【編集4.0:Vol.0.0】編集とは、すでにあるものを組み合わせて新しい価値を生み出すこと

「編集」の役割は、書籍や動画といったコンテンツを作ることにとどまりません。私たちの身近にある商品・サービスの多くは、編集によって生み出されています。さらにその可能性は、「人と企業の編集」「事業の編集」「社会の編集」へと広がっていきます。すでにあるもの同士を組み合わせることによって、新しい価値を生み出す。編集とは、新結合によるイノベーションそのものだと言えます。

本シリーズでは、編集者でありクロスメディア・パブリッシングの代表でもある小早川幸一郎が、「編集4.0」をテーマに、編集の持つ価値をゲストとともに拡大していきます。今回は「編集0.0」として、「編集の価値」を定義。マーケティングおよびブランディングの第一人者であり中央大学ビジネススクール名誉教授の、田中洋先生と対談します。

編集4.0とは・・・・
編集1.0:メディアの編集
編集2.0:人の編集
編集3.0:事業と企業の編集
編集4.0:社会の編集

田中 洋(たなか・ひろし)

中央大学名誉教授。1951年名古屋市生まれ。京都大学博士(経済学)。株式会社電通マーケティング・ディレクター、法政大学経営学部教授、コロンビア大学大学院ビジネススクール客員研究員、中央大学ビジネススクール教授などを経て2022年から現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。フランス国立ポンゼショセ工科大学ビジネススクール、東北大学、名古屋大学、慶應義塾大学、早稲田大学などで講師。経済産業省・内閣府・特許庁などで委員会座長・委員を務める。消費者行動論・マーケティング戦略論・ブランド戦略論・広告論を専攻。多くの企業でマーケティングやブランドに関する戦略アドバイザー・研修講師を務める。主著『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣)を始めとして多くの著書・論文がある。日本マーケティング学会マーケティング本大賞/準大賞/優秀論文賞、日本広告学会賞、中央大学学術研究奨励賞、白川忍賞などを受賞。

小早川幸一郎(こばやかわ・こういちろう)

クロスメディアグループ(株)代表取締役。出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開中。

「編集」とは他人の頭の中から「集めて編む」こと

小早川 私は、「編集」の持つ可能性を4つに分けて考えています。このシリーズでは、「編集1.0」から「編集4.0」まで、順番にゲストの方をお呼びして考えていきます。その前に、今回は「編集0.0」として「編集とは何なのか」をお話させてください。

田中 今日は「編集」の語源を調べてきました。編集者は英語でeditorと言います。これはラテン語の「edere」、生み出す、製造するなどの意味を持つ言葉から派生したのだそうです。それから、「編集」を意味する「edit」という言葉も、ラテン語の「ex(~の外へ)」と「do(与える)」がもとになっています。

編集と聞くと文章を作って印刷するというイメージもありますが、語源に遡ると、より能動的な意味を持っているんですね。

小早川 なるほど。私は以前、「編集」という日本語から考えたことがあります。「集めて編む」と書くのだと考えたとき、とても納得できました。編集者は確かにコンテンツを作っていますが、編集者自身がゼロから生み出しているわけではない。生み出しているのは、著者なんです。

著者の頭の中から言語化した言葉を集めて編むのが、編集者の仕事です。その概念を書籍の編集だけではなく、より広く拡大していきたいというのが、今回の取り組みのきっかけでした。編集というスキルを世の中に広めたい。本作りだけではなく、いろんなことに編集力が活用されるようにしていきたいと思っています。

編集1.0:『もしドラ』は「すでにあるものの組み合わせ」で生まれた

田中 それでは、「編集1.0」から「編集4.0」をなぞりながら、編集の価値について考えましょう。まずは「編集1.0」。メディアの編集ですね。

noteのCEOを務められている、加藤貞顕さんという方がいます。彼は昔ダイヤモンド社の編集者で、2009年に『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(以下、『もしドラ』)という大ヒット作品を手掛けました

当時、彼がウェブ上でネタを探していたところ、『もしドラ』のシノプシス(あらすじ・概要)を見つけました。「もし高校野球の女子マネージャー(名前は仮にみなみちゃんとしよう)が、ドラッカーの『マネジメント』を読んだら、彼女はきっと驚くだろうな」という書き出しに惹かれ、これはいけると直感したそうです。

後に加藤さんは、「この本は違和感の塊」だと言っています。タイトルは長いですし、アニメ風のイラストが描かれたカバーも当時のビジネス書としては珍しいものでした。加藤さんはウェブ上からネタを探して、違和感の塊にして仕上げた。価値あるコンテンツを見つけ出して、変わった見せ方に仕上げるのが、「編集1.0」の面白いところなのではないかと思います。

小早川 私は、編集とは「すでにあるものを組み合わせて、新しいものを生み出すこと」だと考えています。これはイノベーション理論で知られるシュンペーターが言った、「新結合」と同じだと思います。『編集1.0』の代表作が『もしドラ』ですよね、ライトノベルの見せ方と、ドラッカーという経営論の大家。すでにあるものを組み合わせることによって、イノベーションを起こした好例ですね。

編集2.0:安定経営のワークマンはなぜ顧客拡大を狙ったのか

田中 続いて、「編集2.0」。人の編集です。

ここでは、ワークマンを事例に挙げます。ワークマンというと、もともとはブルーカラーワーカー向けの作業服などを売るお店です。それが最近は「ワークマン女子」というように、客層を広げています。

キーマンは、専務の土屋哲雄さんという方です。ワークマンは、ずっと安定した経営を行っていた会社でした。まず、競争相手が少ない。それに、仕事に必要なものですから、多くのお客さんが定期購入をしてくれます。また、作業服なので流行もあまりない。さらに株主も長期保有している個人株主が多く、あまり経営に対して意見をされない。サプライヤーとも長期取引をしていて、供給が途切れる心配もない。そういう意味で、ワークマンはいわゆるアパレル業とは異なる性格を持っていました。アパレルのように流行を追ったり、売れ残りを大バーゲンしたりする必要もなかったんです。

しかし、株主市場の評価を表すPBRなどの指標を見てみると、あまり高くなかったのです。それは将来性が評価されていなかったからです。土屋さんは、この会社は環境に「過剰適応」をしている。そこを何とかしなければいけないと考えたそうです。

それでまず、客層拡大に着手しました。女性向けの商品やアウトドア商品を加えて、これまでとは違う客層をつかんでいきました。それから、データ経営です。社員に対しては、データをもとにした発言や施策を求めました。難しい分析をするのではなくて、エクセルで簡単にできる方法で、データを基準に考えるようにさせたそうです。

そうしてワークマンは、「第2のブルーオーシャン」を開拓していきました。これも『もしドラ』のように、違和感ですよね。作業服を売るお店が、女性向けの服を売る。「編集2.0」の視点でも、現状を観察して価値を発見し、意外な提案に結び付けることが大事なんだと思います。

小早川 先生のお話をお聞きして、やはり力がなければイノベーションは起こせないと思いました。加藤さんは、『もしドラ』の前にもヒット作を連発していたんです。土屋さんも、役員としてワークマンに入社されています。「違和感のある企画だけど、この人が言うならやろう」という背景もあるかもしれません。ちゃんと会社に貢献した上で提案することが大事ですね。

編集3.0:住友不動産フルリフォーム事業の秀逸な仕組み作り

田中 では、「続いて編集3.0」。事業と企業の編集です。

事例は住友不動産。この会社には「新築そっくりさん」という、家のフルリフォームをする事業部があります。実は、住友不動産が始めるまで、日本にフルリフォームの独立したサービス業態はほとんどありませんでした。それまではお風呂やトイレなど、部分的なリフォームだったんですね。

新築の約7割の費用で、新築と同じように、さらに耐震基準にもかなった家に変わる。それも、2階をリフォームしている間は1階で暮らすというように、家に住みながら新しくすることができます。非常に好調な事業で、新型コロナ禍で少し落ち込みましたが、その後もずっと伸び続けています。

この事業が始まったきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災でした。震災では、たくさんの方が家屋の倒壊や家具の転倒による圧迫死で亡くなった。当時の社長である高島準司さんがそれを見て、何とかしなければいけないと考えたそうです。

耐震性があるというのはもちろん大事ですが、古い家を新しくするということが世の中で受け入れられた要因だと思います。家が古くなったとき、壊して新しく建てれば早いと思えますが、実際に住んでいる人にとってはやはり愛着があり、壊したくないと考える人もいます。

もう一つ、この事業のすごいところは、大工さんを育成する組織をつくったことです。リフォームのためには、新築とは違うスキルが必要だそうなんですね。それに一般的に大工さんはリフォームでなくて、新築をやりたがる。リフォーム専門のスキルを持った大工さんを自社で育成することで、競合が簡単には追随できない仕組みになっています。

「編集3.0」という視点で考えてみると、この事例も、まずは震災があって問題に気づいたという着眼点が大きい。もう一つが、大工を育成するという仕組み作りですね。こちらもすごく面白いポイントだと思います。

小早川 新規事業を始めるときには、自分たちのアセットやリソースのないところで考えてしまいがちですよね。最も良くないのは、経営者が自分の興味関心で既存事業と関係ない事業を始めてしまうこと。新しいことは、自分たちが得意とする場所でやるべきです。そうすると新しい組み合わせが生まれづらいということもありますが、住友不動産の例ではうまく組み合わせができていますよね。

編集4.0:シャッター商店街から復活した熱海市の取り組み

田中 「編集4.0」は、社会の編集です。編集のスキルを地域創生やSDGsといった、社会貢献に生かそうといった考え方ですね。

事例として考えたのは、熱海です。先日熱海に行くと、外国の方もいましたが、日本の若い人たちでいっぱいでした。以前は「熱海銀座」という商店街もシャッター商店街のようにさびれてしまっていたのですが、こんなに変わったのかと驚きました。

改革の中心となったのは、市来広一郎さんです。熱海の出身で、東京のコンピューター会社でしばらく働いた後に熱海に戻りました。20年くらい前から、熱海を何とかしたいという強い思いを持って活動されています。

普通に考えれば、シャッターが降りた店ばかりの商店街を活性化させようとしても、どうしようもないだろうと思えます。しかし市来さんは、熱海にはもっとポテンシャルがあると考えました。熱海にはいろんなカルチャーがあり、その一つが喫茶店です。熱海には温泉芸者がたくさんいて、夜に働き、昼間は喫茶店で時間を潰していた。それで喫茶店が発達したそうなんですね。そこに着目してカフェをつくり、熱海で出店したいという人を東京から呼んできました。

驚くべきは、市来さんたちの活動の成果として生じた、熱海銀座の地価の上昇です。2024年3月に公表された地価によると、熱海市が静岡県で一番の上昇率でした。それでたくさんの人がさらに熱海銀座に出店するようなムーブメントが起きたんです。

もちろん、一連の取り組みは市来さんだけでできるわけではありません。例えば、熱海の齊藤栄市長も協力的でした。彼は以前、国土庁(現・国土交通省)で働いていて、有能な人材を東京から呼ぶなど、市来さんたちの活動をサポートしてくれたそうです。

市来さんたちは、熱海の現状から復活のポテンシャルを見抜き、行政と協力して改革を実現した。もともとあったコンテンツをうまくつなぎ直したという意味で、「編集4.0」の事例になると思います。

小早川 都市開発は、まさに編集作業だと思います。いまはサスティナブルが大事にされるような時代背景もあって、新しいものをつくることにあまり価値が見いだされなくなっています。昔は都市開発と言えば大きな建物を造るものでしたが、古いものを組み合わせて新しいものをつくる、あるいは古いものにアートやテクノロジーといった新しいものを組み合わせることが大切にされるようになりましたよね。

ソリューションを「作る」ことが編集者の価値

田中 このように、事例とともに小早川さんのお話をまとめてみると、編集とは、単純に1と1を足す作業ではないんですね。どこに価値があるのかを探し、どのように組み合わせたら理想郷ができるのかと考えて、形にする。編集者は、そうした構想を持っているんですね。

小早川 私は、編集をデザインと対比させて考えています。デザインとは他人の頭の中を可視化することで、編集は他人の頭の中を言語化することです。デザインはいま、グラフィックデザインから社会や企業が抱える課題のソリューションとしての役割を持つようになりました。編集という側面でも、同じことができるはずだと思っています。

少しおこがましいですが、編集者こそ最強であると考えています。編集作業を大きく分けると企画と制作。この「制作」の部分がポイントです。

例えばコンサルタントは「このフレームワークでやってください」というように、クライアントに知恵は提供しますが、その施策を実行するわけではありません。一方で、編集者やデザイナーは、「御社の課題はこれで解決できます」と形あるもので納品できる。企画だけではなく、制作もできることが「編集」の優位性になると考えています。

先日大学で講義をしたときに、学生の方々に「編集者って何をつくる人?」と聞きました。私たちの世代では書籍や雑誌を想像する人が多いと思いますが、今の若い世代は動画なんですよね。

いずれにしろ、「編集」という価値の理解がそこに収まってしまっている。編集力という無限の価値を拡大解釈して、人と企業と社会に役立てたいと思います。そこで重要になるのが制作、「作る」ということなんです。

田中 広告のクリエイターも、例えばポイ捨てを減らすためにはどうすればいいのかを考えるなど、社会のソリューションを作る役割を持つようになっています。編集者も制作の部分を重要視することで、「編集者=クリエイター」という認識になってくるように思います。

小早川 編集者になるために、資格は必要ありません。未経験では難しいというイメージもありますが、そんなこともありません。例えばコンサルタントの人でも、営業の人でもいい。今日お話ししたような発想に興味を持ってくれる人であれば、どんどん業界に飛び込んでもらいたいと思います。

田中 今日のお話を通して、改めて編集にはたくさんのポテンシャルがあると感じました。人とは違う視点で現状を捉えることができるし、そこで見つけたものを組み合わせることによって、意外性のあるものを生み出すこともできる。そうした総合的な能力を持つ人を「編集者」と呼ぶことが、編集の可能性を高めることになっていくのだろうなと思いました。

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