すべての出会いを「運命」に変える。自分の可能性を最大限引き出すために


高級美顔器の開発・製造・販売を行うA. GLOBAL(エー グローバル)。代表取締役の金松月氏は、経理スタッフとして入社。前社長に才能を見出され、会社を急成長させていきます。新型コロナ禍の危機を乗り越え、中国アリババの越境EC「T-Mall Global」では3年連続年間売上1億元超えを達成。その背景には何があるのか。「運命」をキーワードにひも解きます。


金松月(きん・しょうげつ)

A. GLOBAL代表取締役
中国吉林省出身。中国で高校を卒業後、日本へ留学。白鳳女子短期大学卒業後、朝日大学へ転入したが、帰国・結婚のために中退。再来日を果たす。ARTISTIC&CO.創業者の近藤英樹社長と出会い、経理社員として入社。展示会での大型受注を機に海外事業を任されA. GLOBALを設立。2年で年商156億円を達成。近藤社長急逝に伴い、2021年3月より同社代表取締役に就任。著書に『経営を成功させる“運”の磨き方』(クロスメディア・パブリッシング)がある

出会いが「運命」になるかは自分次第

運命の出会いというと、特別なもの、滅多にないものと考えがちですが、私は、世の中のすべての出会いは「運命の出会い」だと思っています。今の会社に出会ったのも運命ですし、仕事も出会いから生まれてくるものです。

例えば、中国から日本に来て初めて働いた会社とのご縁は、飛行機の中での社長との出会いから始まりました。また、現在代表を務めているA. GLOBALとの出会いは、創業者である近藤英樹社長の中国語通訳を務めたのがきっかけでした。 ただし、そうした「出会い」が「運命」になるかどうかは、自分次第という側面もあります。運というものは、みんなに訪れるもの。その運をどうやって実力に変えるかが大事です。瞬間的に訪れる運をどうやって磨いていくか、それをどう自分のものにするか、結果に、自分の実力につなげていくかです。

社長が経理スタッフに見出した才能

私にとっての運命の出会いは、やはり近藤先代社長とのご縁です。私の才能を見出してもらい、チャンスをいただきました。

私は経理スタッフで入社したのですが、経理業務の傍ら、営業のサポートなどできることをやっていました。転換のきっかけは、入社半年後の展示会で中国のお客様を対応した際に、大口の契約を獲得できたこと。そこからより積極的に営業活動を行っていると、近藤先代社長から海外事業をすべて任せていただけるようになりました。

そして海外事業をメインで行うA. GLOBALを設立し、私は役員に就任。さまざまな取り組みをしながら、現在は売上156億円まで成長させることができました。

経理担当の1スタッフにすぎなかった私は、近藤先代社長にいただいたチャンスをつかむことができました。人は誰も、才能を生まれ持っています。でもその才能に自分では気づかないこともあるし、自分だけで才能を生かすことには限界があります。やはり、誰かに才能を生かしてもらえるということが、人の成長には大切なことだと思います。

「変化のとき」にチャンスが訪れる

誰でも、日々いろんな仕事をし、さまざまな方と出会います。その過程で、この人との出会いが運命になるのかを把握するのは難しいと思います。

そこで、私が意識しているのは、変化のときです。

運やチャンスを生かすには、タイミングも大切です。そのタイミングの一つが、何かが変化している状況だと思います。

変化があるときというのは、いつもと違うアクションを起こしても、周囲が受け入れやすい状況が多いと言えます。例えば新型コロナ禍であれば、「サービスの提供方法を変更します」と宣言しても、受け入れられやすい。普段だったら、「あれ、どうしたのかな?」と、変更の理由を考えてしまいがちですが、変化している状況であれば「そんなものかな」と受け入れることができます。

また、人は自分の楽な方向に流れがちですが、ピンチのときは底力を出すことができます。ネガティブな変化が起きたときこそ、チャンスです。「次どうするか」と考えれば、ピンチもチャンスに変わるのです。

どんないいことも、悪いことも、すべては時の経過とともに流れていくこと。何かが起きたら、「どうしよう、こんなはずはなかった」と思考停止してしまわないで、まずその状況を受け入れ、向き合うことが大事です。その中で最善の努力をすれば、自ずといい結果になると思います。これが、運をつかむこと、変化というピンチをチャンスに変えられることにつながると思います。

新型コロナ禍で流通ストップ。さらに偽物出現の危機

新型コロナ禍では、世界中が危機状況に陥りました。弊社でも、中国がロックダウンしてしまったことで物流が止まって免税店も閉まるなど、生産できない、出荷できない、販売できないという状況が続きました。日本に商品はあるのに、出荷できないのです。

そして追い討ちをかけるように、商品の偽物が中国で出まわり始めました。明らかに偽物だとわかるような価格ではなく、本物より少し安いくらい。お客さんや取引先も判断が付きません。

偽物を買ったお客様からは「品質が悪い」とクレームがきますし、ブランドとしての信用も落ちてしまいます。さらに、市場の価格が乱れる結果にもつながってしまいます。代理店からは、「出荷できないと言っていながら、安く横流ししているんじゃないか」と疑惑を持たれたこともありました。

これは本当にピンチな状況です。ですが視点を変えると、偽物が出る=「本物」がある証拠です。

まず、「弊社で扱っている商品の偽物が世の中にある」と発信しました。そして、本物と偽物の見極め方を伝え、お客様からは商品の動画や写真を送ってもらい、真偽判定もしました。偽物を購入してしまったお客様には、本物を買うときに使える割引券をプレゼント。それらの情報をもとに、再発防止策に取り組みました。

また、問題が発覚してすぐ、代理店が偽物と本物を区別できるようにするため、パッケージの箱を変えました。ですが、その時点ではまだ代理店のところに、以前のパッケージの商品在庫がある状態です。そこで、代理店が持っている商品を新しい箱に交換するサービスを行いました。「販売店のためにそんなことしてくれるメーカーさんは初めて」と驚かれましたが、そこまで徹底することで、代理店さんとの信頼関係も生まれ、結びつきがより強固になります。

顧客&在庫の情報が把握できるというメリットも!

このように、ピンチの中でも打てる手を考えることで、メリットも生まれてきます。

従来、お客様の情報や在庫の管理は代理店任せでした。弊社にお客様の情報はなかったのですが、真偽判定する際に会員サービスを作ることが必要になり、結果としてこちらでもお客様の情報を集めることができました。

その情報を元に、直接やりとりもできます。ブランドとして丁寧な個別対応をしっかり行うことで、「本物は違う」「あのブランドは信頼できる」という言葉もいただけるようになりました。

また、それまで代理店の在庫数を把握できていなかったところから、どれだけ在庫があり、市場にどれだけ流通できるかなどが数字として明確化できるようになったことも大きなメリットでした。

私たちにとって、偽物の出現は大きなピンチでしたが、チャンスでもあったと言えます。「ピンチは視点を変えればチャンスになる」ということが私の指針の一つでもあります。

どんなマイナス状況にも、必ずプラスの要素が生まれるのだと実感しています。

可能性を最大化させる3つの経営哲学

私は企業を経営する上で3つの哲学を大切にしています。

まず、相手にどう利益を生み出してもらえるかを考えるということ。

これは先代の近藤社長から教えていただいたことでもありますが、ビジネスの取引の中では絶対必要なものです。相手に利益がなければ当然その取引自体がうまく成立できないですし、取引を継続するためには、価値を与え続けないといけない。長くずっとお付き合いできるようにするためには絶対必要なことですね。

次に、取引先の方など、それぞれの特性に合わせた価値提供をするように心がけています。

例えば販売店さんの特性はさまざまで、物をたくさん売ることが得意なところもあれば、販売数は多くないけれどブランドのイメージを大切にして、お客様に丁寧に接してくれるところがあります。それぞれの特性に合わせた価値を提供し続けるように、心がけています。

最後に、お断りするときは、必ず違う提案をすることです。

特に日本では「断る=悪いこと」というイメージがありますね。でも、申し訳ない気持ちがあるからこそ、新しい提案ができるという面もあります。

先代の社長にも、「よくそんなこと断れるね、しかも新しい提案をするなんて」と言われたこともあります。

例えば、ある取引先に海外旗艦店の運営をお願いしていたものの、全体的なバランスの見直しでほかに任せたほうがいいという結論になったときのことです。「今回はこの店舗は閉めさせてほしい。でも、その代わり、こちらのブランドをお願いできませんか」と提案しました。

自分自身のブランドの成長や、相手の成長に合わせて戦略を変えていくことは当然です。ゼロから1へのスタート時期と、ある程度知名度が上がった段階では、サービス自体も、売り方も、提供する価値観も変わっていくものです。

お互いにビジネスの関係ですし、これからも一緒にビジネスをしていく関係性でもあるわけです。その事業単体ではなく、お取引全体としての目的が何かということを考えれば、断るということも、より価値のある継続的な取引をするための1ステップです。

そして、相手に合った違うビジネスの提案をしていくことで、それが結果的に相手の利益を生み出すことにつながります。「断られて終わり」では困るけれど、今までよりいい提案であればプラスに働くはずです。

「思いやり」が人と会社を結びつける

私たちが急成長できた背景には、多数のお取引先、企業様が集まり、それらが足し算ではなく、掛け算となってワークしたところが大きいと思います。

例えば、製造から販売まで1社だと大変ですが、協力工場や販売代理店さんなど、人も企業もすべてがチームとなる。元々バラバラの企業、人同士が掛け算になるためには、やはり人間的な結びつきや、目標に向かっての情熱が必要です。そして、そこに魂が宿るということが、加速するポイントだと思います。

私は「思いやり」という言葉が好きです。これは日本にしかない言葉です。思いやりこそ、人と人が掛け算してワークするために必要な要素だと思います。さまざまな企業、人が呼応しあい、協業していくためには、お互いが、相手にどういう価値、利益を生み出せるかということを常に考えて動くことが大事です

お客様、生産する方、販売する方など、それぞれに対して思いやりを持ち、相手にどういう価値を提供すべきなのかを真剣に考えることで、自ずと自分たちがどう動けばいいのか、やることも見えてきます。お互いがそう考えることで、全体が呼応しあい、心が通じ合い、魂が宿るのではないかと思います。

中国最大の越境EC「T-Mall Global」で3年連続売上1億元超

弊社は「T-Mall Global」で、3年連続年間売上1億元(約20.6億円)超えを達成しました。T-Mall Globalというのは、中国のECサイト「アリババ」のグローバル越境店舗です。

この背景には、KOLのライブコマースを積極的に展開していったことがあります。KOLとは「Key Opinion Leader(キーオピニオンリーダー)」の略で、専門的な知識を持った、その業界で権威のあるインフルエンサーのような人たちを指します。中国ではライブコマースがとても盛んで、KOLはかなり重要な役割です。

ライブコマースで売り上げるためには、ライブならではの感動をお届けすることが大事です。20万円ほどの商品を売りながら100万円の商品の抽選会をしたり、自社の製品だけでなく人気ブランドのネックレスをプレゼントしたり、ライブならではの演出をしました。さまざまな価値を感じていただけるようにして、一度来た人もまた来たくなるという工夫です。

このように、中国ではライブコマースがメインなので、そこを強化していますが、今年は新型コロナ禍も明けましたので、他の国にも積極的に展開していきます。

また、会社全体の取り組みとしては、「美と人の、可能性へ。」というコンセプトを大切にしながら、美の可能性、そしてより素晴らしい人材の創出を目指していきます。やはり、人の可能性は無限大。今後はそこもより伸ばしていきたいと思います。

経営を成功させる“運”の磨き方

著者:金 松月
定価:1628円(本体1480+税10%)
発行日:2022/10/21
ISBN:9784295407591
ページ数:192ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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