手本となり指導や助言を行う「メンター」。新入社員や若手社員の成長に不可欠な存在として注目されています。一方で、その対極にあるようにイメージされる「老害」。実は、この両者は共通する特徴を持っています。また、年長者に限らず年少者であっても、「害」を与える存在になり得ます。
老害と呼ばれることなく、メンターであるためには、どんな姿勢が必要なのか。『メンターになる人、老害になる人。』の著者である前田康二郎さんに、同著の編集を担当した小早川幸一郎がインタビューします。
前田康二郎(まえだ・こうじろう)
流創株式会社代表取締役
1973年生まれ。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。中国駐在を経て独立し、現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善のコンサルティングや講演、執筆活動などを行っている。
著書に『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』『図で考えると会社は良くなる』(以上、クロスメディア・パブリッシング)ほか多数。
小早川幸一郎(こばやかわ・こういちろう)
クロスメディアグループ(株)代表取締役
出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開中。
※この記事は、2024年8月配信の、クロスメディアグループの動画コンテンツ「ビジネスブックアカデミー」を元に文章化し、加筆・編集を行ったものです。
「みんなが困っていること」を企画にした
小早川 まずは、前田さんのこれまでのキャリアをお話しいただけますか?
前田 大学を卒業後、約15年間はベンチャー企業を中心に管理業務に従事しておりました。さまざまな規模の会社で働いており、小さな会社でしたら総務・人事・秘書。株式上場を目指す会社でしたら、IPOに関する実務や内部統制。経理業務に就いていた期間が一番長いですが、バックヤードと言われる分野はひと通り経験しています。
私が会社員として働いていた当時、クリエイターや営業、コンサルタントといった職業ではフリーランスの方がたくさんいらっしゃいましたが、事務職では見当たりませんでした。それなら最初に自分が始めようと30代後半のときに一人で会社を興して、今年で14年目になります。
独立して最初の5~6年はクライアントの給与計算や伝票入力といった仕事を請け負っていましたが、今はコンサルタント業務が主になっています。採用面談に立ち会うことありますし、経営課題の解決方法をアドバイスすることもあります。その合間に、執筆活動や講演会の仕事をさせていただいております。
小早川 前田さんとの出会いのきっかけは、当社で『1%の人は実践しているムダな仕事をなくす数字をよむ技術』を出版していただいたことでした。そこからお付き合いは10年弱になりますね。
有名なコンテンツメディア企業のIPOにリーダーとして携わっていたご経験をもとに、現在では当社のアドバイザーをしていただいています。毎月のミーティングで経営の相談をする中で、前田さんから『メンターになる人、老害になる人。』というテーマを聞いたことから、今回の出版に至りました。このテーマを思いついたきっかけを教えてください。
前田 実はこの番組(『ビジネスブックアカデミー』)に出たいと思ったんです。やっぱり対話する相手がいると盛り上がりますよね。過去の番組を拝見し、私も出させていただきたいと考えたのが、企画の動機の半分です。
それに、今までの私の書籍はいわゆるプロダクトアウトの企画でした。自分が関心のある事柄や、出版社側で立てていただいた企画に沿って執筆をする。世の中の人が必要としていることをもとに企画を考える、マーケットインの出版をしたことがないことに気が付いたんです。そこで周りの人に日常生活や仕事での困りごとを伺ったら、一番多かったのは「老害的な行為で悩んでいる」でした。
小早川 私は「老害」という概念について、これまであまり興味がありませんでした。老害と呼ばれるような人がいたら近寄らないようにしていましたし、自分自身も老害ではないつもりでいました。でも、今回ご著書を編集する中で、年齢に関係なく「老害」となり得ることや、メンターと老害は紙一重であることを知りました。
自分も老害だと思われているかもしれない。どうしたら自分はメンターになれるのか。まさに知りたかったことが、この本の中にすべて書かれています。原稿をチェックしながら、すごく勉強になりました。
ビジネス書は読者の役に立つ内容でなければいけません。今回の本も、老害への不満と愚痴を書き連ねた、ただのストレス解消本になってはいけません。メンターになるための指針となる本であり、世の中にメンターを増やすことを目的にしていますよね。
前田 一億総メンター化、全社内メンター化。お互いが何かしらのメンターになることができたら、敬意溢れる社会になると思います。
「老害」を社会問題として捉える
小早川 前田さんは老害を企業の中のことだけではなく、社会問題だと捉えてらっしゃいます。その点についてお聞かせいただけますか?
前田 社会の変化とともに、世代間の支え合いの形も大きく変わってきました。以前は、多くの若者が一人の年長者の方を支える構図でした。しかし、今は少子高齢化が進み、少ない若者で多くの年長者の方を支えなければいけない時代です。そんな状況で職場の年長者がわがまま放題を言っていたら、若い世代はメンタルをやられてしまいますよね。
小早川 昔も老害はいたけれど、若者のほうが人数が多かったからあまり目立たなかったのかもしれません。若者の少ない現代に老害がたくさんいたら、大変な社会になってしまいますね。
前田 そうですね。これからは「たくさんの年長者が一人の若者を支える」という発想に切り替えなければいけません。私たちの世代では、「自分は年長者に仕えてきたから、今度は恩を返してもらおう」と考える人もいると思います。しかし現代の状況を考えれば、そんなことを言っていても仕方がありません。まず現実の問題を見るべきです。
これから年々日本人全体の人口も若年層も減っていき、定年の延長や撤廃をする会社がさらに増えていきます。そのとき、高い技術を持っている方の定年が延長されれば、指導を受ける従業員は嬉しいですよね。しかし反対だったらどうでしょうか。やっと辞めてくれると思っていた人が定年にならないのであれば、周りの従業員のモチベーションが下がるだけです。そう考えれば、年長者の方はメンターにならなければならないのだと思います。
小早川 日本がこれから迎える超高齢化社会。そこで年長者の多くが老害になれば「老害大国」になってしまいますが、「メンター大国」になったら日本の未来は明るいですよね。
前田 1億人以上もの人口がいる日本では、人の力が社会に非常に大きい影響を与えます。一人ひとりの真面目さや優しさを生かし、メンターになれるように社会全体で方向性を合わせることが大切です。それができれば年長者の方も楽しく過ごせますし、若い方も生き生きと活動できると思います。
年少者でもなり得る「長害」
小早川 ビジネスの現場で「老害」と呼ばれる人の事例について聞かせていただけますか?
前田 老害には二つの種類があります。一つ目は「攻撃的な老害」、二つ目は「何もしない老害」です。
まずは「攻撃的な老害」について。例えば、職場全体でペーパーレスや新しいソフトウェアの導入といったデジタル化の流れがあっても、同じポジションで何十年も仕事をしている方が断固拒否する。そしてその人を基準に事が進んでしまう。
同じポジションで長い間働いてきた人は仕事に対する責任感が強くなっていて、拒否するのはその表れかもしれません。しかし、結局は他の人の負担を増やしてしまうことにつながります。このように、何か悪いことをするというよりも、周囲のことを考えられない人が老害になりやすいと思います。
次に、「何もしない老害」は、若者が新しいことを始めようとしても何もしてくれないし、させてくれません。デジタル化を例にすれば、若手社員が新規事業の企画を考えても、「変なことをやって失敗したらどうする」「ほかの人がどう言うかな」と、取り合わないような人です。若者たちは、自分の5年後、10年後を見据えて提案するわけです。そこに対して自分の現状だけを考える人も、老害になることが多いと思います。
それから、いずれのタイプでも、老害には「実績も肩書きもあり、お世話好き」という特徴があります。
小早川 その特徴はメンターにも当てはまりそうですね。
前田 そうなんです。老害はメンターの人と同じ特徴を持っている、つまり同一人物でもあり得ます。また、もともとメンターだった方が老害に転じるケースもあります。
小早川 なるほど。本の中では、「長害」として年少者が年長者に害を与えることもあるとも書かれていますよね。
前田 老害は年を取っている方というイメージがありますが、現在はその構図も崩壊しています。
今までは、終身雇用・年功序列が一般的で、年齢が高い人が社歴も長いという構図でした。しかし現在では、リスキリングやキャリアチェンジのために転職する人が増えています。例えば、20代では営業として働いていたけれど、30代からマーケティングの職種に就く。そこには年下の先輩がいることもあるでしょう。現代の人たちには、老害よりも「長害」のほうがしっくりくるかもしれませんね。老いることは、決して悪いことではありません。「老舗」や「老師」という言葉もあります。そこに付く「害」は何なのかを考えるべきだということでしょう。
小早川 なるほど同じ職場に長く所属しており、権力を振りかざすようなことを「害」と考えるべきですね。
前田 そうですね。長く会社にいる人は、取引先やOBの方とのつながりがあります。社歴の長い人に気に入られないと出世できないし、嫌われてしまえば会社にいられなくなる。そうした状況は、やはり「害」ですよね。
「老害」にしても「長害」にしても、そうならないためには、自分が権限を持っているという自覚が必要です。何が害となっているのかをきちんと理解して、セルフチェックができる。そんな人がメンターでいられるのかなと思います。
「メンター」と「老害」は紙一重
小早川 メンターと老害は紙一重。これが今回の本の面白いところだと思います。メンターになる人の特徴を教えていただけますか?
前田 私は独立後、ある方に励まされたおかげで、1冊目の本が出すことができました。私の周りの家族や友達、同僚には真面目な方が多く、フリーランスになると言ったらもう大反対です。皆さん良かれと思って言ってくれたのだと思いますが、あまりにも反対されると自信がなくなってくるし、うまくいくものもうまくいかなくなってしまうと思うんです。
励ましてくださった方は、取引先の役員の方です。直接お仕事をご一緒することはありませんでしたが、ご挨拶をする仲から、好きな本の話をするまでになり、いつの間にか意気投合していました。
その方は、不機嫌な顔を一切せず、常にポジティブなんです。「本を執筆したいと思っている」と相談したら、「絶対大丈夫ですよ」と励ましてくれました。会社役員の方が大丈夫と言ってくださるんだったらと、安心して執筆をすることができました。
応援団のように最後の後押しをしてくれる、常に味方だと励ましてくれる。それがメンターの条件の一つかなと思います。
小早川 年齢やキャリアに関係なく、どんな人に対しても敬意を持って接している。そして押しつけがましくなく、人を励ます。メンターにはそんな人が多いですよね。
前田 メンターと呼ばれる人に、「自分が教えてあげよう」と考える人はいないと思います。お互いに敬意を持つことは、組織活動において非常に重要です。メンバー同士が敬意を持っている会社は必ず伸びています。赤字の会社では、社長と社員はお互い敬意を持っていないし、社員同士も敬意がありません。企業にとって商品力も重要ですが、会社の土台はやはり人です。人間関係を円滑にするために、お互いを尊敬し合うことが大切です。
考え方も価値観も、人それぞれに異なります。組織として制約がある中でうまくやっていくためには、何かしらの緩衝材が必要になりますよね。それが「敬意」なんだろうと思います。
小早川 私も若い時はメンターの人たちに支えられて成長してきました。今は自分がメンターになる立場として、立場でものを言わないように意識しています。ただ、気を付けていても、後輩や部下に「教えてあげよう」という目線になってしまうことは多いですよね。
前田 「新入社員は右も左もわからないから、私が教えてあげよう」という人もいます。そのこと自体は悪いことではありませんが、メンターは、若さも職歴も関係なく対等という意識を持っています。自分から教えようとするのではなく、「教えてください」と言われたときに、「じゃあ教えてあげるね」という形がメンターだと思うんですよね。
小早川 私たちの年齢と立場だとメンターになることができるし、老害にもなり得る、本当に紙一重ですね。本の内容について前田さんとディスカッションした際に、リーダーシップ本でもあり、マネジメント本でもあり、人間関係の本でもあり、教育論の本でもある、いろんな方向に役立つ本になると思いました。最後に、読者の皆さまにメッセージをお願いします。
前田 独立をした時、私はビジネス書に励まされました。そして、たくさんの人と知り合い、自分の想いや考えを世に出すこともできました。
ビジネス書に救われた私は、「本」はとても大切なものだと思っています。言葉は必ず人に伝わるし、世界を変えられると信じています。そうでなければ、今の時代にこんなに手間のかかることはできません。
読者の方には「こんなことを自分一人がやっても、この会社変わらない、自分の周りは変わらない」と思わず、少しでもいいから行動してほしい。この本がそこまでの役割を果たせなかったとしても、寝る前に読んで笑っていただいて、明日からまた頑張ろうと思っていただける内容にしたつもりです。日々を楽しく過ごすきっかけにしていただけたら幸いです。
編集・文:鬮目真伸(クロスメディア・パブリッシング)
メンターになる人、老害になる人。
著者:前田康二郎
定価:1,738円(1,580 +税10%)
発行日:2024年7月26日
ISBN:9784295409960
ページ数:288ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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