敏腕編集者が自著に込めたヒットの極意。すごい人、怖い人、面倒な人を制するコツ


9月にクロスメディア・パブリッシングより発売される『怪獣人間の手懐け方』。著者である箕輪厚介氏は、幻冬舎社長・見城徹氏、マルチに活躍する堀江貴文(ホリエモン)氏など、錚々たる人物のベストセラーを生み出した編集者として知られる。箕輪氏は、なぜ一癖も二癖もある各界のトップランナーから厚い信頼を得ることができたのか。「怪獣人間たちの手懐け方」から、そのエッセンスを語ってもらうと同時に、敏腕編集者による「売れる本作り」の極意を聞いた。


箕輪厚介(みのわ・こうすけ)

幻冬舎編集者。大学卒業後、双葉社に入社。『ネオヒルズ・ジャパン』を創刊し完売。『たった一人の熱狂』見城徹、『逆転の仕事論』堀江貴文などの編集を手がける。幻冬舎に入社後は、新たな書籍レーベル「NewsPicks Book」を立ち上げ、編集長に就任。『多動力』堀江貴文、『日本再興戦略』落合陽一、2019年一番売れてるビジネス書、『メモの魔力』前田裕二など次々とベストセラーに。2022年『死なばもろとも』ガーシーを出版。 自著『死ぬこと以外かすり傷』は14万部を突破。雑誌「サウナランド」は2021年のSaunner of the Yearを受賞。

AI時代だからこそ、個性際立つ怪獣人間が面白い

──今回、箕輪さんが『怪獣人間の手懐け方』という本を書こうと思った経緯から教えてください。

箕輪 この本は、編集部から「人間関係の気づかい力」の本を提案されたのがきっかけでした。人間関係で僕が語るとしたら、「クセのある人たちとの関わり方」というテーマだろうな、と。そこで、僕が日頃から親しくしている「怪獣人間」たちとの付き合う上で大切にしているマインドを語ってみました。

じゃあ、怪獣人間とは、いったいどんな人たちのことをいうのか。簡単にいえば、昭和の怪人みたいなイメージですね。黒幕、フィクサー、重鎮、大御所と呼ばれるような人たちです。ちょっと怖くてやばそうで、面倒くさくて近寄りがたい。でも、ものごとを大きく動かす実力や権力、発想を持っています。

今はAIやChat-GPTが登場して、あらゆるものが自動で生成されます。そんな時代だからこそ強烈な個性を持つ人たちとのコミュニケーションに面白みを感じたり、興味を持ってもらえたりするんじゃないでしょうか。怪獣人間という存在は特殊ですが、彼らとの付き合い方において学ぶことは、どんな人にとっても仕事やコミュニケーションで役立つ部分があると思います。

典型的な怪獣人間・見城徹氏からの学び

──箕輪さん自身が大きく影響を受けた、もしくは自身の成長につながった怪獣人間との付き合いにおけるターニングポイントはいつだったのでしょう。

箕輪 典型的な怪獣人間・見城徹さんとの出会いですね。見城さんとは、僕が双葉社の編集者時代に『たった一人の熱狂』という本を編集したのが最初です。そのとき強烈な印象を受けたのが、見城さんの異常なまでの本の売り上げへのこだわりです。これはもう執着といってもいいくらい。

見城さんは、出版直後から紀伊國屋書店の全店の販売情報をインターネットで公開する「パブライン」は、1時間に1回くらいチェックするんです。当時、僕の周りでそこまで細かく売り上げの数字を追いかける編集者なんて見たことがなかったので、その徹底ぶりには狂気を感じましたね。

本は発売直後から好調で売り上げは連日100冊超え。でも、それがある日、1日だけ99冊になってしまった日がありました。10万部のベストセラーなので、正直、紀伊國屋書店のたかが1冊なんて誤差の範囲です。それなのに見城さんは「うわ〜、99冊になってしまった!」とすごく落ち込んで…。

しかも、パブラインは数字をいったん集計した後に誤差が調整されることがあるんですが、その誤差のおかげで結局、99冊から100冊に増えたんです。そうすると、それを知ってわざわざ電話をかけてきて、「ミノワ、また100冊いったぞ!」と大喜びしてる(笑)。

ミリオンセラーを何冊も仕掛けたのに、1冊売れたかどうかにそこまで固執して一喜一憂するのが見城さん。その1冊への粘りこそがベストセラーを生んでいると実感しました。

──「怪獣人間」というと、大胆さばかりに目が向きがちですが、1冊という細かい数字にそこまで固執できるかどうかも、普通の人とは大きな違いですね。

箕輪 僕の知るすべての怪獣人間は、大胆さと緻密さを兼ね備えています。ホリエモンしかり、ガーシーしかり。結局、みんなミリ単位で執着して緻密に細かく見ているから、その延長線上で常人の予想を超えた大胆なことができる。本人たちの中では、それが一本の線でつながっているんです。綿密さのない大胆さは、ただの子どもの派手な遊びです。

怪獣人間の世界で得たメリットとは?

──怪獣人間と交流を深めることで、箕輪さん自身にはどんなプラスがありましたか。

箕輪 怪獣人間と付き合うメリットは大きく2つあります。

まずひとつは、誰よりも早く、めちゃくちゃいいビジネス案件をキャッチできること。例えば、ビッグモーターの元幹部の方の本を8月に出版したり、選挙で当選した直後にガーシーの本の予約をスタートしていたり。

なんでそんなに早く本が作れるの? とよく聞かれますが、怪獣人間的な世界ではあらゆる情報や人、面白いことが流通しているんです。そうすると普通の人より1年くらい前に、「こういう面白いことがおきるな」とか「こういうことが流行しそうだな」というのがキャッチできる。これはビジネスチャンスとしては大きいですよね。

2つめは自分自身の成長です。怪獣人間の身近で、彼らの決断力、スピード感、大胆さ、緻密さを目の当たりにしていくうちに、自分の基準もそれが当たり前になり、僕自身が大きく成長しました。

人って勝手に自分の能力の限界値を設定して、自ら成長を止めてしまう罠に陥りやすいんです。周りの人の平均値に自分を合わせてしまう。10万部の本を作る人がいちばんすごい先輩だったら、自分が100万部を出そうなんて発想すらおきない。目標は10万部止まりになってしまう。でも、ミリオンセラーをバンバン出す人が周りにいれば、自ずと自分もミリオンを出すんだと思って、必然的にマインドも行動も変わってきます。

怪獣人間と付き合う極意、「興味・目的・核」の三角形

──『怪獣人間の手懐け方』では、怪獣人間との付き合いにおいて大切な「人間関係の三角形」があると語っています。これは具体的にどういうことですか。

箕輪 「人間関係の三角形」とは、「興味・目的・核」という3つのこと。これは、怪獣人間はもちろん、普通の一般的な人付き合いにも通じるものだと思います。

まず大事なのが、「興味」です。僕が怪獣人間に惹かれる理由は、彼らに興味があるからということに尽きます。僕自身がその人に興味がなければ、いくら怪獣人間でも付き合うことはできないでしょうね。

興味があるから、例えばその人が変なことで怒っていても、「なんでこんなことで怒っているんだろう、おもしろいな…」と思えちゃう。そうすると自然に一定の距離を持って相手を俯瞰して観察することができるんです。

逆に相手との関係性に深く入り込みすぎるのはよくないですね。変なことしているなと、ちょっと笑ってしまうくらいの距離感があるほうがいい。その距離感や俯瞰する感覚は、自分の「核」を持つということにもなる。どんなに強烈な怪獣人間の側にしても、あくまでも「自分は自分」だということは忘れないこと。それがないと相手に飲み込まれてしまい、結局、関係性もうまくいかなくなります。

三角形の「目的」は、なぜ相手と付き合うかということです。僕が怪獣人間と付き合う理由は、ビジネスチャンスが得られること、自分が成長できることだというのは、お話した通りです。では、怪獣人間たちはなぜ僕と付き合うのか。それはやはり箕輪厚介という人間にメリットを感じてくれているからだと思います。「箕輪に頼めば、売れる本を作ってくれる」「世の中に大きなインパクトを与える面白いものにしてくれる」──。そういう僕に対する信頼や期待値、つまり彼らも僕と付き合う実利的な利という目的があるということです。

原石に当てる光の角度を考えるのが編集者の仕事

──話題となる本を次々と手がける敏腕編集者としての箕輪さんの本作りについてもお伺いしていきたいと思います。箕輪さんにとって編集者の仕事とは、どのようなものですか。

箕輪 編集者の仕事をひとことでいうと、本を作ることですが、そこで大事なのは売れる部数でなく、誰にどれくらいどのように届けるかを考えることです。著者はなかなか客観的に見ることができないので、編集者が見極めていきます。

一方で、本質的には原石にどういう角度で光を当てられるか。それこそが編集者の仕事。同じ原石でも、光の当て方次第で見え方はまったく違ってきますからね。悪いものでも良くなるし、良いものでも悪くなる。そこを自分なりのやり方で世の中に提示していくことだと思います。

今の世の中、いろいろなルールがうるさくなって、「あれはダメ」「これもダメ」ということが多くなっていますよね。でも、編集者はそれと逆でいかに「この考え方もアリだよな」と発想できるか。それがゼロベースできることが大事だと思います。

──そんな箕輪さんが考える「売れる本作り」の極意とは何ですか?

箕輪 本というのは大きく2つのジャンルに分かれます。ひとつは「表現」としての本。小説やエッセイで自分が表現したい世界があるなら、売れる・売れないは二の次でいい。こうすればいいという正解はないので、自分と徹底的に向き合って、自分のやりたい表現を突き詰めることが重要です。

もうひとつは「表現」ではなく「生産」としての本。実用書やビジネス書は伝わらなければ意味がありません。世の中に価値ある情報を提供することが重要ですから、そのいちばん強い核を掘って掘って掘りまくることが大切になってきます。余分なものはどんどん削ぎ落として、「これが言いたいんだ」ということをどれだけシンプルに提示できるかが勝負になってきます。

ですから、まずはそのどちらの本なのか見極めて、どちらの方向で出版するかを決めることが大事ですね。

差別化を考えるより自分の言いたいことを掘りまくる

──世の中に価値を提供したいと出す本は、シンプルであればあるだけいいということでしょうか。

箕輪 売れる本って、帯にごちゃごちゃ書いてない本なんですよ。それはつまり、わかりやすくて、ひとことで表現できる本ということなんですね。

特に初めて本を書く人は、いろいろ盛り込みがちで、「結局何がいいたいの?」となってしまう。まずは言いたいことをひとつだけ残すとしたら、何なのか。それがつまり、タイトルになっていくと思うんですが、それを突き詰める作業を徹底したほうがいいですね。

秋元康さんが「記憶に残る幕の内弁当はない」ということをよく言ってるんです。「たくさん具が入っていたあの幕の内弁当おいしかったな」と思い出すことはなくて、梅干し1個だけの日の丸弁当のほうが「あの梅干しが本当においしかった」という記憶に残るということ。だから、その梅干し1個にあたる部分をいかに選び取れるかが大事になってくるんです。

シンプルさを突き詰めると、世の中に出ているほかの本と言っていることが同じになるようなら、それはもう出版する意味がない本。無理に差別化しようと、マヨネーズや醤油をかける必要もない。そんな小手先の差別化をするくらいなら、原点に戻って言いたいことをもっと掘り下げるべきです。掘り続けた結果、自分のオリジナルの視点が見えてきたら、それをとにかくシンプルに伝えるのが、結果的にいい本になっていきます。

そこの核となるシンプルな部分さえ見つかれば、編集者がそれを多くの人に伝わるようにパッケージングしていく。ベストセラーになった『伝え方が9割』(佐々木圭一著・ダイヤモンド社)なんて、まさにその典型例ですよね。コミュニケーションは話す内容よりも伝え方なんだ、という視点が新しくて、大勢の人に刺さった。

本を出すというのは、自分をとことん掘り下げる作業で、それってすごく良いことだと思うんですよ。本って話し言葉にすると20時間以上のものを、テーマ分けし、論理構造を明確化し、順序立てて構成していく。そして、その中で必ず話し言葉では見落とされる小さな矛盾や論理破綻、説明の浅さや結論の弱さにぶち当たる。そこでいったん挫けそうになって再び書き直すときに思考が一段深くなり、自分自身も最初に見えてなかった論に辿り着く。

この深化を繰り返し書いていくから、情報濃縮度は動画や音声の比ではなくなる。活字が原液で動画や音声はソーダ割りや水割り。たしかにハイボールのほうが飲みやすいが熟成されたウィスキーがないと美味しいハイボールは飲めない。

言語化することで、自分の考えていることが改めて把握できるから、自分自身やビジネスのアクセルを踏むことにもつながっていく。そういう点でも、自分の本を出すということはその人にとって大きな価値になると思います。

怪獣人間の手懐け方

著者:箕輪厚介
定価:1738円(1580+税10%)
発行日:2023年9月21日
ISBN:9784295408796
ページ数:304ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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