今、世界的にリモート営業の重要性が増し、オンラインツールを使って顧客と関係を築き、営業活動を行うインサイドセールスが注目されています。
そんな中、テクノロジーも駆使してインサイドセールスの有効性を高め、広めるために挑戦を続けるスタートアップ企業があります。スマートキャンプ株式会社のCOO阿部慎平さんは、2017年に全くの未経験からこの業界に飛び込み、インサイドセールスのアウトソーシングサービス「BALES(ベイルズ)」を立ち上げました。
インサイドセールスが一般的でなかった時代から業界を牽引し、第一線を走り続ける阿部さんの視点から見たインサイドセールス業界の現在地と未来、テクノロジーがもたらす変革について、数々のベストセラーを生み出した編集者で経営者の小早川幸一郎が独自の視点で迫ります。
阿部慎平(あべ・しんぺい)
スマートキャンプ株式会社 取締役執行役員COO。早稲田大学卒業後、デロイトトーマツコンサルティング合同会社に入社。大手企業の戦略、新規事業案件に多数従事。2017年3月にスマートキャンプ株式会社へ入社後は、取締役執行役員COOとして、事業戦略、組織戦略、新規事業戦略の策定、『SaaS業界レポート』の執筆、インサイドセールス代行サービス「BALES」の立ち上げを担う。また、新規事業としてオンライン展示会「BOXIL EXPO」やセールスエンゲージメントツール「BALES CLOUD」を生み出し、事業の成長を牽引。『SaaS業界レポート』は累計2万件以上のダウンロード。セールスフォースユーザー会インサイドセールス分科会2019年度会長。著書に『最高の成果を出し続けるインサイドセールス組織の作り方』(クロスメディア・パブリッシング)。
小早川幸一郎(こばやかわ・こういちろう)
クロスメディアグループ(株)代表取締役。出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開中。
スマートキャンプにおける経営としての挑戦
小早川 最初に会社と事業についてお話していただけますか?
阿部 スマートキャンプは2014年の6月に創業し、今年で10年を迎えました。
SaaS(Software as a Service:インターネット経由でサービスとして利用できるようにしたソフトウェア)の情報を掲載して、SaaSを探している人とSaaSを提供している企業をマッチングするSaaS比較サイト「BOXIL(ボクシル)」や、インサイドセールスのアウトソーシングサービス「BALES(ベイルズ)」など、SaaS企業を中心にBtoB企業のマーケティングや営業を支援するサービスを提供しています。
小早川 阿部さんがスマートキャンプに入社された経緯をお聞かせください。
阿部 私は学生の頃から経営に興味を持ち、まず経営を学びたいと考え新卒ではデロイトトーマツコンサルティング合同会社に入社しました。4年ほど在籍し、最初の2年間はプロジェクトマネジメント、後半の2年間で大手企業の成長戦略や新規事業戦略のコンサルティングを経験しました。
その中で自ら経営にチャレンジしたいという想いが強まり、2017年3月にまだ10人ほどの小規模な組織だったスマートキャンプに入社しました。経営の経験はありませんでしたので、最初は営業からのスタートでした。
小早川 阿部さんは最初から経営陣ではなかったのですね。営業から経営側に移られた経緯を教えていただけますか?
阿部 まだ小さい組織でしたので、営業以外にも人事、広報、経営企画、新規事業の立ち上げなど、必要だと思ったことは何でもやりました。
例えば、入社3か月後の2017年6月に今でも毎年発行している『SaaS業界レポート』を初めて公開し、同時期に「BALES」の立ち上げも行いました。目の前のことにがむしゃらに取り組む中で担当する業務や責任の範囲が広がり、気づけばCOOになっていました。
小早川 今、阿部さんはどのような業務を担当されているのですか?
阿部 私は「BALES」やイベント、DX支援といった事業の管掌と、横断的な営業組織の構築や組織人事を担当しています。
私たちは「テクノロジーを広げ社会の生産性を飛躍させる」というミッションのもと、メディアやアウトソーシング、SaaSなど、多様なビジネスモデルの事業を展開しています。COOとしてこれらの事業を跨いだ全社の経営と、事業の経営の両軸でチャレンジさせていただいています。
顧客の期待を超える価値を提供する
小早川 今、阿部さんが管掌されている「BALES」を立ち上げたきっかけを教えてください。
阿部 スマートキャンプはもともとSaaS比較サイト「BOXIL」を運用しており、営業として顧客に接している中で感じたニーズに応えるために考えたのがインサイドセールスアウトソーシングサービス「BALES」です。
「BOXIL」は、SaaS企業が提供するサービスの情報を掲載するプラットフォームです。ユーザーが「BOXIL」に掲載された情報を見てサービスに興味を持ち資料請求を行うと、その情報がSaaS企業に伝わります。SaaS企業はその情報を踏まえてユーザーに直接営業アプローチを行い、サービスの契約につなげるという仕組みです。
この仕組みを運用する中で感じたことは、インサイドセールスをしっかり行っている企業は成果が出るものの、そうでない企業は顧客との接点を提供しても成果につながりにくいことです。そこで私たちが代わりに見込み顧客へのアプローチを行うサービスを提供しようということで始めたのが「BALES」です。
小早川 世の中にニーズがあるからインサイドセールスを始めたというだけでなく、自社のサービス「BOXIL」の後工程に課題を持つ会社が多かったために「BALES」を始めたのですね。顧客のニーズに気付くことで生まれたサービスということですね。
インサイドセールスという言葉は比較的新しい表現です。なので、まだ聞きなれない方も多いと思います。インサイドセールスはこれから、もっと注目されていくのでしょうか。
阿部 まず、インサイドセールスは、電話やメール、Web会議システムなどを活用して顧客にアプローチし、商談の獲得などを行う営業の機能です。
セールスフォース・ジャパン社が提唱する「THE MODEL」と呼ばれるセールスの分業・連携モデルでは、営業活動には見込み顧客との接点の獲得、見込み顧客との関係構築を通じた商談の獲得、実際に商談を行い契約をしていただく、契約をいただいた後に顧客の成功を支援するという4つのステップがあり、インサイドセールスは2つ目の商談獲得を担うことが中心です。
最近では、インサイドセールスが顧客接点の獲得やオンライン商談ツールや電話を利用して実際に商談することも担うようになり、営業活動の多くがインサイドセールス化していく傾向にあります。営業成果を出すためにインサイドセールスは不可欠な存在になっています。
顧客ニーズの変化や生成AIをはじめとしたテクノロジーの進化などを背景として、インサイドセールスも日々変化を続けています。その中で「BALES」では先進的な企業の内製チームをも超える高いレベルのインサイドセールスを提供し続けたいと考えています。そのためには、インサイドセールスの最先端を追いかけるだけでなく、テクノロジーの活用も含めて私たち自身が新しいインサイドセールスを作り出す必要があります。
その一環として「BALES CLOUD(ベイルズ クラウド)」というセールスエンゲージメントのSaaSを開発しました。
小早川 なぜセールスエンゲージメントに着目したのですか?
阿部 セールスエンゲージメントとは、顧客との関係を構築し、より深めていくための戦略的なアプローチやプロセスを指します。BtoBのアプローチでは個別の課題や状況に合わせたOne to Oneの関係構築が求められますが、インサイドセールスでは多くの顧客と同時に関係構築していく必要があり、そのためのサポートをしてくれるツールがセールスエンゲージメントツールです。
「BALES CLOUD」では、シーケンスという機能でお客様の属性ごとにアプローチのフローを設計し、それに合わせて電話やメールのToDoが自動で生成されたり、メールが自動で送信されますので、効率的にアプローチができるようになります。またこれらの活動のデータはツールに記録され、データを分析することで成功パターンを見出すことができます。
小早川 インサイドセールスにおける生成AIの活用はいかがでしょうか?
阿部 すでに顧客情報のプレリサーチや電話のメモの記録などに生成AIが活用されています。音声の対話もますます生成AIによる自動化が進んでいくだろうと感じています。
テクノロジーを活用することで、作業効率が向上し、空いた時間を有効活用できるようになります。その結果、人ならではの価値を発揮できる場面が増え、信頼関係の構築や細やかな対応など、人によってもたらされる付加価値のある提案がより求められるようになるでしょう。
今回クロスメディア・パブリッシングから出版した本はインサイドセールスの「組織の作り方」に焦点を当てているのですが、どれだけ素晴らしいテクノロジーがあってもそれを使うのは人です。素晴らしい人材や組織があってこそ、テクノロジーを活用したときに最大限の成果を得ることができると感じています。
紙の本がもたらす想像以上のブランディング効果
小早川 阿部さんが出版をしようと思ったきっかけを教えてください。
阿部 原体験として、スマートキャンプに入社して間もないタイミングで、最初にご紹介した『SaaS業界レポート』を作成したことがあります。
その際にPDFのオンライン公開ではあったものの想像以上の反響をいただき、SaaS業界で信頼を得ることができました。『SaaS業界レポート』が業界で注目されたことで、企業の価値を認識してもらい、他社とは違う独自の存在を確立できたと思います。自分にとっても会社にとってもブランディングにつながったと感じる体験でした。
インサイドセールスに関しても毎年『インサイドセールス業界レポート』を作成しているのですが、さらなるブランディング効果を期待して、これまでのノウハウを本としてまとめることにしました。
小早川 今、SNSやインターネットなどのメディアを活用したブランディング戦略が多く存在しています。その中で書籍というメディアを使ってのブランディングを選んだのはなぜでしょうか?
阿部 私たちの会社はスタートアップで歴史が短いため、信頼できる会社だと思っていただくには紙の本が効果的だと考えました。実際に本を出すことで、多くの方に認知していただき、信頼を得ることができています。
私たちはBtoBビジネスをしているので、経営層からの信頼が重要です。この点については営業シーンでも本の効果を感じています。商談の際にも本を出版していることで信頼が高まり、「BALES」を選んでいただく機会が増えました。本を読んだ方から直接問い合わせをいただくこともあります。
さらに、社内や採用の場面でも効果を感じました。本を読んだ会社のメンバーは私たちの仕事に誇りや期待を持ってくれましたし、採用では私たちのビジョンや挑戦に共感してくれる方が増えました。ブランディングとして想像以上の効果があるので、迷っている方にはぜひ本を書いてみてくださいとお勧めしたいです。
社会を巻き込み、新しい時代をつくるために
小早川 経営者としてやりがいを感じていることはありますか?
阿部 経営をしていて感じる面白さは大きく2つあります。
1つは時代を作っているという実感です。私たちはSaaSの黎明期からSaaSの比較サイトの運営を始め、インサイドセールスの黎明期にインサイドセールスの支援サービスをスタートしました。いずれも市場全体と共に成長してきたと感じています。
インサイドセールスという言葉自体「BALES」を立ち上げた当初はあまり知られていませんでしたが、今では多くの企業がインサイドセールスに取り組んでいます。ニーズの変化にあわせて機能をどんどんブラッシュアップしてきましたので、たくさんの人と一緒にインサイドセールスを広げるための挑戦をしてきたという感覚があります。
2つ目は会社とメンバーの成長です。私が入社したときは10人だった組織が今では200人を超える会社になりました。その中でメンバーが大きく成長していることを感じますし、組織としてレベルアップしたスマートキャンプに魅力を感じてくれる方も増え優秀なメンバーが集まってきています。会社と人の成長を俯瞰できるのは経営の面白さだと感じます。
小早川 今後は、どのようなことを目指して、どんなことに挑戦をされるんですか?
阿部 私たちは「テクノロジーを広げ社会の生産性を飛躍させる」というミッションを掲げています。「BOXIL」や「BALES」を通じてテクノロジーを普及し、生産性の高い社会を作っていきたいです。それによって誰もが「やりたいこと」を実現できる世界を目指していきます。
また、インサイドセールスのさらなる発展に向けては、スマートキャンプ一社だけで取り組むよりも、多くの会社が一丸となって取り組む方がPDCAをまわすスピードが上がると考えています。
インサイドセールスに力を入れている会社と社会全体で盛り上げていくために、2024年10月に「Inside Sales Conference 2024」*も開催することにしました。このイベントはスマートキャンプが主催するのではなく、運営委員会としてインサイドセールス支援をしている他社と協力して開催します。
日々お客様やパートナーの皆様とのコラボレーションを通じて、スマートキャンプは新しい時代を作っていきます。
* 2024年10月11日開催:https://bales.smartcamp.co.jp/insidesales-conference/2024
編集・文:渡部恭子(クロスメディア・パブリッシング)
最高の成果を出し続けるインサイドセールス組織の作り方
著者:阿部慎平/BALES編集部
定価:1958円(1780円+税10%)
発行日:2023年10月1日
ISBN:9784295407751
ページ数:328ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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