「家族が、ずっと元気でいられますように」。その願いを紡ぎ続けて32年。健康食品「あおつぶ」を販売する株式会社青粒は、「モロヘイヤブーム」に乗った急成長から、全事業赤字転落の危機に。2代目社長永原豊大氏は、「お客様に会いに行くこと」が転機になったと語ります。そこで見えた、創業者である父や母の想い、そして健康食品が提供する本当の価値とはーー。
永原豊大(ながはら・ほうだい)
株式会社青粒代表取締役社長
甲南大学卒業後、イベント企画・制作会社を経て、父親が創業した株式会社青粒に入社。各種新規事業の立ち上げに携わり、2019年に2代目として代表取締役社長に就任。
「モロヘイヤを通じて、愛があふれる健康人生100年時代を実現する」をビジョンとして、食を通じた真の健康づくりに取り組む。2021年、株式会社青粒の創業30周年の節目に主力商品「あおつぶ」のリブランディングを実施。現在は通販のみだった健康食品事業の卸販売に積極的に取り組んでいる。モロヘイヤ応援隊隊長。
父と母の「感動」から生まれたモロヘイヤ粒
弊社は1991年の創業から32年間にわたり、一貫してモロヘイヤを原材料とする健康食品の開発・製造・販売を行ってきました。
創業のきっかけは、創業者である私の父(現・会長)のもとに、親戚から「すごい野菜がある」と、モロヘイヤの加工食品が届いたことです。母と一緒に食べてみて、その素晴らしさに感動した父はすぐに事業化を決意。1991年の「ヤサイの日(8月31日)」に創業しました。
モロヘイヤは独特のヌメリがある夏の葉野菜です。その栄養価の高さから「野菜の王様」と呼ばれており、βカロテンはニンジンの約1.6倍、ビタミンEはケールの約2.5倍、鉄分はほうれん草の約3.7倍、カルシウムはいわしの約4倍も含まれています。
食物繊維が豊富なことも特徴です。食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があり、腸内環境を整えるためにはどちらも必要とされていますが、モロヘイヤは水溶性と不溶性の食物繊維がバランスよく含まれている貴重な野菜です。
当社の主力商品「あおつぶ」は、モロヘイヤ100%の健康食品です。粉末にしたモロヘイヤに圧力をかけ、モロヘイヤの粘りを生かして粒状に固めており、着色料、防腐剤、保存料などは一切使用していません。自然のものを自然のままに、完全無添加で提供するという徹底したこだわりは、人一倍食と健康に関心が高かった母の「家族に健康なものを食べさせたい」という想いからきています。
事業の多角化に失敗し、全ての事業が赤字に転落
創業の翌年には、テレビ番組で「健康野菜」としてモロヘイヤが取り上げられ、日本中でモロヘイヤブームが巻き起こりました。「あおつぶ」はその波に乗り、愛飲者が急増。売上は創業5年目で10億円、6年目で20億円と、うなぎのぼりに成長していきました。
ところが、ブームが去った2000年代以降は、売上が低迷してしまいます。モロヘイヤの国内生産量・出荷量も減少を続け、最近では「モロヘイヤを知らない、食べたことがない」という若い方が増えています。
売上が落ち込み、このままでは経営が立ち行かなくなると考えた父は、LED照明や水素水サーバーの開発・販売など、新規事業を次々に立ち上げました。
私は、東京でイベントの企画・運営をする会社で働いたあと、2009年に青粒に入社し、弟と一緒にLED事業を担当していました。いずれは会社を継ぐつもりではいたのですが、新規事業の多くは軌道に乗らず、2017年にはすべての事業が赤字に転落します。
ついには1億円もの経常損失を出し、追加融資も厳しい状況にまで追い込まれました。「このままではまずい」と考えた私は、父と経営課題を共有し、全事業の見直しを図りました。
私が担当していたLED事業では、お客様に会いに行くことをもっとも大切にしていました。お客様の生の声を聞くことで、ご要望にお応えできる商品づくりが可能になるからです。
電話注文やネット通販で販売していた健康食品事業は、お客様と直接会ってお話をする機会がほとんどありませんでした。そのため、私はお客様を訪問することにしました。結果的にこの行動が私の仕事観すらも180度変えることになりました。
「あおつぶ」が離れた母子を結ぶ
まずは100名を目標にお客様に会いに行くことにしました。アポなしで、いきなり訪問して会ってくれるだろうかという不安はありましたが、ほとんどのお客様は快く迎えてくださり、大変ありがたかったです。
そして、「あおつぶ」という商品が、私が想像していた以上に、お客様の人生になくてはならない存在になっていることに驚かされました。
ある70代のお母さんは、10年以上、息子さんと親子二代で「あおつぶ」を愛飲してくださっていました。息子さんは、「あおつぶ」を飲むようになってから、長年悩まされていた不調が改善したそうです。「息子がとても喜んでいるのよ。本当にありがとう」とおっしゃっていただきました。
その息子さんは実家を離れ、遠方に住んでいました。そこで、「息子さんのお住まいにも直接お送りしましょうか」と提案すると、お母さんは「いいのよ。なくなったらうちに取りに来てくれるから。そのときにいろいろ話ができるのが楽しみなのよ」と言うのです。
私は不要な提案をしてしまったことを反省すると同時に、「あおつぶ」が離れた家族をつなぐ役割を果たしていることがとても嬉しくなり、なんてすごい商品なのだろうと改めて感銘を受けました。
当時は、経営状態を悪化させた父に対する疑問が膨らんでおりましたが、お客様から感謝の言葉をいただき、改めて父がやってきたことの偉大さを実感しました。
お客様訪問では、一人暮らしをしている娘さんに「あおつぶ」を送っているお母さんや、逆に高齢になった両親に「あおつぶ」を送っている息子さん、20年前から家族全員で「あおつぶ」を飲んでいて、子供たちが独立したあとは、それぞれの家庭で飲み続けていると教えてくれたお母さんなど、さまざまな方に出会いました。
「ずっと、この子が元気でいられますように」
「ずっと、お父さん、お母さんが元気でいられますように」
母子の想いから生まれた「『ずっと』と『ずっと』を叶える」という当社のミッションが、お客様からの声として私の心に立ち上がり、魂が震えました。こんなふうに言ってくれるお客様をもっと増やしたい――。私のなかで会社を絶対に立て直すという決意が固まり、スイッチが入った瞬間でした。
創業30年のリブランディング
2019年には父から会社を継いで社長に就任し、本格的に経営に取り組むようになりました。「あおつぶ」の販売に集中できる体制づくりに舵を切るために、まずは拡大しすぎた事業の整理に着手したのです。事業ごとの損益を出し、利益が出ておらず、見込みがないものから撤退していきました。
当然、社内からは反対もありました。かなり揉めましたし、苦しかった。それでも2~3年ほどかけて事業の整理を進め、最大6以上あった事業を健康食品とLEDの2つに絞りました。
本業の健康食品事業でも、各商品の売上や粗利の構成比率などを算出して、重要度の低い商品は販売を停止しました。
そして、創業30周年を迎えた2021年には、「あおつぶ」のリブランディングに着手しました。経営者仲間に相談したところ、「ターゲット層の40~60代女性が手に取りにくい商品パッケージ、ブランドになってしまっているのではないか」という意見をいただいたのがきっかけです。
もともとの商品パッケージは、緑色のボトルに漢字で大きく「青粒」のロゴが入っており、「ケミカルなイメージ」「昭和な感じがする」といった課題がありました。そこで、自然のものを摂り入れているという健康感が感じられること、完全無添加でモロヘイヤ100%の商品をお届けしたいというまっすぐな姿勢ややさしさが伝わることをコンセプトに、デザインを刷新し、ホームページもリニューアルしました。
同時に、商品名も漢字の「青粒」からひらがなの「あおつぶ」に改名しています。創業時、「青汁の粒バージョン」という意味合いを込めて命名した父は、最初反対していましたが、完成したロゴを見て父も納得してくれました。リブランディングはお客様からの反響もよく、好意的な声をいただいています。
会社を引き継いだ者の使命
「あおつぶ」のよさを知ってもらうためには、その前提としてモロヘイヤの魅力を知ってもらう必要があります。そこで、モロヘイヤ専門ウェブメディア「モロヘイヤ効果研究所 モロラボ」を立ち上げての情報発信や、モロヘイヤの産地として知られる兵庫県上郡町と包括連携協定(通称:モロヘイヤ協定)を締結し、「モロ平野」と名付けた専用農園をオープンするなど、さまざまな活動にも取り組んでいます。「モロ平野」は千葉テレビの番組『ナイツのHIT商品会議室』に出演した際、お笑いコンビのナイツさんが命名してくれました。
現在最も注力しているのは、「あおつぶ」の販路拡大です。これまではほぼ直販のみでしたが、オーガニック食品やコスメのセレクトショップBiopleの全店舗、生活雑貨の専門店LOFTの一部店舗、ネット通販大手のAmazonや楽天などで取り扱いがスタートしています。また、伊勢丹新宿店のポップアップショップや健康・ナチュラル志向の高い方が集まるイベントにも出店するようになりました。卸販売の売上は前年比7倍以上になっており、手応えを感じています。
正直、リブランディングをした当初は、卸販売のことまでは考えていなかったのですが、商品パッケージを刷新したことで、20代、30代の若い女性に受け入れられやすくなりました。
女優さん、モデルさん、美容家さんのなかには、「あおつぶ」を愛飲していただいている方も多く、そうした方々がインスタグラムなどで紹介してくれたり、女性誌やファッション誌で「あおつぶ」が取り上げられるようになったりしたことで、新たなファンの獲得や年齢層の広がりにつながっています。
卸販売では、お店の方に販売を任せきりにするのではなく、私を含めた青粒の社員が可能なかぎり店頭に立つように心がけています。当社や「あおつぶ」のことをもっと知っていただきたいですし、お客様やお店のスタッフの方と直接触れ合い、生の反応を感じることで、その経験を仕事に活かしたり、自身の成長につなげたりしてほしいという思いがあるからです。
一時期は本当に経営状況がどん底でしたが、今期はようやく光が見えてきました。取り扱い店舗がさらに増えていくと、その相乗効果で通販の売上も伸びると予想しています。
今後も創業者の想いを大切にしながら、お客様と真剣に向き合い、「あおつぶ」を通じて、大切な人たちが「ずっと」健康で、笑顔あふれる世界をつくっていく。それが先代から会社を引き継いだ私の使命だと考えています。