ビジネス書著者が始めた小さな書店。「遊び」を大事にすることで可能性が広がる


ベストセラー『無敗営業』シリーズや『気持ちよく人を動かす』など、これまで累計10万部のビジネス書を世に送り出してきた高橋浩一氏。コンサルティング会社の経営者でもある高橋氏が、九段下駅の近くに5坪ほどの「かぴばら書店」を開いたのは、2023年2月のこと。出版不況といわれる昨今、人気を博すビジネス書の著者が自ら書店をオープンさせた裏には、どのような想いやストーリーがあったのか。小さくも居心地の良いお店の中で聞きました。


プロフィール
高橋浩一(たかはし・こういち)
TORiX株式会社代表取締役。東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。

2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで3万人以上の営業強化支援に携わる。年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら、「無敗営業オンラインサロン」を主宰し、運営している。著書に、『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』、『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)、『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)、『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)など

「書店をやろう」と思い立った1カ月後には、物件を契約していた

──2023年2月、「人生のヒントが見つかる かぴばら書店」をオープンされましたね。高橋さんは読書家のイメージがありますが、以前から書店を開きたいという構想があったのでしょうか。

高橋 「いつかは本屋をやってみたい」という漠然とした想いはありましたが、実は、具体的な計画はありませんでした。昨年、避暑地へ旅行したとき、本をたくさん置いているカフェに入ったのですが、ちょうど閉店間際だったこともあってか、お客さんが私以外におらず、奥のほうで一人、お店のオーナーらしき方が本を読んでいました。「ごめんください」と声をかけて入店したのですが、最初は気づいてもらえず(笑)。本に集中されていたのでしょうね。

私自身、店舗を経営するのは未経験でしたから、「お店を開いてお客さんが来なかったらどうしよう」という不安はありました。ただ、その店主の姿を見て、好きな本を読みながらお客さんが来店するのを待つ時間も楽しそうだなと思いました。そこで「まずはスペースを借りて小さく始めてみよう」と思い立ち、旅行から帰って物件を探し始め、1カ月後には書店を開くための物件を契約していました。

──すごい実行力ですね。開店してからは、どのようなお客さんが来店されますか。

高橋 書店をオープンしてみたら、本当にいろいろな方が来店してくださるので楽しいですね。遠方から千鳥ヶ淵の桜を観に来ていて、その帰りにGoogleマップで書店を検索してたまたま立ち寄ったというおばあちゃんがいたり、「向かいのビルで働いているんです」と言って来店された会社員の方もいました。

──高橋さんはSNSのフォロワー数も多いので、SNSで告知をすれば多くの方にご来店いただけそうですね。

高橋 開業当初にSNSで少し告知をしたので、「行ってみたいと思っていた」と言ってSNSのフォロワーの方が来店されることもありました。でも今はあえて、SNSで書店のことはあまり発信しないようにしています。

というのも、「自然に来られるお客さんは、どういう方々なのか?」という興味が湧いてきたからです。実際、20~60代まで年代は幅広く、「本が好き」という点では趣味の合う方々がお越しくださっていて、刺激を受けています。

──実際に書店を営業してみて、どうですか?

高橋 本屋を始めたのは完全に「感覚」と「勢い」でしたが、「本に囲まれていると自分が幸せ」だということを改めて実感しました。来店されるお客様との会話も、一つひとつ刺激があります。私の知人でも「いつか本屋さんをやってみたい」という方は多いのですが、やってみると楽しいですので、ぜひおすすめしたいです。

小さい店舗であれば、ビルの賃料もそんなにかかりません。かぴばら書店の店舗はリノベーションされているので内装の見た目はきれいですが、実は築60年の建物で賃料はリーズナブルな金額です。もちろん、お店をしっかりと盛り上げて存続させていくのは大変なことですが、始めてみること自体のハードルは、以前に想定していたより高くはありませんでした。

書店としての収益性よりも、「遊び」から生まれるものを大事にしたい

──出版不況といわれる昨今ですが、書店の経営状況はいかがでしょうか。

高橋 これから収益を上げていく必要はありますが、今は「お店のカラー」をハッキリさせるため、色々と試行錯誤しています。かぴばら書店は「対話のある本屋」というコンセプトを掲げていて、対話を通して本をお薦めするサービスを売っています。実際にご来店いただいて、店主と対話しながら店主がその場で選書するプランもありますし、店主と本について文通しながら店主が選書した本を借りられる月額制のプランもあります。

また、企業向けのサービスも最近始めました。事前に簡単なアンケートに答えてもらって、選書した本を会社に送っておき、ワークショップで本について語り合うといった内容です。本を介して、上司と部下が会社では普段交わさないような会話が生まれますし、「こういうテーマに興味があるのか」「普段はこういう本を読んでいるんだ」など新しい発見もあります。

今後は、企業向けサービスのほかにも、書店という空間を時間貸しすることなども考えています。

──高橋さんはコンサルティング会社を経営されていますが、そちらの事業ともシナジーがあるのでしょうか。

高橋 シナジーはつくれると思います。でも今は、売り上げを稼ぐことに躍起になるより、「本屋にどんな可能性があるのか」を、とことん探してみたい気持ちが強いです。頑張って売り上げを立てようと思い過ぎると、遊び心や面白味が失われがちです。最初の一年間は、「まず、やっている自分がとことん楽しめているか」「お客さんに喜ばれ、楽しい時間を提供できているか」にフォーカスしようと決めています。

為末大氏の『熟達論』(新潮社)によると、人が物事を上達するまでには5段階あり、1段階目が「遊ぶ」だそうです。なるべく遊ぶようにしたほうが奥行きが出ると述べられています。

書店を経営するにしても、経営の本を読んだり、うまくいっている他の書店を参考にしてイベントを企画したりすれば、もっと収益性を高めることはできるでしょう。ただ、最初から「成功の方程式」にとらわれてしまうと「遊び」がなくなり、かえって色々な可能性が失われてしまうように感じます。今はただ、感覚に任せてやってみる時期と捉えて、純粋に楽しいと思えることに取り組むようにしています。

最後まで読む1冊を探すために、たくさん読む

──お客さんのために選書するときは、どのように本を選ぶのですか。

高橋 「本を他人から薦めてもらいたい」というニーズがあることに気づいて選書サービスを始めましたが、なぜ他人から薦められたいのかをより深く考えたときに、「自分では選ばないような本との出会いを楽しみたい」という動機があると考えました。

だからこそ、今は選書するときに詳しくヒアリングしすぎないようにしています。詳細に聞きすぎると、「ご本人が好きそうな本の正解」を探してしまう気がするのです。それよりも、「えっ、そうきましたか!」という、ちょっとした驚きが生まれるような本を提案したほうが喜ばれると感じます。

選書サービスを始めた当初は、北海道で書店を営む岩田徹さんの『一万円選書:北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』(ポプラ新書)などを参考にしながら、選書するためにアンケートの質問を作りこんで、それに答えてもらっていました。「しっかり選ばなくては」との思いで、それこそ年齢・性別・職業、仕事の状況や人生観などを細かく聞いたりして……。

でも、アンケートを作りこむほど、その人にぴったりの本を選ぶことになってしまう。そうすると、「自分では選ばないような本」からどんどん離れてしまうんです。 だから今は、「最近読んで面白かった本はありますか?」「今のあなたを表すキーワードを教えてください」といった簡単な質問を1、2個するだけにして、直感にまかせて10冊ほど選んでいます。

──ご自身で読む本を選ぶときも、直感で選ぶことが多いですか。

高橋 自分が読む本を探すときも、購入前にじっくり吟味して選ぶよりは、ピンと来たらどんどん買うようにしています。そうすると、やっぱり「最後まで読み続けられない本」はたくさん出てきます。むしろ、最後まで読む本のほうが少ないかもしれません。 でも、ときどき、「これはすごい本に出会った!」と興奮するような本に偶然出会うこともあり、そんなときは、いっきに最後まで読み通してしまいます。私の読書は、最後まで読む「当たり」の本を探すためにたくさん読んでいる、ともいえますね。

──自分にとって価値のある1冊に出会えたら、本を探すプロセスも意味のあることになりますね。

高橋 はい。本を探すことも意味のあるプロセスですし、「本を読む」ことも、奥行きや広がりのある行為だと思います。読書体験とは、本を読むことだけではなく、本を読んで人と話すことまでが含まれると考えています。仕事に関する本を読んだら、私はその本をテーマにお話ししたり、発信したりします。また、ビジネス書であれば、「読んだらすぐ実行に移す」ようにしています。

例えば、先ほど挙げた『熟達論』で、熟達までの5段階は「遊び」から始まるという一節がありました。私は人材育成のコンサルティング会社も経営しているので、このエッセンスを「新人に仕事を教える場面に使えるのではないか?」などと考えます。

本というのは、とても貴重な情報が詰まったものを「飲み会1回分にも満たない金額」で買えるので、とても価値のある媒体だと思っています。本を読んで良いインサイトが得られたら、軽く元がとれますし、読書ほど安く情報を手に入れられる手段はありません。

一方で、ビジネス書以外の本を読むときなど、普段の読書では、本にメリットを求めすぎないようにしています。興味にまかせて楽しみながら雑読するスタイルです。読書にメリットや効率を求め過ぎると窮屈になるので、あくまでも「自由に読む」のが基本です。

自分の子どもに「厳選100冊」を手渡したい

──今では読書家の高橋さんは、やはり幼少期から読書少年だったのですか。

高橋 お恥ずかしながら、20歳まではほとんど読書はしていませんでした。家に本があまりなかったので、読書とは縁遠い生活をしていました。

20歳になって就職活動をしているときに知り合った友人がすごく面白い人で、家に遊びに行ったら壁一面の本棚に本がびっしりと並んでいました。その友人がきっかけで本を読むようになり、「本ってこういう感じなんだな」と知って、どんどんはまっていきました。

でも当時は学生でお金がなかったので、よく古本屋の1冊100円のコーナーに行って、1000円を出してジャンルを問わず10冊買って帰って読み漁っていました。 そのあと、コンサルティング会社に入社してからは、先輩や同僚が本をたくさん読む人たちだったので、自分も読んでいました。そういう経緯なので、読書に関して私はかなり後天的なタイプです。

──最近プライベートではお子さまがご誕生されましたね。お子さまにも読書家になってほしいですか?

高橋 「なってほしい」と思っても、実際に読むかどうかは本人の問題なので何とも言えませんが……本を読むようになってくれたら、一緒に本について話せるのでそれは嬉しいです。本を読む親と一緒に暮らしていれば、子どもも自然と本を読むようになると思っています。

今、『百冊で耕す 〈自由に、なる〉ための読書術』(CCC)からヒントを得て、私なりの「100冊リスト」を作っているんです。中学時代を過ぎたら親の言うことなんて聞かなくなるでしょうから、14歳の誕生日に私が選んだ本100冊をプレゼントしたいなと考えていて。今ピックアップできているのはまだ15冊程度ですが、入れ替えながらリストを整えていくつもりです。「誰かの珠玉の100冊」って、気になりませんか?

──他人の本棚を覗いたときみたいに、その人の頭の中がわかる気がしますよね。かぴばら書店にも高橋さんの本棚がありますね(注:書店の一角にある本棚には、高橋氏がアンダーラインを引いた部分がわかる高橋氏私物の本が並んでいてレンタルできる)。

高橋 この書店は、子どもが小学生になったら店番をしてもらおうと思っています。お小遣いや欲しいものがあったとき、自分で稼いで買うことを教えたいんです。

例えば、スマホが欲しいと言われたとき、親は買い与えるかどうか悩みますよね。欲しいものを頭ごなしに「だめ」と言うのも嫌だし、だからと言ってなんでも買ってあげたら際限なくなってしまう。だから、「稼いで買うぶんにはいいよ。稼ぐには、この本屋で店番をすればいい」と言えるようにしたらどうかと考えています。

私自身、親から何かを買ってもらった経験があまりないのですが、「与えてもらわなかったことがかえって良かった」と思っているふしがあります。

──持っている物の中で工夫して遊ぶような、ある種の創造性が育まれそうですよね。

高橋 僕はゲームやファミコンのソフトを買ってもらえることもあまりなかったので、それならゲームを自分でつくろうと思って、学習ノートの裏にボードゲームを書いたりしていました。

それに、高校生になってからは自分で稼ぐべく、飛び込み営業のアルバイトをしていました。そのアルバイトの報酬体系が成果報酬型だったので、16歳にして「仕事は時給ではなく、成果で決まるんだ」という感覚が自分の中に根付きました。この思考になったことが、のちに社会人として働くうえでもプラスに働いたと思っています。

自分の子どもについても、学年が上がったら自動的にお小遣いが増えていくのではなく、「店番して本屋の売上があがったらお小遣いが増える」というシステムを試してみたいですね。それがよいのかどうかはやってみないとわかりませんが、それを試してみるためにもまず、この書店をあと10年は存続させないといけないな、と思いながら運営しています。

──ぜひ、10年続くお店にしてください。ありがとうございました。

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