「効率化」が生んだ分断を越えて。ものづくりの原点から見据える「世界」


「どんなに優れたデザインでも、それだけでは商品は売れないんです」。

株式会社アロットオブ代表取締役の立山善規氏はそう語ります。商品を売るために必要なのはデザインだけではありません。売り場を作る人、販売する人、物流を担う人、広報する人。それぞれが目線をあわせて初めて、お客様に商品が届く。この気づきが、立山氏の目線をプロダクトデザイナーからプロデューサーへと変えていきました。

2020年に立ち上げた自社ブランド「KIKIME」では、異なる産地や技術をつなぎ、さまざまな人と協働することで、新たな価値を生み出しています。その先には、課題を抱える日本のものづくりを支え、世界へ展開していくことを目指しています。


立山善規(たてやま・よしのり)

株式会社アロットオブ代表取締役。日本大学芸術学部デザイン学科卒業後、広告会社での広告制作、雑貨・副資材の企画・製造・OEM会社での商品企画開発・デザイン・営業を経験。2006年に株式会社Francfranc(旧 株式会社バルス)入社。雑貨全般と家電照明のMD・商品開発・VMDなどを経て、香港で海外調達・マーケット販売に携わる。2017年に株式会社アロットオブを設立。商品ブランディング、MD戦略立案から、商品企画・開発・デザイン・VMD・販売まで一貫した業務を行う。2020年に初の自社ブランドとして、「KIKIME」をリリース。

ものづくりに惹かれプロダクトデザイナーに

私がものづくりに興味を持つようになったのは、和菓子店を営んでいた母方の祖父母の影響が大きいと思います。幼少期からお店によく足を運び、年末には鏡餅づくりを間近で見ることもありました。ものが生み出されていく過程を見るのが好きだったんです。

ひと言でものづくりと言っても分野はさまざまですが、将来の道を考えるようになると、その対象も徐々に明確になっていきました。当時は携帯電話が急速に普及し始めた時期で、家電製品などのデザインに興味を持ちました。そこからプロダクトデザイナーの仕事に憧れるようになったんです。

一方で、学校の勉強では数学も好きでした。ものづくりには正解がありませんが、数学の世界でははっきりと答えが出る。どちらにも惹かれましたが、最終的にはプロダクトデザイナーを目指すことに決めました。

高校卒業後は芸術大学のデザイン学科へ進み、就職活動では家電のプロダクトデザイナーを目指しました。しかし、就職氷河期だったこともあってなかなかうまくいかず、最初に入ったのは広告制作会社のプロダクトデザイン部門です。ただ、入社後半年で部門の責任者が休職となり、部門は解散状態に。会社からは広告制作の道を提示されましたが、プロダクトデザインがしたかったので退職することにしました。その後、第二新卒として転職活動を始めましたがこれも苦戦して、日雇いのアルバイトを続けていた時期もあります。

ようやく転職が決まった先は雑貨のOEMを手がける会社です。そこでは、商品やノベルティのプロダクトデザインや営業を担当しました。おかげさまで営業成績もよく、充実した毎日を過ごしました。 ただ、次第に自分の仕事の「その先」が気になるようになっていきました。ノベルティグッズは、クライアントに納品すればそこで仕事は完了です。自分がデザインした商品がどのように売られ、お客様の手に届くのか、その過程まで見たいという思いから、小売りに興味を持ちました。

商品が届く仕組み作りも「デザイン」

香港のオフィスから臨む景色

転職活動の末、入社できたのが株式会社Francfranc(旧 株式会社バルス)です。当時は社内が商品部とデザイン部に分かれており、私はプロダクトデザイナーとしてデザイン部に配属されました。しかし入社から1年ほど経った頃に、家電・照明のバイヤーとして商品部に異動することになります。

キャリアの転機となったのは、MD(マーチャンダイジング)を任されるようになったことです。商品の企画だけでなく、販売計画や生産管理までを担当するようになり、視点が大きく変わりました。商品企画では「どう作るか」を中心に考えますが、MDの仕事では「何を、いくつ作り、どう売るか」を考えます。デザインというひとつの領域だけでなく、事業全体を見渡しながら判断する機会が増えていきました。

その後はテーブルウェアを担当したり、香港での商品開発に携わったりと、さまざまな経験を積ませていただきました。最終的には、Francfrancが国内外で取り扱う雑貨全般を統括する立場にもなりました。

こうした経験を通して実感したのは、どれだけ優れたデザインの商品を作ったとしても、それだけでは売れないということです。小売業では商品開発、販売員、広報など、多くの人が関わっています。それぞれが同じ目標を持ち、目線を合わせて初めて商品は売れる。商品を企画するときも、自分だけがいいと思うものではなく、関わる全員が売りたいと思うようなものを作らなければなりません。

かっこいいものや機能的なものを作ることだけがデザインではありません。人と人をつなぎ、商品が届く仕組みそのものを設計することも、デザインの役割と言えます。

香港にいた当時、知人経営者の会社の事業承継の相談を受けました。この会社は債務を抱えていて、私が引き継ぐことはありませんでしたが、このことがきっかけで独立を考えるようになりました。そして、小売業のなかで経験できることを一通りやりきったという思いに至ったとき、自分の会社を立ち上げることに決めたんです。

作ったものを自分たちで届けたい

プロダクトブランド「KIKIME」

2017年に独立した当初はクライアントワークが中心で、生活雑貨のブランディング・企画・開発からアートディレクション、ECサイトの設計まで手掛けていました。商品の企画だけでなく、お客様に届ける仕組み作りまで担っているのが特徴です。

ありがたいことにさまざまなお仕事をいただき、事業のスタートは順調でした。しかし、クライアントワークでは商品作りには携われても、その商品がお客様に届く最後の部分には携われないことが多く、物足りなさも感じていました。農家が八百屋も営むように、自分たちが作ったものを自分たちでお客様に届けたかったんです。

そこで創業から3年後に立ち上げたのが、プロダクトブランドの「KIKIME」です。「等身大の暮らしの中に、心地の良い“効き目”をもたらすものづくり」というコンセプトで、食器や花瓶などの日用品を作っています。

KIKIMEでは、私はプロデューサーという立場をとっています。消費者目線を大切にし、一歩引いた場所からブランド全体を客観的に見渡せるように、あえてプロダクトデザインはしていません。ものづくりに関わる人と人をつなぎ、同じ目線で商品づくりができる環境を整えることに尽力したいと考えています。

テーブルウェアを選んだのは、世界に通用するブランドに育てるためです。海外で評価されている代表的な日本製品は、食に関わるもの、ヘルスケア商品、そして肌に触れる製品です。その中でも、食という領域はなくなることがありません。和食はユネスコ無形文化遺産に登録され、世界的にも注目されています。そこに照準を定めました。

産地や素材の掛け合わせが新たな価値に

「amime」シリーズ

海外での経験を通して、日本のものづくりのレベルは高いと再認識した一方で、日本には各地に伝統工芸や技術が残っているのに、それらが分断されているとも感じていました。異なる産地同士の協業は、かつては珍しいことではありませんでしたが、現在はほとんど行われていません。

理由のひとつは、不良品が出てしまったときに責任の所在が曖昧になるからです。利権問題も絡んでくるため、関係者が多いほどハードルが高い。Francfrancでも何度か同様の企画が持ち上がりましたが、実現には至りませんでした。

当社のような中小企業が存在感を発揮するためには、大手企業にはできないものづくりに挑戦する必要があります。そこでKIKIMEでは、異なる産地や素材をボーダレスに掛け合わせた商品をプロデュースしています。

産地や素材選びでは、それぞれの強みを客観的な視点で捉え直し、「なぜこの産地なのか」という意味付けを大切にしています。そうして各地の工場に掛け合い、産地同士をつなぐことで、単独では生まれない新たな価値を提案できます。さらに、各産地の技術や特徴を生かした設計にすることで、その産地だからこそ可能なものづくりにつながります。

たとえば「amime」という丸皿は、日本一の陶磁器生産量を誇る岐阜県土岐市の美濃焼と、金属加工の街として世界的にも知られる新潟県燕市の網を融合したデザインです。半月形の金網がプレートにぴったりと合う。釉薬の調合、焼き上げる際の収縮率など細かな調整を施し設計したもので、職人たちの技術が宿っています。

「売れるもの」より「長く使い続けられるもの」

東京・東上野に構えるKIKIME直営店

KIKIMEでは、あえて「売れるものを作ろう」とはしていません。テーブルウェアの世界では、飯碗や汁椀、ペアセットといったギフト商品には一定の需要があります。しかしその市場を狙えば競合も多い。売れている商品を追いかければ、どうしてもどこかの会社が作った商品を参考に、機能を加えるか、価格を下げるかという発想になりがちです。

実際、多くの企業がそうした戦略を取っています。しかし、それでは新しい価値は生まれません。企画そのものを考えない企画者が増えているのは、業界の課題とも言えます。

私が売れることよりも大切にしたいのは、長く使い続けられる商品を作ることです。現在、日本のものづくりの現場は、原材料の高騰や後継者不足などさまざまな課題を抱えています。その大きな要因のひとつが、コストカットを前提としたものづくりです。

本来であれば商品開発は、使う人にとって最適な形は何か、どのくらいの容量が使いやすいかといった視点から考えられるべきです。ところが現実には、どうすれば安く作れるかという生産効率が重視されてしまうことが少なくありません。

大量生産・大量消費の時代では、壊れたら買い替えることが当たり前となり、日本の美徳でもあった良いものを長く使う文化も失われつつあります。コスト優先のものづくりは、品質の低下や技術継承の停滞につながり、結果として日本の技術力そのものを弱めてしまう可能性があります。そんなものづくりは、誰も幸せにしないんじゃないかと、私は思います。

Francfrancの創業社長である髙島郁夫さんは、常々、原料高によって製造コストがあがったときも、コストを削るのではなく、その分の付加価値をどう商品に加えるかを考えるべきだと話されていました。

KIKIMEは、価格ではなく、価値で選ばれる商品を目指したい。たとえば「marumi」は、飲み物を注ぐだけで対流がおき、混ざりやすくなるという特徴を持つマグカップです。コーヒーにミルクを注ぐ際も、マドラーやスプーンが必要ありません。デザインの力によって新しい機能を生み出し、その価値を感じてもらいたいと考えています。 また、一度作ったら終わりではなく、商品を育て続けることも重要です。先ほどのamimeは現在3回目の型修正を進めていますが、それも長く使ってもらえる商品にしたいから。どうすればより使いやすくなるのか、お客様の声を聞きながら改良を続けています。

「体験」で商品の魅力を伝える

カフェで体験できる「marumi」

2025年にはKIKIMEの実店舗をオープンさせました。以前からずっと挑戦したいと考えていたことです。店舗にはカフェを併設しており、KIKIMEの商品を実際に体験できる場になっています。ECが発展し、実物を手に取らなくても商品を購入ができる時代になりました。しかし私は、商品とお客様が出会うアナログな場の価値は、むしろ高まっていると考えています。

カフェではmarumiのマグカップでコーヒーを提供しています。実際に使ってもらえれば、マグの口当たりや軽さ、丸みを帯びた佇まい、色味の柔らかさなど写真だけでは伝わらない魅力を感じてもらえるはずです。商品を見に来た人が自然とカフェを利用し、カフェを訪れた人が商品にも興味を持つ。今は人と商品をつなぐ場づくりを模索しているところです。

KIKIMEは今年6年目を迎えました。ありがたいことに表参道のMoMA Design Storeや渋谷のロフトをはじめ、日本各地のセレクトショップや小売店、さらには海外の店舗でも取り扱っていただけるようになっています。

立ち上げ当初と変わらず、目指すは本格的な海外進出です。そのひとつの到達点として考えているのが、海外に店舗を持つことです。日本のさまざまな伝統工芸や技術をつなぎ合わせて生まれた商品が、国境を越えて多くの国や人に届く仕組みや流れをデザインしたいと思っています。

和食が世界中で親しまれ、「ラーメン」や「うどん」といった言葉が海外でも通じるようになりました。KIKIMEの商品名も、「amime」や「marumi」など日本語で付けるのが当社のこだわりです。商品名の日本語が世界中に広がり、日本の食文化やものづくりを象徴する存在になってほしい。これからも、KIKIMEを通して日本と世界をつないでいきます。

取材・文・編集:上野郁美

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