「リーダーシップ4.0」すべての人がリーダーシップを発揮する時代へ

THS経営組織研究所代表社員 小杉俊哉×ビジネス書出版社代表 小早川幸一郎

2023年7月、新刊『リーダーのように組織で働く』が発売されました。「リーダーとして」ではなく、「リーダーのように」働くとはどういうことなのでしょうか。著者は、NEC、マッキンゼー、アップルといった超有名企業を経て、現在は企業支援や大学での教育を行う小杉俊哉氏です。「マネジャー」と「リーダー」の違い、環境によって変わるリーダーのタイプ、そして、これからすべての人が発揮すべきリーダーシップについてお聞きしました。

※この記事は、2023年8月に配信された、クロスメディアグループの動画コンテンツ「ビジネスブックアカデミー」を元に文章化し、再編集を行ったものです。

動画はこちら

小杉俊哉(こすぎ・としや)

合同会社THS経営組織研究所代表社員、慶應義塾大学SFC研究所上席所員、慶應義塾大学大学院理工学研究科非常勤講師、ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科客員教授。

早稲田大学法学部卒業後、NEC入社。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ユニデン人事総務部長、アップルコンピュータ(現アップル)人事総務本部長を経て独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授、慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授を歴任。ふくおかフィナンシャルグループ・福岡銀行、ニッコーなどの社外取締役・社外監査役を兼任。

著書に、『リーダーシップ3.0』(祥伝社)、『起業家のように企業で働く』、『職業としてのプロ経営者』(以上クロスメディア・パブリッシング)、など多数。Voicy 『小杉俊哉の「キャリア自律」のすゝめ』配信中。

小早川幸一郎(こばやかわ・こういちろう)

クロスメディアグループ(株)代表取締役。出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開中。

会社を辞めて自費留学。「一番大変そうな道」を選んできたキャリア

小早川 先生は大企業やスタートアップの会社、さらには大学など、いろいろな場所で活躍されていますが、これまでのキャリアをお話しいただけますか。

小杉 大学を卒業して、まずNECに入社しました。輸出比率が高く、かつ自社で製品を作るメーカーで、海外営業担当として働きたかったんです。首尾良く海外営業に就いたんですが、4年ほどして法務部に異動になってしまいました。そこでは、日米半導体協定や中国との技術移転契約に携わりました。でも30歳手前になると「このまま30代を過ごしていいのか」と思うようになります。結局、妻と子どもを連れて留学をする道を選びました。会社を辞めて、多額の借金をして。

小早川 社費留学ではなく自費留学だったんですね。

小杉 そうなんです。もともと社費留学を狙っていたんですが、法務部に移ったことで、「ロースクールに行け」と言われてしまいました。「それは嫌だなあ」と留学の権利を同期に譲り、会社に黙ってビジネススクールを受けていたら、たまたま1校だけ合格したんです。

小早川 その1校がマサチューセッツ工科大学(MIT)というのだから、すごい話ですね。ただ、MITに行かれてからかなり苦労されたと、ご著書にも書かれていました。

小杉 本当にまぐれでMITに受かってしまったんです。英語のテストもビジネススクール共通テストも信じられないくらいに低い点数。でも面接と文章を書くのは得意だったので、それだけで受かったんだと思います。そんな状態でしたから、入学してからは習う内容がちんぷんかんぷん。最初の学期の成績があまりに悪く、「このままでは卒業させられない」と退学警告を受けました。家族を連れて、会社を辞めて留学したのに、もう絶望的な状況。「日本に戻って会社に頭を下げて、また入れてもらおうかな」なんて考えながら過ごしていました。

小早川 それは大変でしたね。当時、MBA(経営学修士)を目指そうという日本人は多かったんですか?

小杉 もはやブームでしたね。日本の企業がどんどんビジネススクールに人材を送り込み、どのスクールにも何十人単位で日本人がいるような状況でした。当時はバブルが弾ける手前。日本経済はまだまだ元気で、世界には「日本企業から学ぼう」という機運があった。スクール側にも、日本人を受け入れる理由があったんですね。

小早川 なるほど。そうしてなんとか無事卒業して、日本に戻ってきてからはどうされたのでしょうか。

小杉 NECでの経験から、MITを卒業したら経営コンサルタントになりたいと思っていました。複数のコンサルティングファームに受かっていたのですが、選んだのはマッキンゼーです。私は大学も会社も「一番大変そうなところ」を選ぶ癖があるのですが、このときもその基準。実際に入ったら本当に大変でしたね。

小早川 安穏とした道を選ばないんですね。

小杉 もう、変態ですね。最後に勤めた企業はアップルで、ここでも一番大変そうなところを選んだんです。アップルはいまでこそエクセレント・カンパニーですが、当時は大変でした。パソコンがコモディティ化して量販店で安売りされているような時代で、いつ会社が潰れたり買収されたりするかわからない。個人的に、最初に使ったパソコンがマックで、すごく愛着があったという理由もあります。「何とかこの会社を立て直したい」という思いでした。

「マネジャー」と「リーダー」の違いとは

小早川 経歴を見るとキラキラなキャリアのようで、泥臭い現場も経験されたんですね。その学びが、ご著書にも繋がっているように思います。今回、本を書いていただきたいと思った理由には、私の疑問もあります。「優秀なプレイヤーが、優秀なマネジャーやリーダーになるとは限らない」。このことについて、どうお考えでしょうか。

小杉 例えばスポーツの世界だと、優秀なプレイヤーが優秀な監督になることは結構稀です。逆にプレイヤーとして2流3流でも、監督として優秀な人はたくさんいますよね。日本の場合、特に大企業ではプレイヤーとして業績が高いと自動的に管理職になる仕組みのところが多い。マネジャーとして機能するかどうかは、偶然によるところが大きいわけです。

小早川 そうですね。ただ、最近は企業もそうした矛盾を理解し始めていて、プレイヤーとして優秀だからといってマネジャーにするのはどうか、といったことも聞こえます。

小杉 従来の仕組みをなくそうという動きはあると思います。ただ、まだ過渡期だと思います。日本の人材管理や給与制度には、長らく年功序列が採用されていました。社歴の長い人が上のポジションに行くと、下にいる人はどんなに優秀でもそれを飛び越えることができない仕組みでした。それはまだ残されていますよね。

小早川 先生は講師として企業から依頼を受けることも多いと思います。プレイヤーとして優秀だったけれど、マネジャーやリーダーになって壁にぶつかっている人に対しては、どのように導くのがいいのでしょう。

小杉 まず大切なのは、マネジャーとリーダーは違うということです。この2つのうち、マネジメントについてはわかりやすいですよね。マネジャーになれば自動的に部下を管理する立場になり、研修もたくさん行われます。逆にリーダーシップに関しては、みなさん非常に意識が薄いです。リーダーシップとは管理することではありません。部下を支援したり、リードしたり、「なぜやるか」を指し示したりすることです。

小早川 この区別ができていない人は多いですよね。

小杉 マネジャーは役職ですが、リーダーに役職は関係ありません。リーダーは自分の役割ではない領域にも、自ら踏み込んでいきます。社会に貢献したり、組織を良くしたりするためにはどうしたらいいか、ということからスタートし、その過程で周りを巻き込んでいくことで、「リーダー」と呼ばれるようになる。第三者が役職としてリーダーに“する”ということではなく、周囲がその人を支えることで、リーダーに“なる”んです。

小早川 新刊の帯には、「マネジメントに効く最高の武器」と書いてあります。リーダーシップを発揮していれば、自然と周囲が支えてくれる。だからマネジメントのためにリーダーシップが武器になる、ということなんですね。

小杉 そうです。現代は、曖昧模糊とした先の見えない環境です。過去の成功体験が役に立たず、むしろ邪魔になる。そうした状況で上司が部下に「こうしろ」と言い、部下がその通り動いてもうまくいきません。1人1人が何をやるかを考えるようにならないと、組織は回っていかないですよね。だから、みんながリーダーのように働く必要があるわけです。

組織の状態や背景によって必要なリーダーシップは異なる

小早川 今回は「リーダーシップ4.0」というテーマを設けています。1.0から4.0までの変遷を教えていただけますか。

小杉 1.0は「権力者」です。リーダーシップという概念は、1940年代頃からアカデミックに扱われるようになりました。それまでは、王族や貴族や、藩主のような権力者がリーダーだったわけです。主従関係がはっきりしていて、支配する者とされる者の構図の中で生まれるリーダーシップです。

小早川 そこはわかりやすいですね。次が2.0になりますか?

小杉 その前に1.1、1.5というのもあります。まず、1.1は「分権」です。産業界では、リーダーシップ1.0を採用することで、大量生産が可能になりました。ところが、事業が拡大、多様化していく中で、1人のリーダーがすべてを仕切ることが難しくなった。そこで、リーダーとは別に責任者を立てるという方式が出てきた。権力を与えるという意味で、「分権」と呼んでいます。

小早川 その次が、1.5になるわけですか。

小杉 そうですね。1.5は「調整型」のリーダー。60年代後半から90年代初頭まで、日本の大発展を支えたスタイルです。いったん会社に入った従業員は、定年まで働き続ける、その代わりに使用者は一生面倒を見るといった家父長制的なリーダーです。

小早川 なるほど。次の2.0はどのような考え方でしょうか。

小杉 日本の年功序列的な仕組みは、長らくアメリカの企業や世界のお手本でもありました。アメリカの企業も、日本型のリーダーシップや雇用制度を採用していたんです。それが90年代に入り、「これまでのやり方をしていたのでは会社が潰れてしまう」という形で出てきたのが2.0、「変革者」のスタイルです。組織の方向性を示し、大胆に事業領域や組織の再編を行うリーダーです。

小早川 少し前の時代のリーダーのイメージですね。

小杉 そう。続く3.0は「支援者」です。2.0「変革者」のリーダーの多くは、強いカリスマ性を持っていました。「自転車をこぎ続けろ。漕ぎ続けないと倒れるぞ」と鼓舞する。それに従ってみんながむしゃらに働いたわけですが、疲弊してしまいました。株主のために自分も家族も犠牲にする働き方に対して疑問が提示されるようになったことが、「支援者」タイプのリーダーが生まれるきっかけになりました。

小早川 支援者とはどういうことでしょうか。

小杉 「リーダー」と聞くと、ぐいぐい引っ張っていくカリスマ性の強い人をイメージする人が多い。そうして「自分にはとてもリーダーは務まらないな」と思いがちですが、そうではないんです。リーダーシップにはいろいろなスタイルがある。メンバー1人ひとりと向き合い、支援して、強みを引き出す形もある。「リーダーは誰にでもできる」と提示したのが、3.0のスタイルです。

小早川 お聞きしていると、1.0から3.0のどれも正しく、でもそれだけでは不十分なようにも思えます。

小杉 こうした話をすると、「いまでも1.0のリーダーはいる」「うちの会社には変革者が必要だ」というように言われます。その通りなんです。例えば創業経営者は1.0が多く、それでうまくいっているなら問題ありません。あるいは、ファンドが入って「5年間で企業価値を上げて売却しよう」というタイミングで就任した経営者には、当然変革が求められます。組織の状態や背景によって、リーダーシップは異なる。いま3.0が主流になっているのは、答えがない時代に、一人ひとりが自律的に働くことをサポートするかたちが合っているからです。

小早川 なるほど。そうなると、4.0はどのようなリーダーシップでしょうか。

小杉 組織で働くすべての人が発揮するリーダーシップを、「リーダーシップ4.0」と言います。今回の『リーダーのように組織で働く』という本では、役職としてのリーダーではなく、自律的にリーダーのように振舞おうという内容を書いています。リーダーのように働くことで、結果的に会社の中の位置づけもリーダーになっていく人がとても多いんです。

自律的なリーダーシップが理想のライフスタイルに繋がる

小早川 自律的に働ける人。正直、あまり多くはないように感じます。会社で働く人のうち、リーダーシップを発揮できている人は、どれくらいいるのでしょうか。

小杉 100人のうち2人ですね。全体の2%。

小早川 すごく少ないですね。「2・6・2の法則」などもありますし、20%ぐらいのイメージでした。

小杉 もちろん、割合は企業によって異なります。私が協力させていただいているスタートアップ企業では、20%どころか40~50%ぐらいいる印象です。あるいは80年代にリクルートで働いていた人は、周囲の人たちみんながリーダーだったと言います。

小早川 自律的に働く人を、意図的に増やすことはできるんでしょうか。

小杉 理論的には可能です。例えば3.0の支援型リーダーが背中を押してあげたり、自分で手を挙げるように働きかけたりして、それを加点評価するような仕組みにする。企業側のサポートによって、リーダーを増やすことはできるんです。

小早川 リーダーシップを発揮して働く人は、いろいろなことができそうです。

小杉 会社のリソースやブランドを使って、好き勝手できますよね。極めて楽しい働き方でしょう。その数が少ないということは、いまはチャンスなんです。リーダーシップを発揮することで、すばらしい世界が待っています。

小早川 ありがとうございます。最後に、読者のみなさん、またはこれからリーダーとして頑張っていきたい方、すでに頑張っている方にメッセージをお願いします。

小杉 一人ひとりがリーダーシップを発揮する「シェアードリーダーシップ」が究極のリーダーシップの在り方だと表現している人もいます。あるいは「人的資本経営」と言われるように、人を資本として扱って、企業側もそれを支援する経営の在り方が注目を集めています。そこで個人に求められているのは「キャリア自律」です。会社が社員のキャリアを考えるスタイルから、個人が自律的に自分のキャリアを掴み取っていかなければいけません。つまり、時代の流れは、個人の自律的な働き方やリーダーシップの発揮が求められるかたちになりつつある。ぜひ、そこに先んじて、第一歩を踏み出してください。それがなりたい自分になること、理想のライフスタイルを送ることに繋がっていくはずです。

リーダーのように組織で働く

著者:小杉俊哉
定価:1738円(1580+税10%)
発行日:2023年7月21日
ISBN:9784295408512
ページ数:320ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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