2019年の創業以来、「DXで日本の産業構造を変える」ためにDX実現の壁を越えるサービスを提供し続けるINDUSTRIAL-X。9割の企業がDXへの取り組みに躊躇する中、同社への依頼は増え続けている。同社のコンサルティングは企業・経営者の「わからない」を「やってみる」に変え、「やらない言いわけ」を消していく。小さくても光る企業を見出し、産業構造変革へのプラットフォーマーへと導くコンサルティング力の裏側には「生かされている」という眼差しから生まれる、「変わりたいけど変われない人たち」への想いと覚悟があった。
八子知礼(やこ・とものり)
1997年松下電工(現パナソニック)入社、宅内組み込み型の情報配線事業の商品企画開発に従事。その後介護系新規ビジネス(現パナソニックエイジフリー)に社内移籍、製造業の上流から下流までを一通り経験。その後、のちにベリングポイントとなるアーサーアンダーセンにシニアコンサルタントとして入社。2007年デロイトトーマツ コンサルティングに入社後、10年に執行役員パートナーに就任、14年シスコシステムズに移籍、ビジネスコンサルティング部門のシニアパートナーとして同部門の立ち上げに貢献。一貫して通信/メディア/ハイテク業界中心のビジネスコンサルタントとして新規事業戦略立案、バリューチェーン再編等を多数経験。16年4月よりウフルIoTイノベーションセンター所長としてさまざまなエコシステム形成に貢献。19年4月にINDUSTRIAL-Xを創業、代表取締役を務める。20年10月より広島大学AI・データイノベーション教育研究センターの特任教授就任。 著書に『図解クラウド早わかり』(中経出版)、『モバイルクラウド』(中経出版)、 『IoTの基本・仕組み・重要事項が全部わかる教科書』(共著、SBクリエイティブ)、 『現場の活用事例でわかる IoTシステム開発テクニック』(共著、日経BP社)、『DX CX SX』(クロスメディア・パブリッシング )がある。
「産業構造変革」の第一歩は、その覚悟を本気で伝えること
2022年4月に上梓した拙著の中で、私は「産業構造を次世代化する変革」への覚悟を述べました。これは弊社の社名を「産業変革」を意味する「INDUSTRIAL-X(Transformation)」としたときからの思いです。起業当初は私ひとりの決意でしたが、いまではその真意が伝わる言葉になりつつある手応えを感じています。
1つ目の手ごたえは「経営理念としての定着」です。弊社は設立から積極採用で社員を増やし、2023年10月時点で45人の組織になりました。皆、それぞれに実績を積み上げながらも、「産業構造変革」というキーワードとその実現へと向かうビジョンに共感して集まってくれました。
新たなメンバーたちに、私は経営者として、次の3つを約束すると伝えています。
・面白い仕事を提供します
・あなたたちが成長する場を提供します
・自分自身がバイネームで仕事ができるようにします
その上で、私から1つのお願いを伝えています。
「あなた自身が周囲に、産業構造を変革するビジネスをやっていますと、臆面もなく大真面目に言える仕事をしてください」
特定の会社のため、あるいは自己満足のための狭い視野、低い志なら、弊社でなくとも実現できるからです。この会社でなければできない仕事を、働き方をして欲しい。ひとりで起業したときの私の覚悟に共感し、自分の胸にも刻んでくれた仲間たちを通じて、この言葉は外へと広がりつつあります。
2つ目の手応えは「周囲からの反応」です。経営者として、私は銀行相手にでも「産業構造を変革する。この言葉を恥ずかしがらずに言いたい」と毎回話します。以前であれば懐疑的な目で見られがちでしたが、最近は「どうやら本気のようだ」と見方が変わり、身を乗り出して話を聞いてくれます。 組織化と、それに伴う売上の予測が数字としての説得力を持ちはじめたことはもちろんですが、弊社全体が持つ覚悟と本気が伝わり、弊社への「期待」が高まっているからです。
「やると決めたらやる」を提案するコンサルタント
私たちの覚悟は、弊社の顧客の意識も変えはじめています。
産業構造の変革を担うのは企業です。だから私たちコンサルタントの役目は、その企業が業界を変えうる可能性を持っているかどうかを見極めることにあります。
私自身には、見極めるためのコンセプトワークやアプローチの手法があります。それを社員に説明すれば「なるほど」と返事が返ってきます。しかし、マニュアルとしての理解では、いざ多種多様な企業や経営者を前にすると、実際にはなかなか機能させることが難しい。
さらに、企業の可能性を見極めるために必要なのは、事前のデータ分析や型にはまった評価だけではありません。そこには、「ある種のネタ」に対する嗅覚も大切です。
最初は「この会社には可能性がなさそうだ」と思った相手でも、議論を重ねていく中で「あれ?」と感じる瞬間がある。さらに進んでいくと、「あれ?」が「お!」に変わる。「この会社が特定の産業領域のプラットフォーマーになる可能性があるのでは?」という未来予測を可能にする判断力が磨かれていきます。
これを私は「実感値」と呼んでいます。
業界のトッププレーヤーであれば、当然実感値を強く感じることができ、見極めることも容易です。ただ、実際はそうした会社の数は少ない。規模は大きくなくても、何かの強みを持つ企業からも期待値を感じることがあります。その強みに集中投資し、ノウハウや技術を他の会社にもサービスとして提供できれば、会社が強くなります。そうして産業全体が強くなり、産業構造変革の一翼を担えるようになる未来も見えてくる。
このように、小さくとも「キラリ」と光る期待値を感じさせる会社が増えています。しかし、当の本人たちにはそうした自覚はありません。中には「いやいや、そもそも業界が斜陽産業だから」と諦めている会社も多い。「DXに商機がありますよ」と言われて関心を示す会社ですら、「予算がない」「セキュリティが不安」「人手がない」「戦略がない」という話になってしまうことがある。
しかし、それは数年前の私の姿でもあります。前職のコンサルティング会社を辞めたとき、起業する気などまったくありませんでした。何か実績を生かせる仕事への再就職を考えながら、とはいえ、それまで経験してきた仕事の延長線上ではない別の場所を探していました。
「何か糸口が欲しい」と藁にもすがる思いで、SNSでしか交流のなかった人たちにリアルで会って助言を求めました。その中の一人が、会うなり「八子さんは、自分の名前で仕事をするべきだ」と言ってくださったのです。
私は思いがけない話に「いやいや、とても……」とお茶を濁しました。しかし、毎月のように会うたびに同じことを言われ、8カ月も経つ頃には言いわけのネタがなくなっていました。
そこで初めて、自分は「動かない言いわけ」を考えていた、ということに気付きました。そこからは考え方を変え、起業を決意します。何をするべきか、それまで散々悩んでいたのに、意外にもすぐに道筋が見えました。
これまでの実績で培った強みを生かしたコンサルティングをやろう。しかし、これまでと同じことはやりたくない。だから、これまでと同じビジネスモデルのコンサルティングではなく、まったく新しいビジネスモデルをつくろう。それが、DX実行への躊躇をさせない包括的なDXサービス「Resource Cloud」です。
「Resource Cloud」は、「やると決めたら、やりましょう!」と顧客に向き合い、呼びかけ、寄り添う、弊社ならではの覚悟をサービスとして実現したものです。
いくつかのソリューションを月額課金でまとめて利用したい、あるいは初期導入費用を低くしながら長く使い続けることで確実にDXにつなげたい、というニーズに応え、結果が出るところまで徹底して支援します。
業態がデジタルかアナログかにかかわらず、あらゆる産業領域の企業にとって「戦略、人材、ツール、情報」すべてをDX実行のためのリソースと捉えました。弊社がDX実現のためのすべてのリソースを持つ「DXのプラットフォーム」と呼べるソリューションです。
子どもの頃の祖父母の言葉にあった覚悟の原点
私は子どもの頃ゲーム機を買ってもらえず、電機店にあったPC(当時は「マイコン」と呼ばれていました)にPC雑誌に掲載されていたゲームのコードを入力して遊んでいました。
その原体験を経て大学では工学を学び、現在のAI技術につながる情報処理や画像処理を用いた研究に携わります。卒業後は、たまたま推薦枠のあった松下電工(現Panasonic)に就職し、エンジニアになりました。
最初に配属されたのは、住宅施設に組み込まれるISDN機器の開発部門でした。いまで言えばIoTの走りです。しかし私の担当した回路は、需要はあってもつくればつくるほど赤字になる製品で、私はやりがいを求めて部署の異動を申し出ました。
次の部署では、高齢化社会を見据えた介護機器の新規事業に従事。そこは、これまでの研究開発の世界とはまるで別物の、人間を相手にする生々しい世界でした。エンジニア自ら、製品の問い合わせやクレーム、不具合への対応を行うのです。
私はその「生々しさ」に、これまでにはなかった手ごたえを感じました。電動の車椅子やベッドを利用する要介護者の方から直接話を聞き、それぞれにあったカスタマイズをする。そこで「クレーム」と言われていたものは、エンドユーザーの切実な課題でした。その1つひとつに向きあいながら解決策を見出す。すると、とても満足してもらえるし、ときには涙を流しながら感謝されることさえありました。
社会の中にある課題を見つけ、解決することが人と人との結びつきをよいものにする。それが連なって社会をよりよくしていくことにつながる。そうしたやりがいも感じながら、私は子どもの頃を思い出していました。
幼い頃、祖父母の家に行くのが楽しみでした。お小遣い欲しさもありましたが、敬虔なクリスチャンだった祖母との会話には、大人の世界を垣間見られるような特別なものを感じていたからです。
祖母はいつもこう私に言いました。
「あんた、生きてるなどと思いあがったらあかんよ。いつも、自分は生かされているんだと思いなさいね」
この言葉の背景には、祖父の言葉があります。かつて祖父がガンになり、一時は命の危険も覚悟するほどでした。その危機を無事に乗り越えられてから、祖父はある口ぐせを繰り返していたそうです。
「この人生はもう次の人生や。生きてるのではなく、生かされているんや。生かされているからには、いろんな世の中のために役に立つことをせんとあかん」
自分の技術と仕事に対する誰かの満足や感謝を身に染みて感じたとき、この祖父母の「生かされている」という言葉の価値が理解できたのです。この価値をもっと広めたい。しかし、エンジニアではできることに限界がある。私は松下電工を辞め、コンサルタントへの道を進むことを決意しました。
境目をなくすバランス感覚
学生時代の研究、エンジニアとしての開発、コンサルタントになってからの分析と目利き。物事や社会に対してさまざまな「ものの見方」を身につけてきました。そのたび、祖父母から受け取った「生かされている」という考え方が、私の奥底にあることを何度も気づかされました。粋がって大きな失敗をしてしまい、深い後悔や反省をしたときも、この考え方に立ち返って、少しずつ成長を重ねてきたように思います。
その中で得たのが「バランス感覚」です。相反する要素の間に生まれるものを見つけ、つなぎあわせることで解決するための着眼や思考です。
たとえば松下電工時代には、私は赤字を生む担当回路よりも、感謝される介護用品の開発に価値を見いだしていました。
しかしメーカーの事業として見た場合、回路単体で見れば赤字でしたが、その回路が組み込まれた住宅の制御システム全体で見れば黒字です。一方、私がやりがいを感じることができた介護用品は、個別のカスタマイズが多いために高いコストがかかる事業でした。ですが、これら住宅の制御システムも介護用品のいずれも、今では日本における重要な課題解決に必要なソリューション事業になっています。未来においては同価値だったわけですが、当時の私には、その未来が見えていなかった。
そんな私がコンサルタントになって最初にやってしまった大きな失敗は、ある企業の経営分析でした。
不採算部門の現場の声を細かく拾った私が出した結論は「全部、経営層のせい」でした。その提案書を見た上職が「八子さん。それで、この課題のソリューションは?」と聞くので、「経営層の交替です」と私は答えました。
「でもね、八子さん。その人たちが私たちのクライアントなんだよ」と諭され、私の提案書はほとんど書き直されてしまいました。私はただふてくされるだけでしたが、「それでは仕事にならない。八子さんがやりたいようにしたいなら外に出ればいい」と言われて猛省しました。
現場のことだけを最優先に思えば、私の結論は正しいとも言えるかもしれない。しかし経営と現場、そして会社全体を生かす未来を考えなければいけなかった。何より、コンサルタントとして自分が課題解決にかかわりたいのなら、我を通す意味はまったくなかったはずなのです。
そして、理想と現実の「バランス感覚」が必要だったのです。目の前の課題を狭い視野で捉え、我を張った理想論で解決するような提案に意味はない。なぜなら、誰も生かされないからです。 理想を見据えながらも目の前にある現実的な課題とあわせて広い視野で向き合い、その間にある境目をつなぎ合わせる。そのために自分に何ができるのかを、「生かされている」という言葉に立ち返りながら、何度も行きつ戻りつしながら考える。そうして私のバランス感覚は磨かれていったのです。
変わりたいけど変われない人たちに未来を見せる役割
どうやって課題を解決するのか。どんなふうに世界は変わるのか。そこにどんな効果が生まれるのか。コンサルタントの役目とは、耳障りのよい論理を説いたり、手厳しい批評をぶつけたりすることではなく、当事者すべてが共有できる未来の風景を説明することにあります。
私は、理想の未来に向けた目の前の課題への取り組みの必要性について、5年先、10年先のイメージを伝えて今からすべきロードマップを理解できるよう考えてきました。これは海外のコンサルティングにとっては主流の手法です。
常に、技術の入れ替わりと新たな技術のトレンド化がどう影響するのかを考えています。いま、主流になりつつある技術も、10年後には新たなトレンドに追い抜かれていきます。だから現在のトレンドへの投資が無意味ということではありません。将来の変化を含んで備えなければいけないという考え方を持つべきなのです。
私は、これからのDX実現における大きな課題は「変わりたくても変われない人」たちだと考えます。こうした人には2通りあります。
1つは、「変われない理由」が内的なもの、自己要因だとわかっている人です。このタイプは、「いつまでもそのままではジリ貧ですよ」「こちらに進めば道が開けます」と具体的に示し、やるかやらないかを自分で決める必要性を自覚してもらいます。その上で「だったら、やりませんか?」と提案。ときには鼓舞する言葉も効果的です。
難しいのは、「変われない理由」が外的なもの、他者要因になってしまっている人です。でも、解決策はあります。要因が「環境」ならどのように抜け出せばいいのか、要因が「ステークホルダー」ならどのように説得すればいいのかを洗い出せばいい。要因が「資金」ならお金の回し方を変えればいい。
つまり、他者要因だと思い込んでいる場合でも、自分が変わるかどうかを放棄している点においては自己要因であり、結局は言いわけでしかないことが多いのです。
ただ、そうは言っても他者要因とも言いたくなるような生々しい現実があるのも事実です。自己解決が難しいのは、経営者個人も企業でも同じこと。だから私たちコンサルタントが存在するのです。コンサルタントは、企業や経営を診る医者のような存在です。医者が患者を見捨てることなどありえません。 誰もが勝手に生きているわけではなく、互いに生かされています。そこに必要な存在になりたいですね。
DX CX SX
著者:八子知礼
定価:1738円(本体1580+税10%)
発行日:2022/4/1
ISBN:9784295406228
ページ数:328ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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