コンテンツプロデューサー高瀬敦也×ビジネス書出版社代表小早川幸一郎
フジテレビで数々の有名番組を企画し、独立後はYouTubeやマンガ、絵本など多彩なコンテンツを世の中に送り出す、高瀬敦也氏。2023年9月には自身3冊目の著書『スキル』が発売されます。その3冊すべての担当編集者であり、これまでに500冊を超えるビジネス書を生み出したクロスメディア・パブリッシング代表の小早川が、「人の心に響くコンテンツを届けるためには、どのような道筋をたどればいいのか」を引き出します。
高瀬敦也(たかせ・あつや)
コンテンツプロデューサー、原作企画者、(株)ジェネレートワン代表取締役CEO
フジテレビ在職中「逃走中」「ヌメロン」「有吉の夏休み」などを企画。ゲーム化もプロデュースした「逃走中」は累計100万本を達成。「ヌメロンアプリ」は350万ダウンロードを記録。アニメブランド「ノイタミナ」を立ち上げ、「ノイタミナ」を命名。 独立後はYouTube、マンガ・絵本原作脚本など多分野でヒットコンテンツを企画。オリジナル家具ブランド「notos」の運営のほか、ボディチューニングブランド「DEMENSIONING」やソフトウェアプロダクション「POST URBAN」などを共同創業。また、多業種でコンサルティングを行っており、Twitterでの「伯方の塩 二代目声優オーディション」で広告効果10億円とも言われたバズを生み出した。現在15社以上で顧問・アドバイザーを務める。
小早川幸一郎(こばやかわ・こういちろう)
クロスメディアグループ(株)代表取締役
出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開中。
メディアよりコンテンツのほうが強くなる時代
小早川:今回は「コンテンツ」をテーマに、話をお聞かせください。当社では高瀬さんの『人がうごく コンテンツのつくり方』という本を出版していますが、コンテンツという言葉をどのように定義されていますか?
高瀬:「人が価値を感じるもの」ですかね。だから、何がコンテンツなのかは人によって異なります。東京に住んでいる人と沖縄にいる人でも違うし、女子高生とおじさんでも違う。つくったものが受け手に届くかどうかは、価値を感じる人とコンテンツとのマッチングが大事だと思っています。
小早川:ご著書などでは、「世の中にあるものすべてがコンテンツである」とおっしゃっていますが、そういう意味なんですね。どんなものでも、それに価値があると思う人と出会えばコンテンツになる。ということは、すべてのものがコンテンツになり得る。
高瀬:そうですね。もちろん、コンテンツとしてつくったものが人に届かない場合もあります。でも厳密に言えば、つくった人自身が価値を感じる限り、たった1人かもしれないけれど、コンテンツと呼んでいいのかもしれません。ただ、それは芸術に近い領域です。ビジネスとして考えるときには、やはりビジネスとして成り立つ程度の人たちに価値を感じてもらわなければいけませんよね。
小早川:「コンテンツ」という言葉が使われ始めたのは、一般にインターネットが普及してからです。私と高瀬さんは同い年で、社会人になる頃にちょうどネットが出始めた世代です。いまはテレビ局でも番組のことをコンテンツと呼ぶと思いますが、デジタル以前ではなんと呼んでいたのですか?
高瀬:シンプルに、「番組」ですね。昔はメディアごとにコンテンツの呼び方が違っていました。テレビだったら「番組」、出版だったら「本」、音楽だったら「楽曲」。
小早川:以前は「マルチメディア」とか、「ワンソースマルチユースと」いう言葉も使われていました。ひとつのものを複数の媒体で発信できるようになってから、「コンテンツ」という言葉が使われ始めたんですよね。
高瀬:言い換えれば、メディアというプラットフォームに依存しなくなったということだと思います。コンテンツがメディアの枠を飛び越えられるようになった。メディアに存在していたものが、単独で存在するようになったイメージです。その結果、テレビでもネットでも使われるものを「番組」とは呼びにくくなった、ということでしょう。
小早川:数年前までは、「プラットフォームを握った者が勝ちだ」と言われていましたよね。それがいまでは、コンテンツを持っているほうが強いとも言われる。そこについてはどう思われますか?
高瀬:その通りだと思います。簡単に言えば、コンテンツの持ち主がメディアを選べるようになったというだけの話かなと思います。コンテンツが100個あっても、メディアがテレビしかなかったらテレビのほうが強い。でもテレビも本もネットもSNSもあるとなれば、コンテンツのほうが強くなるということですね。
世の中でうけているのは「流行るコンテンツ」か「ニッチなコンテンツ」
小早川:なるほど。私は普段から仕事にしているので「コンテンツとは何か?」を考えることは少ないですが、改めて捉えてみると面白いですね。高瀬さんは、コンテンツが持つ役割をどのように考えていらっしゃいますか?
高瀬:現代で言えば、「暇つぶし」ですかね。もうちょっとしっかりとした言い方をすれば、「情報」。人はやっぱり常に情報を求めるものだと思います。
小早川:そうすると、どんな暇つぶし、あるいは情報をつくりたいと思いますか?
高瀬:今世の中でうけているのは、すごく流行るコンテンツか、ニッチなコンテンツです。「何を作りたいのか」と聞かれれば、めちゃくちゃ流行るコンテンツをつくりたい。第二の「AKB48」や『鬼滅の刃』をつくれたら気持ちいいと思います。でも、それは極めてレアなケースです。ほとんどの場合、ビジネスとして成り立っているのはもっとニッチなものです。例えば僕はF1が好きで、スマホを開けば僕にターゲティングされたF1の記事ばかり出てくる。ニッチなコンテンツのほうが、分量もニーズも圧倒的に高くなっています。ターゲットという意味では、小早川さんはどう考えていますか?
小早川:私は学生の頃に出版社で編集の仕事を始めて没頭し、卒業してもそのまま同じ会社で働いていました。最初は自分で企画するのではなくて、会社から「こういう本をつくって」と企画を渡されて、制作の部分を任されていました。しばらく経験を重ねたとき、編集長から「そろそろ自分で考えてみようか」と言われたけれど、全然出てこないんです。企画が。
高瀬:みんな最初はそうでしょうね。
小早川:それで変にマーケティングを意識し始めて、余計に何をつくればいいのかがわからなくなる。そのとき編集長に、「自分の好きなものをつくればいいんだよ」と言われました。「仕事なのに、自分の好きなものなんかつくっていいんですか?」と聞いたら、「君みたいな人間は世の中にごまんといる。だから君が欲しいものをつくれば売れるんだよ」と。
高瀬:すごくわかります。いいアドバイスをもらいましたね。
小早川:それはそうだなと思って友達と飲みにいくと、仕事がうまくいかないとか、会社や顧客への不満とか、悩みや課題はみんな同じなんだなとわかりました。だったら自分の悩みを解決できる本をつくれば買う人はいるだろうと考えたところから、売れる本をつくれるようになった。20代の頃は20代向け、私は30才で独立起業したので、そこからは起業家向け。40才になったら会社もそれなりに大きくなって経営に課題などが出てきたので、そうしたことを解決する本。そのときどきに世代の代表として本をつくっていこう、という考え方でやってきています。
高瀬:なるほど。小早川さんは普通の人なんですね。
小早川:普通ですか(笑)
高瀬:そう。自分がいいと思ったものをつくったら売れた。年齢が上がるのに合わせて、自分と同じ世代向けの本をつくったら売れた。つまり「一般人力」があるんでしょうね。小早川さんの仕事にしても僕の仕事にしても、一般人力のない人が多い。少し世間とずれているから、マーケティングやリサーチが必要になるのだと思います。極論、「みんな何を欲しがっているのか」を感覚的に理解できれば、細かな分析は必要ないのかもしれません。
自分の目線でコンテンツをつくる
小早川:私は子供の頃から学級委員や部活のキャプテンをやっていました。いま考えると、リーダーとなって困っている人を助けたいという気持ちが昔からあったのだと思います。いまも「本をつくりたい」「会社を経営したい」といった気持ちではなくて、困っている人を助けたいという想いが仕事の中心にあります。そのための手段が、出版なのかなと思います。
高瀬:仕事に対する、より上位の目的みたいなところですかね。僕の場合は、もっと利己的だと思います。乱暴な言い方をすれば、「自分が幸せだったらいい」と考える人間です。でもちょっとややこしくて、自分の周りの人間が幸せでなければ自分も幸せではない、と思っています。僕は感受性が強過ぎるところがあって、どうしても周囲の人が気になってしまう。感じなくていいことで感じてしまう。それを解決するためにコンテンツをつくっているという面があるのかもしれません。
小早川:そういう意味では、高瀬さんや私は変わっているのかもしれません。コンテンツをつくるというと「自己実現」とか「自分のセンスを世の中に問う」みたいなイメージがありますよね。あるいは、「クリエイティブなことをやりたい」とか。私も若いときにはそうした感覚が少しあったかもしれないけれど、いまはあまり感じなくなりました。
高瀬:お互いに、肩の力が抜けてきたんでしょう。小早川さんが言ったみたいに、自然体でコンテンツをつくって、結果的に自分に近い人たちがターゲットになるというのが健全だと思います。
小早川:そうですね。無理をしないことがヒットの秘訣なのかもしれません(笑)
これからは「つくれる人」が生き残る
高瀬:以前、小早川さんに「うちの会社が伸びている理由は、企画だけではなく制作もしているからだ」と聞いたことがあります。
小早川:言いましたね。企画するだけではなく、商品として本をつくる、メディアをつくる、記事をつくる。そこが当社の強みだと思っています。
高瀬:小早川さんの言葉を聞いてから1年くらい経って、ChatGPTが出てきました。コンテンツをつくるためにAIを活用すると考えると、制作より前の工程はAIで代用できてしまいます。これまでホワイトカラーが大事だとされていたところから、実際に生き残るのはブルーカラーだったとみんなが気づき始めました。
小早川:これからは、絶対に「つくれる人」に仕事が来るのだと思います。
高瀬:僕も以前はコンサルティングに力を入れていたけれど、小早川さんに言われてから自分は「制作者」なのだと切り替えました。AIどうこうということとは別に考えても、「つくらない人」は本質的な部分で求められない。コンサルタントは便利な存在ではあるけれど、最終的に決めるのはお金を払うというリスクを背負っている人です。責任を負わないから、最終的に必要とされません。
小早川:最後までつくることのできる人は、仕事が途切れないですよね。私の中での編集は、企画と制作がセットになっています。もちろん経営や営業もしていて忙しいので制作の部分を別のスタッフに手伝ってもらうことも多いけれど、そのノウハウは教えることもできます。
高瀬:そう、自分でつくれなくても、会社として作ればいい。僕の会社では映像だけではなく、いろいろなジャンルの制作部隊を持っています。ソフトウェアの開発では絶対に自分ではわからないと思ったから、制作する会社をつくりました。クライアントに対して、「こんな企画を考えました。あとは御社でつくってください」というより、「御社の欲しいのはこれですよね」と納品できるほうが強いですよね。
小早川:最後は「つくれる人」に仕事が来ますよ。高瀬さんにお願いすれば映像もできる、デザインもできる、アプリもできる。全部できるわけですから。そう、高瀬さんはほかにも漫画や絵本、さらには自分でCDを出したり、家具ブランドを運営したりしていますよね。テレビのようなマスに向けたコンテンツもつくれるし、本も書いているのでニッチ向けのコンテンツもつくれる。それぞれつくり方が違うと思いますが、なぜそんなにいろいろできるんですか?
高瀬:根源的な理由は、感受性が強いからかなと思います。ニッチを求める人の気持ちも、マスを求める人の気持ちもわかる。人を馬鹿にする人の気持ちもわかるし、しない人の気持ちもわかる。いろいろな人の気持ちがわかるというのは、大きな要素だと思います。
小早川:なるほど。それは武器になりますね。
高瀬:ノウハウの部分で言うと、もう「やり方がわかった」感覚があります。企画を立てて、資金を集めて、人を集めるというプロセスは何をつくるのでも同じですし、そこで起こる問題や障壁も、ひと通り経験しました。アウトプットが映像でも本でもイベントでもお酒でも家具でも全部同じ。いまは産業廃棄物の事業を始めたいし、一戸建てのブランドもやりたい。それに、最近は「老舗の和菓子屋がつくるチーズケーキ」を売り出したいと考えています。
小早川:本当に、ジャンルを選びませんね。それでも、スタートする時点でやり方が見えている。「ちゃんと消費者に届くか」というところまでイメージできるんですか?
高瀬:そうですね。本来、ゴールが見えない限りは動き出してはいけないと思います。つくったコンテンツが狙ったターゲットに届くまでの過程を設計できないという相談は、すごく多い。いろいろな因子があるから何とも言えないけれど、間違いないのは順序が逆だということです。ビジネスである以上は、届け方を考えてからつくるべきです。
ゴールが見えているか、ステップは明確か
小早川:高瀬さんと本を出すのは、この9月に出る新刊で3冊目になりました。高瀬さんとコンテンツをつくるときは、最初のブレストを長くやりますよね。ゴール設計に時間をかけて、そこが見えてからは早い。そしてゾーンに入る。高瀬さんとの企画を軽い気持ちで考えていたら大変です。お菓子を食べながら楽しくブレストしていたのに、急に「お菓子なんか食ってんじゃねえよ」と変調する(笑)
高瀬:ゾーンなんて思ってないですけどね(笑)。小早川さんだけではなくて、部下や取引先と仕事をするときも同じで、その相手がゴールを見えているのかどうかが気になります。
小早川:自分が経験している分野であれば、仕上がりまでの道が見えますよね。コンテンツをつくるとき、早い段階でいったん仕上げてからブラッシュアップに時間をかけるタイプや、スロースタートで最後にグっと完成度を上げるタイプなどいろいろありますが、私の場合は後者です。そのため、慣れない人からするとやっぱり不安だと思います。スケジュール上では折り返し点なのに、まだぜんぜん形になっていない。「こんなので大丈夫か」と思いますよね。
高瀬:最後の絵が見えていて、そこから逆算で進んでいると確認できれば、全然気になりません。ある時点で一見不十分だと思えるものを見せられたとき、相手が経済合理的に考えて、いまはまだ細部に手をかける段階ではないと判断しているとわかれば大丈夫。これまでの2冊で、本のつくり方がわかりました。完成した本がどう書店に並んでいるか、世の中からどんな反響があるかが全部見える。見えたらあとはやるだけです。見えるまでは時間がかかる場合もあるけれど、見えないままに進むのがいちばん危ない。
小早川:今回発売する『スキル』という本は、高瀬さんが前から書きたいと思っていたテーマですよね。だからということもあるのでしょうが、言葉の使い方にも結構こだわっていましたね。
高瀬:そうですね。やっぱり自分のつくるもので手を抜きたくはありません。
小早川:私は20歳から編集者をやっていて、いま48歳。28年間毎月締め切りがあって、毎日つくっています。それだけやっていると、つくることが普通になってしまう部分もあるのかもしれません。高瀬さんはいろいろやっていながら、全部をつくり込むことができている。それはなぜなのでしょうか。
高瀬:責任感ですかね。クライアントとトラブルになりたくないし、消費者に指摘されたくない。自分が100%納得できないものをつくったとして、それがクライアントや消費者にバレない可能性もあるけれど、バレたときにすごく恥ずかしいし、それで自分の能力が低く評価されるのが嫌です。自分の満足のためにつくり込む時期もあったけれど、それは意味ないなと思い始めました。本当は手を抜きたいけれど、クライアントに「ここ何」って言われたくない。ユーザーに「ここあんまり考えてないよね」と思われたくありません。
小早川:なるほど。細部も大事ですね。
高瀬:ただ、コンテンツをつくる上で大切なことが「細かな部分をちまちまやること」かといえば、それも違います。
小早川:そうですね。最初の段階で時間をかけてゴールのビジョンをつくり、そこまでのステップも明確にする。その通り進むために必要な行動をしていくということが、つくり込むということなのでしょう。
スキル
著者:高瀬敦也
定価:1738円(1580+税10%)
発行日:2023年10月1日
ISBN:9784295408789
ページ数:328ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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