業務改善のネックはシステムではなく「人」?みんなの足並みを揃えるための3つのポイントとは


所属する会社や組織が「今より働きやすく、良くなってほしい」。誰もが願うことですが、その実現への障壁は低くありません。組織内のルール・慣習・人間関係……。富士通で業務改善のキャリアをスタートし、現在も数多くの企業への業務改善支援を行う、業務コンサルタントの元山文菜氏。組織に蔓延する業務改善の壁とその乗り越え方を聞きました。


元山文菜(もとやま・あやな)

株式会社リビカル代表取締役。業務コンサルタント。
大学卒業後、株式会社サクラクレパスに入社。その後、富士通株式会社に転職。2017年に独立し、現在の株式会社リビカルを設立。2021年11月(株)医療デザインラボ代表。医療に特化した業務コンサル会社を設立。障がいや難病女性向けのNPO運営の顔ももつ。
「多様性×業務改善で、はたらくを楽しむ人を増やしたい」をテーマに、業務や組織構造の再設計を手がける。個人や企業にとっての「価値ある時間の創出」「経営資源の拡大」を支援。これまで、DX推進、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)やRPA導入支援と、個々人に対する時間管理術の改善をあわせて実施することで、組織への生産性を最適な手段で向上させる。そのほか、業務プロセス改善、タイムマネジメント、ダイバーシティマネジメントをテーマにした講演活動も精力的におこなっている。

――業務改善の仕事を始めたきっかけは何だったんですか?

元山 最初から明確に「業務改善のお手伝いをしたい!」と志していたわけではなくて、以前に所属していた富士通で、業務改善を担当したことが始まりです。

また、私は足に障がいがあったので、富士通で働きながら、障がいを持つ方への支援を行うNPOにも所属していました。そんな中、2016年にブラジルのリオデジャネイロでパラリンピックが開催され。2020年の東京でのパラリンピックの開催も決定。障がいを持つ方が懸命に頑張る姿を見て、「自分が本当にやりたいことは何だろう?」と考えるようになりました。そうして自分の中で、NPOの活動の意義が大きくなってきていました。

そこで富士通を退職して、NPOの活動を主軸に置こうと思ったのがきっかけです。最初は全然うまくいかなくて途方に暮れていたんですが、政府が「働き方改革」を推進するようになったこともあって、富士通でやってきた業務改善のご依頼をいただくことが増えてきたんです。それが今も続いている、という感じですね。

富士通で働いているとき、産休や足の障がいでお休みをいただいて感じたのですが、当時は働き方をサポートする仕組みが未成熟で、「どこでも・だれでも働ける」という状況とは程遠かった。そうして、社会や組織の仕組が多様な人材活用を前提として作られていれば、もっと多くの方が活躍できるのではないかと考えるようになりました。私の得意分野を活かしながらこの状況を改善していけば、障がいを持つ方々への支援にもなる、と気づいたこともきっかけの一つですね。

――業務改善を行う上で、業界・規模を問わず共通する難しい点はありますか?

元山 先ほどお話した内容にもつながるのですが、みんな「ムダなことはしたくない」と思っているんですよね。だから会社や組織に対して「変わってほしい」「良くなってほしい」と考えている。

ただ、同時に組織が大きく変わっていくなら「人」も変わらないといけない。つまりみんなが「自分も変わらないといけない」と感じる必要があるけれど、そこに目が向きづらいところがあるのかな、と思います。

いくら仕組みを整えても、最終的には個人が変わっていかないといけません。結局、業務改善の一番のネックは人なのかも……と感じます。ロシアの文豪トルストイの言葉に、「誰もが世界が変わることを望んでいるが、自分自身を変えるは考えていない」というものがあります。規模は違いますが、言っていることは同じですね。

今まで続けてきていて、しかも成果が出ていたことを変えるのは、しんどいことですよね。「それで今と同じくらい成果が出るんですか?」「変えたことで、かえって自分の業務が増えませんか?」という意見も理解できるんです。私もそう思っていましたから。

ただ、効果的な業務改善のためには、一人ひとりがやり方を変えて、業務全体としての労働コストを減らしていく必要があります。そこのニュアンスを、抵抗感なく理解してもらうのは簡単なことではありません。

業務改善の問題が深刻なのは、あまり時間が残されていないことにもあります。日本の労働人口はドンドン減っているし、いろいろな国の優れた企業が市場に参入し、日本企業の競争力も落ちてきている。個人の「好き嫌い」「面倒くさい」に足を引っ張られてるい場合ではないのかもしれません。

イギリスの歴史学者・政治学者であるシリル・ノースコート・パーキンソンが説いた、「パーキンソン」の法則というものがあります。当時の行政組織を研究する中で考えられた組織・運営と人間の心理作用であり、その第一法則では、「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」と説明しています。仕事の量は、その必要性に関わらず、リソースがある分だけ増えていくのです。

不思議なもので、そこに10人いたら、10人に振り分けられるように仕事は分割され増えていきます。業務改善のためには、まず業務全体の「見える化」をして、適した流れに業務を配置し直す。これが原則なんですが、そこにも人の感情が絡むので難しいですね。

――業務改善を行うとき、コツのようなものはありますか?

元山 一つ目が「テンションの上がらないゴールを立てない」ことです。

「生産性向上により残業時間を20時間短縮!」みたいにしてしまうと、うまくいかないケースが多い気がします。それによって悪影響を受ける人がいたり数値目標に関係がないと思われる要素が排除されたり、非協力的になってしまう人がいたりするからです。これは、新型コロナで働き方が多様化してから顕著に感じます。

「自社の仕事がラクになって、クライアントが超ハッピーになる仕組みをつくる作成をつくる」とか「仕事を楽にして金曜日の15時からは各自インプット時間にする」「ツライ仕事を減らして、やりたかった○○事業を立ち上げる!」のように、ポジティブな気持ちになれるゴール設定をする企業さんのほうが、業務改善を楽しみながらできる場合が多いです。

二つ目のポイントが「抵抗勢力の気持ちも否定しない」ことです。

業務改善のノウハウの多くが、改善を妨げる要素の排除や攻略に終始し過ぎているように思います。反対する人が多いと、当然業務改善も進めにくくなります。なぜ反対するのか、どの辺りがネックになっているのか、最初に業務の棚卸しと一緒に「気持ちの棚卸し」をすることがすごく大事です。これも「人」に起因する部分ですね。

とはいえ、人の考えを変えることはできません。そこで、抵抗する方を排除したり攻略したりしようとすることに時間を使うのではなく、協力的な方や中立な立場の方を盛り上げて、業務改善で成果を出すことを心掛けます。そのうち、抵抗している方が少数派となり、動かざる得なくなる瞬間が来ます。

三つ目のポイントが、「外からの視点を取り入れてみる」ことですね。

業務改善には、必ず変化の痛みが伴うんです。今まで慣れ親しんでいたことを捨てて取り組まないといけないこともあるし、これまでとは違う業務が発生することもある。そこで、社内だけで改革や改善を行おうとすると、争いの火種になります。

そういった時に、私たちのような業務改善のコンサルタントや、書籍を頼りに進めるのも一つの手です。そうすることで、「なんか、ウチのやり方よりもっとラクできる方法があるらしいよ……?」と、外部からの意見として伝えられます。身近で働いている同僚に「あなたのそれムダだから変えましょう」と言われて反感を抱くのは当たり前。拙著(『無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた』)には、書名の通り職場の100個のムダを書きました。ぜひ、本のせいにして、アプローチしてみてください。

――今後、どんなことにチャレンジしていきたいですか?

元山 企業や病院、自治体の働き方を改善していくという試みは今後もしていきたいと思うけれど、同時に一人ひとりの働き方や生き方をより良い方向へ変えていく、ということにも興味があります。

私自身「こうあるべき」「これが普通」というのが苦手で、誰もが「それもいいじゃん」と言い合えるような生き方・働き方ができたら良いなと思っています。業務改善もその支援の一端を担えると思っています。

便利なアプリやシステムは日々増えています。でもなぜか人々は疲労困憊……みたいな状況を、少しでも改善して「あなたらしい生き方」「私らしい働き方」を提案できるようにしていきたいですね。

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