くは続かず、27歳で社員は全員去り、借金だけが残りました。お金がなくなったこと以上に辛かったのは、仲間がいなくなったことです。借金はどうにかできたとしても、孤独感はどうにもなりません。もし再びチャレンジするなら、何を大切にするか。浮かんだのは、「人を大切にすること」「一人ひとりの心と向き合うこと」でした。

売り込む場ではなく出会う場をつくる

借金を返し終えた頃には、ビーウェルは設立から10期目を迎えていました。社員はおらず、会社としての「箱」だけが残っている状態です。一緒に会社を立ち上げた仲間が戻ってきて、「ビーウェルをどうする?」と問いかけてくれました。

なぜビーウェルを創ったのか、自分はどんな経営者になりたかったのかをもう一度考えました。挫折を経験して成長した今の自分が、もう一度事業を立ち上げればどうなるだろう。その思いが、再挑戦への原動力になりました。

幸いなことに、私の場合は学生時代のいろんな大人や経営者との出会いが、人生を変えてくれました。しかし多くの大学生には、そういう出会いがありません。そこから生まれたのが、「ALL FOR STUDENTS」。すべての事業は学生のため、という当時の経営理念です。今度こそ「何のためにやるのか」を軸に据えた経営をすると決めました。

再出発の舞台として、大阪に就活カフェをつくりました。学生が自由に出入りして、経営者の話を聴いたり、企業の人事と出会ったりできる場所です。一番の目的は学生の挑戦を応援することであり、「売り込まない」ことを意識しました。

当時、企業の新卒採用は厳しい状況にありました。大手の合同説明会に出展しても、知名度のある企業にばかり学生が流れていく。「売り込む側」と「選ぶ側」という構図では、特に中小ベンチャーは常に不利な状況に立たされます。

ならば発想を変えて、売り込む場ではなく、意欲の高い学生が自然と集まる環境を作ればいい。その環境に企業が関わることで、出会いが生まれるモデルを考えました。「ビーウェルの就活カフェに行けば、目がキラキラした学生に会える」と言ってもらえるようになり、企業も自然と集まってくれました。

ただし、どれだけ場を作っても、日本の学生の絶対数は減少する一方です。大手が莫大な広告予算をかけて学生データベースを奪い合うレッドオーシャンで、当社が正面から戦っても勝ち目はない。

私は「戦わない経営」がモットーです。戦う場所を変えて、まだ誰も手を付けていないデータベースがどこかにないか。そう考え始めたことが、次の転機につながります。

隣の国に「見抜かれない才能」があった

韓国人材との出会いは、偶然でした。知り合いから「韓国で日本就職フェアがあるから、ブースを出してみないか」と誘われたんです。正直、期待はしていませんでした。

参加してみたところ、名も知れない私たちのブースに30件ほどのエントリー。面接で話すとみんな日本語が上手で、TOEICも800~900点台。さらに、自分のスキルをポートフォリオにまとめて見せてくれます。日本の学生を長年見てきた目で比較したとき、率直に「優秀だ」と思いました。

韓国の若者の就職率は6割台が続いており、どれだけスキルを磨いても職に就けないという現実があります。韓国はジョブ型採用、学生たちは在学中から資格取得や実務経験に励み、即戦力として自分を売り込みます。それだけ努力しても就職できない厳しさに直面する中で、日本で働きたいと考える学生が増えているのです。

しかし、そんな彼らの優秀さが日本企業にはなかなか届いていません。韓国の学生は、面接で自分の実績を必死にアピールします。それが彼らにとっては誠実な姿勢なのですが、日本企業の担当者には「自慢話ばかりする人」に映ってしまう。能力が高いのに、伝え方が噛み合わないだけで、価値が届かないのはもったいないですよね。

韓国の学生に対しては、日本企業が学生のどこを見ているのかを教える。日本企業に対しては、韓国の学生の本当の魅力を伝える。この翻訳ができれば、日本と韓国の採用の架け橋になれる。それこそが、自分たちの「勝てる場所」だと考えて2019年に立ち上げたのが、韓国人材に特化した採用支援サービス「KOREC」です。

例えば、役員面接で韓国の学生が質問にすぐ答えられなければ、「この子は何も考えていない」と判断されてしまうことがあります。でも実際は、言語の壁が立ちはだかって十分に表現できないだけです。

そこで私たちは、企業に「最終面接で聞く内容を事前に教えてもらえませんか。準備した上でプレゼンさせてあげてください」とお願いします。すると学生たちは資料を作り込み、日本語や英語で猛練習して面接に臨みます。その姿を見た企業の担当者が「この子はすごい」と驚く。並んだスペックをただ見るのではなく、相手を理解しようとする。その一手間があることで、見えなかった才能が見えるようになるんです。

コロナ禍でも逃げなかった時間が最大の資産に

韓国の若者は、スキルを高めるための自己投資を惜しみません。日本で培った就活カフェのモデルを持ち込み、「日本就職のことを無料で学べる場所」をつくったところ、大きな反響がありました。現地の学生たちの間では、「日本に就職するならKORECに行こう」と自然に話題が広がっていきました。

しかし、手応えを感じたのも束の間、コロナ禍が直撃しました。当社は韓国法人を作り、ソウルにカフェスペースも構え、スタッフも採用していたのに、全てが止まってしまいました。採用イベントは軒並みキャンセル。渡航もできない。売上の見通しが全く立たなくなりました。

多くの経営者に相談しても、ほぼ全員から「撤退したほうがいい」と言われました。いつ再開できるかわからないのだから、そのときにまたやり直せばいい、と。合理的な判断だと思います。

でも、一度やめてしまったら、二度とできないような気がしたんです。頭の中には、日本就職を目指す韓国の学生たちの顔が浮かんできます。これまで関わった学生みんなの夢を見捨てるのか。その思いが、どうしても拭えませんでした。

そこで赤字の韓国事業を本社から切り離し、ビーウェルインターナショナルとして独立させました。当然、銀行の融資は下りません。韓国事業に賛同してくれた経営者から資金調達をして、コロナ禍が落ち着くまで売上ゼロの状態で生き延びました。

結果的に、韓国で人材サービスを展開していた日本企業はほぼ全て撤退し、私たちだけが残りました。そのことを知る学生たちからは「KORECは見捨てなかった」と言ってもらえたんです。韓国の政府系団体や大学からも、信頼していただけるようになりました。韓国の学生のことを一番に考え、逃げなかったことが、今の事業の最大の資産になっています。

また、コロナ禍は副産物も運んできてくれました。オンライン面接が普及したことで、わざわざ渡航しなくても海外の人材と採用面接ができるようになったんです。さらに、日本で韓国ドラマや映画がブームになったこと、円安の影響で韓国旅行が身近になったことも、日韓の心理的な距離が縮まるきっかけとなりました。逃げずに踏ん張ったからこそ、偶然のようにも思える出来事のすべてを自分たちの力に変えることができたのだと思います。

「手間暇かける」が最大の武器だった

ある方から「グローバル人材の採用は、結婚相談所と同じだよ」と言われたことがあります。結婚相談所では、仲人さんが「この人はこういうところが魅力です」とお互いの良さを引き出して、つながりを作っていく。KORECもまさにそのモデルです。

事業を継続した結果、日本での就職を希望する韓国の学生のデータベースは、ほぼ私たちが所有できるようになりました。検索エンジンでもSNSでも大学との提携でも、「日本で就職するならKOREC」という情報が自然と流れてくる仕組みができています。データベースの構築にコストがかからない分、学生一人ひとりの教育や就活サポートにじっくり時間をかけられる。これが私たちのビジネスモデルの肝です。

「手間暇かけたらコストが高くなるじゃないか」ということは、よく言われます。しかし最も大切なのは、相手のことを理解しようとする姿勢なのだと思います。書類のスペックだけを見るのか、その向こう側にある想いや努力まで見ようとするのか。当社にも20~30人の韓国人社員が在籍していますが、全員スムーズに会社に定着することができました。うまくいかないのは、心ではなく表面的な部分で判断してしまうからです。

現在、力を入れているのが地方企業へのマッチングです。日本の地方には若者が少ない。でも韓国には、日本が好きで強いチャレンジスピリットを持った人材がたくさんいます。北海道から沖縄まで、地方の企業で韓国人材の採用に成功している事例が増えています。

韓国人材の採用は、単なる人員の補充ではありません。日本の若手社員にとっても、大きな刺激になります。韓国の若者は英語も日本語も使いこなし、世界中に友人がいて、グローバルな情報を得ている。キャリアに対するストイックさの基準も高い。そういう人材が同僚にいることで、社内全体の視座が上がっていく。採用の枠を超えた相乗効果が、この事業にはあると感じています。

商売が繁盛する要因は、ビジネスモデルの力にあると思われることが多い。でも私は、経営においてもっとも大切なことは「人づくり」だと思っています。いい仲間がいれば、お客様の気持ちを理解して期待を超えることができる。それが対価として返ってきて、またみんなに還元できる。これを循環させることが、経営の本質ではないでしょうか。

2時間も飛行機に乗れば会える距離にいる若者たちを、理解しに行く。国も言語も外見も関係ない。その人の「心」を見ることが、国境を越えたつながりを生む力になると信じています。

取材・文・編集:佐藤美紀

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