目的から資産運用プランを考える。ゴールからの逆算で真に価値あるアドバイスを

老後2000万円問題で投資に対する社会の関心が高まる一方で、正しい知識を持たず漠然と不安を抱く人々は少なくありません。

証券会社から独立した立場で、本当に価値のある金融コンサルティングをポリシーとするバリューアドバイザーズ。率いるのは、学生の頃から投資を楽しむ五十嵐社長です。金融のプロとして、株の売買による手数料収益を目的とせず、リスクを分散した長期投資で着実に資産を育てるアドバイスをしています。

人々の資産を増やして経済を回し、金融の力で日本を元気にしたいと語る五十嵐社長に、クロスメディアグループ代表・小早川幸一郎がお話を伺いました。

五十嵐修平

株式会社バリューアドバイザーズ 代表取締役社長
大学卒業後、東証一部上場の証券会社に入社。お客様と金融機関の利益相反をなくし、 独立・中立の立場で提案したいとの想いを叶えるべく、2013 年 2 月に株式会社バリュー アドバイザーズを設立。毎年海外視察をする中で、お客様と目的・目標を共有しゴールに向かって運用する欧米の手法に感銘を受け、独自のコンサルティング手法を考案。IFA(独立系ファイナンシャ ルアドバイザー)として、お客様目線で価値ある提案を常に心がけている。日本経済新聞、週刊東洋経済などメディア出演も多数。

小早川幸一郎

クロスメディアグループ(株)代表取締役
出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開中。

証券会社から独立したIFAという存在

小早川 御社はIFAという独立系ファイナンシャルアドバイザーとして、投資のコンサルティング事業を展開しています。金融商品のアドバイスは、証券会社も行いますよね。IFAは証券会社とどのように違うのでしょうか?

五十嵐 私が証券会社で営業をしていた時は、お客様には○○な商品がマッチするなと考えていても、支店の目標があり、△△の商品を販売してきなさいと言われると従わなければならず、会社都合で売りたい商品を販売してしまっている事がありました。

IFAは、アドバイザー機能が証券会社の営業から別部門のように分かれているのが特徴です。証券会社と提携はするものの、独立した立場で資産運用のアドバイスを行うことができますので、証券会社から「この商品」を売りなさいと言われることがありません。

小早川 ご著書にも書かれていましたが、アメリカでは「人生で成功するには、医師、弁護士、ファイナンシャルアドバイザーの3人の専門家が必要」と言われていて、IFAは医師や弁護士と並んで高い社会的地位があります。一方、日本でIFAがあまり知られていないのはなぜでしょうか。

五十嵐 日本ではまだ比較的新しい制度であることが理由ですね。2004年に「金融商品仲介業制度」ができて、証券会社ではなくても、証券会社から委託を受けることで有価証券の売買仲介を行えるようになりました。当社は2013年創業ですが、「金融商品仲介業制度」はまったく知られていませんでした。創業した当時は、証券会社の社員でも知らなかったり、お客様にご説明しても「詐欺っぽい」と信用していただけなかったりしましたね。

2017年頃から徐々にメディアに取り上げられるようになり、有価証券の売買仲介員の数で考えると、IFAは当時1パーセント未満だったところ、現在は10パーセント程度まで普及してきました。アメリカではIFAを通して投信を買う比率は現在5割程度と一般的になっています。日本でもこの制度を知れば使う方が増えると思うので、これからさらに普及すると思います。

小早川 五十嵐社長はもともと証券会社にお勤めでしたよね。IFAとして独立されたきっかけは何だったのでしょうか。

五十嵐 証券会社に入って1、2年目は、1日200件もの電話や飛び込み営業をして大変でしたが、多くの人に新規口座を開設していただき、投資を広めている実感がありました。

しかし、年次が上がるにつれノルマが厳しくなり、数値目標を追いかける日々になっていきました。ドラマで見るような、達成していないと上司が机をバーンと叩いて「どうすんだよ」と怒鳴られる世界です。

ノルマ達成のためには、お客様の資産を増やすことよりも、成約数を増やして手数料収益を上げることが優先されます。投資の素晴らしさを広めようと証券会社に入ったため、私の目的とは一致しない状況があり、退職することにしました。

IFAについて知ったのはその頃です。インターネットでたまたま見かけて、すぐに証券ジャパンさんで詳しい話を聞かせてもらい、「これだ」と思いましたね。証券会社ではできなかった「本当に役に立つ提案がしたい」という想いと合致しました。

金融商品の仲介業を行うには、証券会社から委託を受ける必要があります。知名度のある証券会社2社にアプローチしましたが、一つは門前払い。しかし、現在もお取引先である楽天証券さんで事業プランを提示したところご賛同いただき、会社を立ち上げることができました。

社名の「バリューアドバイザーズ」には、「本当に価値のある提案をする」という意味が込められています。せっかくなら仲間を集めて取り組みたいと思い、「アドバイザーズ」と複数形にしました。

目的に合わせて運用する「ゴールベース運用」

小早川 会社を立ち上げると、スタッフを雇用しマネジメントする必要が出てきますよね。どのように人を集めて経営を始めたのでしょうか。

五十嵐 創業当時は、フルコミッションという完全歩合制で、業務委託のスタッフを雇用していました。株の売買で発生する手数料から、実績に応じて報酬をお支払いする形です。雇用側としては、証券会社から支払われる手数料で安定して収入があり、リスクは少ない。業務委託なら人員を増やしやすく、一気に3店舗まで増えていきました。

当初、業務委託のスタッフでもお客様のためになる提案ができると考えていました。しかし、証券会社のようなノルマはないものの、完全歩合制なので、売買の成約数を増やそうとして、必ずしも質の高いアドバイスがなされていない状況がありました。

一方で、当時はまだ、どのような提案を目指すべきか、明確な答えが見つかっていませんでした。例えば、「株で当てようとすることだけが、お客様にとって本当に価値のある提案と言えるのか」という疑問です。

小早川 価値ある提案とは何かを模索していたのですね。

五十嵐 2017年に楽天証券の社長やIFA仲間とともにアメリカへ視察に行く機会がありました。そこで知ったのが、アメリカでは、アドバイザーがお客様のニーズに合わせて複数の資産を組み合わせ、長期で運用するのが一般的だということです。

弊社は50代のお客様が多く、親の介護、子供の学費、自身の体調など、さまざまな悩みを抱えていらっしゃいます。「子供が生まれたから将来の大学費用を育てたい」「セカンドライフのためのお金を育てたい」など、お客様はさまざまなニーズをお持ちです。

アメリカの視察後は、お客様のニーズに合わせてゴールを設定し、長期で運用する手法を取り入れていきました。弊社では「ゴールベース運用」と呼んでいます。

仲間集めの基準は「理念への共感」

小早川 なるほど。目的に基づいて運用するから「ゴールベース」ということですね。

五十嵐 ゴールベース運用は、リスクを分散し長期で資産を育てる方法です。株を頻繁に売ったり買ったりしないため、手数料での収入は低下してしまいます。手数料の一部が報酬となるフルコミッションでは、対応しにくいです。

そこで、2019年にフルコミッションのメンバー全員を正社員化する決断をしました。会社はストックが貯まるまで赤字ですが、メンバーには正社員として固定賃金を支払い、会社として価値のある提案ができる体制を整えていきました。

小早川 本当にドラスティックな変更ですね。難しい選択だったと思いますが、それはどのように考えて決断されたのでしょうか。

五十嵐 売り上げの半分程度がフルコミッションのメンバーによるものだったので、利益が半分になってしまう不安はありました。しかし、フルコミッションで売り上げが立っても、経営理念は達成できません。

弊社の経営理念は、「価値のある金融コンサルティングの追求」です。そのためには、「お客様の資産を、自分自身や自分の家族の資産のように考えてアドバイスすること」が必要です。

お客様に寄り添い、ゴールを見据えた価値ある提案を続けていれば、お客様の資産は着実に増えていきます。お金が増えれば使います。それは経済を回すことにつながりますよね。弊社の「金融で日本を元気にする」というビジョンの実現に欠かせない視点です。

3店舗も1店舗に集約し、正社員だけで運営していくと決めました。店舗を撤退するときは、経営者仲間に「五十嵐、終わったな」などと言われましたが、結果として正しい判断だったと思います。業績はしばらく横ばいが続きましたが、そのフェーズを超えてからは、1.5倍成長が続いています。

小早川 スタッフの方はどういう人を採用して、どのように育成していますか?

五十嵐 忙しいからと急いで人を採用した時期もありましたが、その方法では定着しませんでした。いまは一番に、弊社の「金融で日本を元気にする」という理念に共感してくれる人を採用しています。特に中途採用の方には、前職より高い年収をいきなり提示する事はありません。「お金を稼ぐことだけが目的なら他社を受けてください」とお伝えしています。

加えて、「素直さ」も重視しています。弊社はお客様視点でのコンサルティングが強みなので、素直でお客様思いの人が活躍でき、楽しみながら仕事ができると思います。会社として曲げられないところは事前に伝えて、マッチする場合に採用するように徹底しているので、いまは前向きでお客様思いのメンバーが集まっています。

社内勉強会など育成体制が体系化してきたので、即戦力人材だけでなく新卒も取り始めました。社員間で経験の長さにばらつきはありますが、チームコンサルティングで提案の質を担保しています。営業が一人でお客様にヒアリングし提案する場合、人によって提案の質に偏りが出てしまいますよね。弊社では、誰が担当しても質の高い提案ができるように、チームで相談して進める体制になっています。

感性を磨くためにプレーヤーであり続けたい

小早川 五十嵐さんはそもそもなぜ金融に興味を持ったのでしょうか?

五十嵐 小学5年生の時、お風呂がガス窯という年季の入った団地から、1人部屋がもらえるような1軒家に引っ越しをしました。そのとき、父がこの家を購入した頭金は株で得た利益だと教えてくれ、小学生ながら「株ってすごいな」と投資に興味を持ちました。

父は北海道の帯広出身で、農家の長男でしたが、家業は継ぎたくないと東京に出てきたそうです。長距離トラックの運転手などをしながら生計を立て、その後、ソニー製品の修理代理店を起業しました。私が生まれてからはソニーの正社員となり、家はソニー製品ばかりでしたね。

私が実際に株式投資を始めたのは、大学生の時です。あまり勉強もせずに自由に大学生活を過ごしていたら、父に「暇なら株を始めた方がいい」と声をかけられました。父曰く、「資本主義社会に生まれて株式投資をしないのは、宝の山に入って宝を取らないのと同じだ」と。

それから株について勉強し、知れば知るほど投資は怖くないと実感していきました。SBIイー・トレード証券(現・SBI証券)などで投資して、居酒屋のアルバイト代より利益が出ることもありました。

一般的には、株は怖いというイメージが強く、投資をしない人は大勢います。それなら、自分が多くの人に投資を広めようと思い、新卒で証券会社に入社しました。

小早川 五十嵐さんは、最初はご自身が投資のアドバイザーでいらっしゃったと思いますが、経営者となったいまも、コンサルティングを続けていますか?

五十嵐 組織が大きくなってきたことで、経営に携わる時間やメディア対応の時間が増えたので、プレーヤーとしての仕事の量は減っていますね。しかし、まったく離れてしまうよりは、なるべく現場に関わって、常に感性を磨いていたいと思います。

書籍を読んでくださった方や、他のお客様からのご紹介の際に、私をご指名いただくことも多々あります。その場合は、商品の紹介や運用は私が担当し、後のリレーションシップを他のアドバイザーに任せるなど、ポイントを絞りつつしっかり関わるようにしています。

小早川 いまも現場で感性を磨いている五十嵐さんが、プロフェッショナルとしてさらに自分を高めるためにしていることはありますか?

五十嵐 日常的には、日経新聞を毎日欠かさず読んだり、運用に関する注目の本を読んだりしています。アメリカの金融業界は日本の10年先を進んでいるので、海外視察にも行きますね。アメリカで普及している「オルタナティブ投資」がこれから日本で流行るだろうなど、先々を見通すためにも必要です。

経営者の視点では、アチーブメントが主催する講座とEO (Entrepreneurs’ Organization)という2つのコミュニティに参加しています。アチーブメントでは、企業理念を浸透させる仕組みなどを学んでいて、実際のマネジメントに非常に役立っています。EOは、さまざまな業界から実力のある経営者の方々が参加されているので、経営者の先輩に経営課題の相談ができたり、新たなアイデアが生まれたりすることもあります。

EOの交流の中で得たヒントから、弊社で金融教育ボードゲーム「ファイナンシャルフロンティア 資産形成で未来を切り開く」を開発しました。「人生体験型ゲーム」として、人生ゲームのようにコマを進めていきます。しかし、人生ゲームと異なるのは、お金を稼ぐことがゴールではないところ。ファイナンシャルフロンティアで目指すのは、「満足度の高い人生」を送ることです。

例えば、「語学留学」「高級車を買う」「家族旅行」など、現役時代に満足度を高めるイベントがあります。しかし、これらにはお金がかかりますよね。ゲームでは、老後に2000万円を貯めるルールになっています。自分自身が思い描く「満足度の高い人生」を送りつつ、老後2000万円に備えるためには、運用しないといけないと、自ら気付ける仕組みです。必ずファシリテイトが付く形で展開しており、企業研修やセミナーなどで活用されています。

実は、このゲームの体験会を兼ねた金融教育セミナーの参加券が、新宿区のふるさと納税の返礼品として採用されました。金融業界でふるさと納税に採用されたのは初めてのことです。

楽天ふるさと納税サイト:https://item.rakuten.co.jp/f131041-shinjuku/0115-001-s06/

価値ある金融コンサルで日本を元気に

小早川 ご著書『55歳からでも失敗しない投資のルール』は2021年7月に刊行されています。本を出そうと思ったきっかけはどのようなことでしたか?

五十嵐 きっかけはコロナ禍でセミナーができなくなったことです。弊社はセミナーでお客様を増やしてきて、2020年2月に、上階にセミナールームのある現在の事務所に移りました。しかし、直後にコロナ禍になり、対面のセミナーができなくなってしまいました。

どうしようかと考えたときに、本なら家で読んでもらえるし、書店に並んでいればセミナーに参加しない人や全国各地の人にも届くかもしれないと考えました。お金の悩みを解決したり、正しい知識をつけたりする一助になればという想いです。

本書を読んだ方々から多くのお問い合わせをいただく中で、「保険についても教えてほしい」というお声があり、弊社の保険担当役員の山越と2冊目の『55歳からでも失敗しない保険のルール』を刊行しました。

小早川 出版されたことで反響やご自身への影響はありましたか?

五十嵐 多くの金融業界の方に読んでいただいているようで、「この本の著者なんですか」と言われることもあります。ブランディングになっていると感じますね。税理士の方など、拙著を読んで考えに賛同していただき、提携先になった場合も多数あります。

人材採用の面でも、応募者には読んでみていただくよう勧めたり、面接で活用したりしています。私の本を読めば、弊社の理念についてより理解が深まりますよね。賛同する場合に応募していただくことで、人材のマッチング率も高まります。

本の執筆を通して、自分自身の振り返りにもなりました。当時の頭の中にあるもの全てを出し切ることができたと思います。

小早川 今後さらに取り組んでいきたいことはありますか?

五十嵐 価値のある金融コンサルティングをより多くの方に届けていくために、これからはさまざまな企業と連携していきたいと考えています。

例えば、他のIFAの組織は競合になりますが、エリアが違う場合や、弊社がバックアップで提携できることもあると思います。IFAを1社だけで広めようと思っても時間がかかりすぎますからね。自社の収益も立てながら、金融業界で連携して「金融で日本を元気に」というビジョンを実現していきます。

編集・文:成田路子(クロスメディア・パブリッシング

55歳からでも失敗しない保険のルール

著者:五十嵐 修平
定価:1,518円(1,380円+税10%)
発行日:2024年7月2日
ISBN:9784295409854
ページ数:256ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
Amazon
楽天

55歳からでも失敗しない投資のルール

著者:五十嵐修平
定価:1518円(本体1380円+税10%)
発行日:2021/7/11
ISBN:9784295405528
ページ数:248ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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