「本は、ウイスキーのようなものだ」。「出版」が生む新しい価値とは 編集者 箕輪厚介×出版社社長 小早川幸一郎

今、「本」は読むものではなくなっている……?
本や出版社の価値は、時代と共に変化してきました。そしてこれから、「編集者」の役割も変わっていきます。
幻冬舎の編集者でありながら、2023年9月には5年ぶりとなる自著を2冊同時に発刊した箕輪厚介氏。クロスメディア・パブリッシングからは、「人生を変える人とどう出会い、対峙するか」を語る『怪獣人間の手懐け方』が発売されました。
今回の対談では、経営者であり編集者でもあるクロスメディア・パブリッシングの代表取締役 小早川幸一郎が、「編集者」の定義を箕輪氏に問います。そこで語られたことは、書籍編集に限らず自分で本を出し、さらにYouTuber、実業家とさまざまな業界で活躍する箕輪氏だからこその視点でした。

※この記事は、2023年10月に配信された、クロスメディアグループの動画コンテンツ「ビジネスブックアカデミー」を元に文章化し、再編集を行ったものです。

箕輪厚介(みのわ・こうすけ)

幻冬舎 編集者。大学卒業後、双葉社に入社。「ネオヒルズ・ジャパン」を創刊し完売。『たった一人の熱狂』見城徹、『逆転の仕事論』堀江貴文などの編集を手がける。幻冬舎に入社後は、新たな書籍レーベル「NewsPicksBook」を立ち上げ、編集長に就任。

『多動力』堀江貴文、『日本再興戦略』落合陽一、2019年一番売れてるビジネス書、『メモの魔力』前田裕二など次々とベストセラーに。

自著『死ぬこと以外かすり傷』は14万部を突破。雑誌「サウナランド」は2021年のSaunner of the Yearを受賞。2022年『死なばもろとも』ガーシーを出版。

小早川幸一郎(こばやかわ・こういちろう)

クロスメディアグループ㈱代表取締役 出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に㈱クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ㈱を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開している。

優秀な人は出版業界からスタートアップへ

小早川 箕輪さんは書籍編集者としてだけではなく、自分で本を出したり、歌手をしたり、格闘技をしたりと、さまざまなフィールドで活躍していますね。

箕輪 これからの時代、出版業界には、外部の空気や新しいネタを取り入れる必要があります。でなければ、この業界は本気で潰れてしまいます。新しいビジネスモデルを作ったり、勢いのある起業家とのコラボレーションをしたり。幻冬舎での自分の存在は、組織と外部をつなぐ外交ルートのようになっている気がします。

小早川 1996年に私が出版業界に入ったとき、出版業界の市場規模は2兆円を超えていましたが、そこからどんどんシュリンクしてしまっています。当時は、クリエイティブかつメンタルもフィジカルも強い人が出版社やテレビ局、広告代理店などに集まっていましたが、今、そのような優秀な人たちはスタートアップに就職しているように思います。

箕輪 そうですね。漫画などのジャンルはそうでもありませんが、僕たちのいる単行本や書籍といった分野では、若い人がたくさん入社してくるという状況ではありません。そこが業界として勢いがないと言われている部分ですよね。

若い人たちがスタートアップに流れているのは、スタートアップ側の変化もあるように思います。従来のイメージのように、大きく打ち上げて上場しようという企業もありますが、そちらはより本気度が高くて、簡単に勝負できるものではなくなっている。それよりも、企業のサイズは小さくても、自分が好きな世界観を作るというようにスライドしていると思います。

経営者が求める編集者の視点

小早川 私の周囲にいる出版業界の人と比べ、箕輪さんは行動や思考がスタートアップの経営者のように感じます。

箕輪 実際、僕の友人にはスタートアップ経営者の人が多いんです。僕はスタートアップのコミュニティの中では「編集者」という異質なバリューがあるし、出版業界のコミュニティでは経営者のような考えを持つ人間としてのバリューがあると感じています。

小早川 そこが箕輪さんの独自性だと思うんです。経営者だったら、友達を10人選べといったら、その中の1人に編集者を入れたいというような。

箕輪 経営者の皆さんは、他社と競い合うための経営力をすでにお持ちです。勝負のポイントになるのは、そもそもの起業のタネやビジネスの着想です。世の中の見方によって、事業に生きる部分がでてくる。だから、「今の世の中ってこうだよね」と解像度の高い視点を持つことが必要です。

経営者の方々が求められているのは気づきの部分なんだと思います。編集者はクリエイターや広告代理店の方とかと同様に、気づきをもたらす存在としての需要があります。

経営者は忙しいので、事業をしている中で他のことに興味をもっても、時間を割くことは難しいですよね。その点、編集者は人や世の中に対する広い視点を持っています。僕も仕事を通していろいろな分野をつまみ食いしていたり、さまざまな業界に知人がいたりします。そうした情報の引き出しの多さがあるから、面白がってもらえるんだろうと思います。

「編集」と「デザイン」の共通点

小早川 編集者として活躍すると、メディア・コンテンツ系のスタートアップに転職する人もいますが、多くの場合うまくいきませんよね。私はこれからも箕輪さんは編集者であり続けると確信しているのですが、いかがですか?

箕輪 僕がスタートアップに転職したとしても、うまくいかないと思います。スタートアップ業界の物差しで測られてしまうと、負けなんですよね。今は編集者としての自分のバリューが発揮できる、とてもバランスのいい立ち位置にいると思っています。

自分の名刺には「編集者」以外の肩書きを書かないようにしています。放送作家の鈴木おさむさんからこんな話を聞いたことがあります。彼がいろんなことを始めて複数の肩書きを持ち始めたときに、作詞家の秋元康さんから連絡がきたらしいんです。

「『放送作家』だから価値があるんだぞ。放送作家1本にしろ。俺もいろいろしているけど、『作詞家』と言い続けている」

なるほどなあ、と。もし僕が「ビジネスメディアプロデューサー」なんて言い始めたら終わりだなと思っています。漢字3文字の「編集者」で行こうと思っています。

小早川 なるほど。「編集者」という職業の定義についてどう考えていますか?

箕輪 編集者というのは、いろいろに捉えられる曖昧な職業ですよね。改めて定義する必要は感じませんが、「活字を編集して本という形にして世に出すのが編集者」というのは、根本ではあっても、さすがに狭過ぎると感じています。編集者はその根本から出発した上で、いろんなことができる能力を持っていると思います。

小早川 私は「編集」という言葉を「デザイン」のように一般化することができないかなと思っています。

箕輪 僕もそれはすごく考えています。デザイナーも編集者も、その能力を抽象化していくと、根本は似てくるんだと思うんです。最終的なアウトプットが、デザインなのか文章なのかが変わるだけなんですよね。デザイン的に解決するのか編集的に解決するのかの違いだけです。どちらも物事の本質的な価値を分解して、世の中との懸け橋をつくって、もう1回再構築する過程がある。そう捉えると、やっていることは同じだと思います。

小早川 まさに。「デザイン」は他人の頭の中を可視化すること、「編集」は他人の頭の中を言語化することですよね。経営者の方々は、編集者に自分の頭の中を整理してほしいと考えているのかもしれません。

箕輪 本当にそうですね。コンサルタントはクライアントの「外部にある答え」を見つけると思うんです。例えば、「A社のビジネスモデルはこうです」とか、「最近の業界のトレンドはこうです」というように。もちろん、すべてのコンサルタントがそうだとは言いませんが、それが嘘っぽく聞こえることもある。一方で、編集者は経営者の「内部にある答え」を探して、一緒に内面を掘り下げていきます。だから、編集者の話は受け入れられやすいのではないでしょうか。

経営者も、目の前の仕事に集中していると、本来求めているものと現実が少しずつずれていってしまうことがあるんだと思います。自分は本来何をしたいのか、改めて考えたいと感じている。

経営者の方々とご飯を食べたりお酒を飲んでいたりするときに、「○○さんは本当はこういうことをやりたいんですよね」とか、「御社は本来、こっちを目指しているんじゃないですか」といった話をすることがあります。経営者の方は、その会話を通して、頭の中でぐにゃぐにゃとしていたものが解体され、言語化され、再構築されるということがあるのだと思います。

自分に対して客観的な視点を持つことは難しいですよね。僕も言葉を扱うことが上手な人と話すと、頭の中が編集される感覚があります。年末に新年の抱負を考えるとき、頭の中を整理してくれる人がいてほしいなと思うくらいです。

本は「読むもの」ではなくなっている

小早川 今回の出版を通して、書店でのサイン会などもしていただいています。読者と直接会ってみて、感じることはありましたか?

箕輪 本はもう読むものではなくなっているような気がしています。サイン会などでは、僕が行ったから買ってくれる、というところがある。例えば、いい映画を見たときにパンフレットを買うことがありますよね。本もそうした「思い入れ装置」のようになっているのかもと感じます。

出版社や編集者側が、「本は読むものだ」と考えてしまうと、それは傲慢かもしれません。今の時代、10万字近くの文章を読むことは大変な作業です。僕自身もそうですから。

読んでもらえて当然と考えて本を作ってしまうと、一部の「本好き」や「インテリ」と言われる層だけのものになってしまうのではないかと危惧しています。

こうしたことは、僕が出版業界に入ってからずっと言われ続けていることですが、YouTubeのビジネス系チャンネルが充実してきたことで、決定的なものになりました。出版業界や書店の皆さんも、このままでは駄目だという感覚は持っていると感じています。ただ、書店には一定のファンがいると感じます。ある地域で店舗がなくなったとき、SNSで嘆きの投稿がされるのは、書店くらいだと思うんです。それだけ愛されている存在なんですよね。その影響力があるうちに、手を打たないといけません。

小早川 出版が斜陽産業と言われる中で、本の持つ価値とはどんなものでしょうか。

箕輪 本や出版が世の中に与えるインパクトは、数値化できない価値があると思います。

著者を「ラベリング」する力があるんですね。最近私が担当した本であれば、「『物語思考』のけんすうさん」、「『メモの魔力』の前田裕二さん」というように、著者がそのジャンルの信頼に足るべき、あるいは語るべきものを持っている人なんだと社会的に認知が広がっていく。これが本の価値だと思います。

僕は最近よく「本は、ウイスキーのようなものだ」と表現しています。今はウイスキーをストレートで飲む人は少ないですよね。でもハイボールなどいろいろな割り方で飲まれることで、世の中に広がっています。同じように、本がそのまま売上として著者に還元される量は少ないですが、本に書かれた情報が広がることで社会に認識される。ここの価値はあると思っています。

小早川 そうですね。出版社や編集者の持っているネットワークは得がたい価値です。

箕輪 SNSで100万フォロワー、YouTubeで100万再生といったように数字を集めることができても、それを見ている人たちの属性がどうなのか、ということが問われるようになっています。

その点、出版社や編集者が掴んでいる読者層は、知的好奇心を持ち、リテラシーが高い。例えばコーラにメントスというお菓子を入れて噴き出す様子のYouTube動画に集まる100万人と、本をしっかり読んでくれた1000人の読者のどちらがビジネス的な価値があるか、というのは明らかです。いろんな業界を経験した後で出版業界を見てみると、こんな清流のような場所はないなと思います。

これからの時代に必要な「対人力」

小早川 世の中には「怪獣」とまでは言わなくても、自己中心的に見える人がいます。『怪獣人間の手懐け方』には、そんな人たちと関係性を深めていく方法が書かれています。結局、仕事は人と人とでするものです。すべての人に読んでいただきたい本ですね。

箕輪 若い人と話していると、最近ではChatGPTなどの話になります。もちろん、新しいテクノロジーを学ばないよりは学んだほうがいいと思いますが、テクノロジーはコモディティ化していきます。スマホが出たときの「スマホ術」と同じで、いずれ誰もが使えるようになる。そこで人と差をつけることは難しいと思います。

結局、デジタルツールやテクノロジーが進化すればするほど、人間対人間の部分で差がつくんだと思います。今の時代に、対人力を磨いていけば、レアで面白い人間になれるのではないでしょうか。

小早川 最後に、箕輪さんの本を読んでくださっている方、また本に興味を持ってくださっている方に一言メッセージをお願いします。

箕輪 僕は、自分で編集している本、そして今回書いた『怪獣人間の手懐け方』も含めて、伝えたいことは「人間の面白さ」です。正しい、正しくないではなく、面白いか、面白くないかという目線をもって伝えています。

人を面白がれる目線が、人生を豊かするために必要だなと思っています。『怪獣人間の手懐け方』には、ビジネススキルのような部分も書いてありますが、それ以上に「人間って面白いな」ということに気が付いてほしいと思います。

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