意志ある人たちの共鳴がイノベーションを生む。「偶然の出会い」を必然に変える仕組みとは。(前編)


先行きの見えない社会で新しい価値を生むためには、企業の枠を越えた協業が必要だといわれます。しかし、そのきっかけとなる人と人との出会いは、運に頼らざるを得ないということも、また現実です。
もし、その「運」を意図的に高めることができたら――。
起業家や投資家、大企業のイノベーターをマッチングさせるサービス「STORIUM(ストリウム)」は、偶然の出会いを意図的に引き起こすシステムです。強い意志を持った人たちが有機的に出会うことで、イノベーションの種が芽吹きます。
STORIUMを運営する株式会社グランストーリー代表取締役の越智敬之氏は、そのために、まず私たちの考え方をアップデートしなければいけないと語ります。社会課題を自分事として捉え、自分を信じて道を進む。その航海の先には、どんな景色が広がるのでしょうか。

前編では、イノベーションを生み出すための「出会い」について、その課題とSTORIUMの仕組みについて、そして私たちが持つべきマインドセットについて考えます。


越智敬之(おち・ひろし)

兵庫県神戸市出身、早稲田大学文学部卒。1999年、早大在学中にWEBデザイナーとして起業。2002年、サイバーエージェント入社。大企業のマーケティング領域におけるデジタルシフトを多数プロデュース。2012年、AOI Pro.経営企画室にてデジタル部門のグループ再編と子会社ビジネス・アーキテクツの執行役員として同社のPMIをリード。2015年、IDOM Inc.にて新規事業企画、アクセラ運営に携わった後、若手ビジネス幹部人材の採用・育成を行う。2019年、経営VISION「次世代に活力と希望に溢れた豊かな未来をつなぐ」を掲げ、株式会社グランストーリーを創業。「活き人」への行動変容を目指すオルタナティブな人材開発プログラム「IGNITION」をリリース。2021年、スタートアップ・イノベーターをあらゆるセクターを包摂した社会関係資本で支援する新産業創造プラットフォーム「STORIUM」をリリース。現在500社が利用する次世代エコシステムとして全国拡大中。

STORIUM:https://storium.jp/about/

「会いたかった人」「会うべき人」との出会いが難しい

「VUCA」という言葉が示すように、現代社会は急速に変化し、それに伴って社会的な課題も複雑化し、拡大しています。これらの課題に単独の企業で対処するのは難しく、近年ではオープンイノベーションの重要性が高まっています。企業同士が協力するためには情報共有が不可欠であり、各企業のリーダーが集まるミートアップや大規模なカンファレンスは、未来のパートナーやステークホルダーと出会うための重要な場となっています。

しかし、多くのイベントが規模を拡大し、参加者数が増えることで、出会いの質が低下するジレンマが生まれています。これに関連して、「誰が誰なのかわからず、誰がどんなニーズを持っているかわからないから、誰と話せばいいのかわからない」という問題が発生しています。

加えて、近くにいる人に積極的に声をかけることで、稀に良い出会いに恵まれる一方、知り合いやあまり関与度が高くない人とのやりとりに時間を費やすことで、全体の時間配分が最適化できません。限られたミートアップの時間の中で、「会いたかった人」や「会うべき人」と接触できないという結果になってしまっています。

起業家・投資家・大企業イノベーターなど、多忙なビジネスリーダーたちが多くの時間・労力・コストを費やしてきた出会いの機会が、このまま最適化されずに続いてしまうと、ますます機会費用は大きくなっていきます。だからこそ少しでも早く本質的な打ち手を行い、出会いの最適化とビジネスをつくる生産性を高めていかないと、この国のイノベーション推進・新産業創造は、ますますグローバルに劣後してしまいます。

キーパーソンたちが有機的に出会えるプラットフォーム

このような課題意識から、私たちグランストーリーは、起業家や投資家、そして大企業のイノベーターたちに対して、最適な出会いの場を提供するサービスを展開しています。彼ら彼女らが出会うことでビジネスの成功確率を上げ、イノベーションの総量が増える。そうしたインフラをつくることを目指しています。

そのために「STORIUM(ストリウム)」という、イノベーションに挑戦する人たちが有機的に出会い、つながるためのオンラインのプラットフォームをつくりました。STORIUMの中では、企業と企業が互いに解決したいテーマや事業領域、人物の名前などで検索でき、メッセージのやり取りも可能です。相談したい相手を見つけやすくなり、出会いまでのプロセスが効率化されます。

大きな特徴は、各企業のキーパーソンが参加することです。スタートアップでは、代表や経営陣、大企業や投資家では、代表もしくは部門の意思決定権者の方たちにも必ず登録していただきます。

お互いに、相手方の事業やサービス、チームについてはもちろん、VISION・MISSIONもキチンと理解したうえで、目的志向で出会う体験を重視しています。

それに、企業と企業である前に人と人の出会いの最適化が重要だと考えています。登録いただく人たちには、人柄が伝わるプロフィール入力も丁寧に進めてもらっています。

また、STORIUM内での出会いをより前向きにサポートするために、私たちのチームには「カタリスト」というメンバーがいます。

イノベーションやセレンディピティは、異端なアイデアや課題が交錯し、化学反応が生まれる中でつくり出されます。カタリストという呼称は、そんなきっかけをアシストする「触媒」のようなプロキャリアをつくりたいと考え、名付けました。中立的な立場で双方ニーズを奥深く理解し、人と人の相性やタイミングにも配慮しながら、皆さんの一期一会をサポートしています。

企業間マッチングの最良テクノロジーとして、STORIUMはこれからも進化し続け、出会いの最大化と効率化により一層貢献し続けていきます。同時に、スタートアップに温かく寄り添うカタリストも、私たちの普遍的な価値として大切に育んでいきます。

最初からお互いに「パートナー」として出会える

例えば、スタートアップ企業で半年後に資金が尽きることがわかったとします。起業家は、そこに向けてどのように資金を調達するのか。融資を考えるかもしれませんし、自分の資産を活用するかもしれません。いずれにせよ、頭の中から資金調達の悩みが消えることはありません。

一方で、起業家にはほかに向き合うべきテーマや解決しなければならない課題が山積みです。新たなプロダクトや機能について考え、採用やチームと向き合い、自ら顧客のところへ出向くこともあるでしょう。そうした多くのテーマや課題に意識が分散してしまうと、結果的に全体的なパフォーマンスは低下し、時にメンタルヘルスにも影響が出てしまいます。

私たちは、そんな起業家たちの苦しさやさまざまなジレンマに配慮しながらサポートしたいと考えています。「投資家リストの作成は私たちにお任せください。一緒に考えましょう」「資金調達を始めるタイミングになったら、声をかけてください」と設定すれば、その時期まで起業家は資金調達のことを考えなくて済みます。そのタイミングが訪れたときに、資金調達のモードに入ってもらえばいいわけです。

また、私たちが間に入ることで、両社の出会いがスムーズに展開することもよくあります。起業家が自分で投資家を探して会うときには、どうしても「初めまして。今日はお願いします」といった姿勢で接してしまいがちです。すると、投資家も無意識にぞんざいになってしまうことがある。そうしたときに、誰かからの紹介があることで、最初から対等な立場で話ができたり、無用な認知バイアスがなく好意的な関係性から話を進めたりできることにもつながります。

「事前に御社の情報や資料を見て、理解と共感をさせてもらいました。今日はお互いの想いを共鳴させながら、未来を共にする話をしましょう」というように、「一緒にどんな課題を解決し、どんな何を達成したいか」から話し合うことができる。起業家から投資家へのプレゼンではなく、イコールパートナーとして出会う機会が生まれます。

あらゆる起業家や事業会社のイノベーターたちがこのような体験を通じて、企業価値向上と事業の成功確率を高めることができるインフラをつくることが、私たちの目的です。

起業家の意志と、金融資本主義の価値観の拮抗

かつて、ベンチャーやスタートアップと言えば、「成功したい」「お金を稼ぎたい」というイメージがありましたが、現在では多くの起業家が「成功やお金は、目的を達成する手段に過ぎない」という視点を持つようになりました。社会の課題を「自分事」として捉え、「自分が何とかしたい」という強い意志を持っています。

しかし、資金調達の段階になると、そこが少し歪んでしまいます。投資家との関わりの中では、どうしても資本主義の視点が入り込みます。リターンや成長、スケーラビリティが求められるようになり、だんだん目的と手段が入れ替わっていく。そうして起業家自身がメンタルヘルスケア問題に苛まれ、組織崩壊が起きる。私の立場で仕事をしていると、そんな話が耳に入ってくることが多く、悲しい気持ちになります。

またシードアーリー期のスタートアップでは、トラクション(実績)が出ていないことが理由で、追加投資を見送られるシーンが多くあります。しかし結果を出すための道のりを全力で走ろうとしているときに、結果が出ていないことを指摘するのは何かがおかしい。走り出そうという姿から、走る姿を想像し、声を出してエールを届ける応援者やコーチとして関わってほしい。

「見えないものはわからない」「数字で示されないことは信じられない」という人もいますが、そもそも起業家とは「見えないものを見ようとし、それをカタチにしたいと思い続ける特別な存在」です。

優れたトラックレコード(運用実績)を生み続ける有力な投資家の皆さんには、事業成長の蓋然性をロジカルに分析する能力と共に、起業家の存在を心底からリスペクトし、周囲の誰よりも彼らの可能性を信じて待つ力・愛ある胆力があると感じています。私たちはそんなすてきな投資家に出会える幸せな起業家を、一人でも多く増やしていく方法を探求し続けたいと考えています。

過去の公式ではイノベーションは生まれない

これまでの日本企業には、自社や業界がつくり上げた、成長のための公式がありました。決められたルールに従うことで、拡大生産を続けることができたわけです。その中で働く人々も、余計なことを考えず、マニュアル通りに業務を遂行すれば「優秀」と評価されてきました。その結果、企業も人も、新しい挑戦をするという発想自体が生まれづらい環境だったと言えます。

しかし、いま求められているイノベーションとは、未来から逆算して新しい価値を創造することです。現在はまだ顕在化していない問題を先読みし、その解決策を見つける、あるいは問題そのものを回避することです。そのためには、意思決定者が新たな視点で世界を見る必要があります。

日本の経済全体を見ても、GDPや時価総額が下がり、企業の投資額も減少しています。この状況では、日本全体のバリューション(企業価値)の低下は避けられません。

だからこそ、新しい投資を行うべきです。その挑戦が短期的な成功を約束するものではないかもしれません。しかし、長期的に見れば芽吹く種はたくさんあるはずです。かつての日本はイノベーション大国でした。私たちはこれまで、多くの企業が芽吹き、大きく花開く姿を見てきています。経営者たちがその精神を取り戻し、未来に向かって対話し、新たな挑戦をすることが求められているのではないでしょうか。

自分の力を信じて判断できる環境を

日本の企業には、これまで成長のための公式があった。私たち個人も、受験勉強を頑張ることで、一定の裕福さを手に入れることができました。しかし、それは必ずしも自分の「好きなこと」や「やりたいこと」とはつながっていないのが現実です。

私たちは親や学校、会社の先輩、上司など、外部からの評価基準が正しいと信じて、自分の意思を二の次にしてきました。その結果、「自分が何をしたいのか」と問われたとき、答えを見つけられないことがあります。良い学校を受ける、大企業に入る。それが悪いというわけでは決してありませんが、「親が喜ぶことを選ぶ」といった基準や、周囲への見栄といった意識によるものもあるでしょう。

私は、これが現在の日本の最大の課題だと感じています。自分自身で考え、判断し、行動する能力が失われている。この状況を変える必要があることは明らかです。

少子高齢化や生産人口の減少に代表される社会課題は、デジタル化だけでは解決できません。私たちが目指すべきは、個人が自分自身の力を信じることのできる環境を整えることです。そうしなければ、遠くない将来、この国を支える人々がいなくなってしまいます。

現在の10代、20代の若者たちはすてきな教育を受け、生まれたときからインターネットに触れています。自分のやりたいことを実現するスキルを身につけているわけです。しかし、その優秀な人材が日本を離れてしまう現実があります。

この問題を解決すべきなのは、いまの社会をつくり上げた40代、50代なのではないでしょうか。私は現在49才で、幸いなことにこれまでさまざまな経験をさせていただき、自己実現も叶いました。そうした世代が、次世代のために課題解決に取り組むべきです。

そのための第一歩が、社会課題を「自分事」として受け止めることです。例えば、データの専門家ではなくても、人口推計を見れば労働力が不足しつつあることは明らかです。しかし、どこかで「それは自分には関係ない」と思い込んでしまっている人も多いのだと思います。

本質的なトランジションは、社会課題と向き合い、その解決のために「自分はどうするのか」という問いから始まります。そこから生まれるストーリーは、決して平坦な道のりではありません。一人だけで乗り越えられるものではなく、みんなで取り組むべきものです。一人ひとりが自分の役割を担い、協力していくことで、大きなイノベーションが生まれるのです。

日本の先人たちは、戦後の日本を復興させ、たくさんの大企業を築き上げました。その遺産を私たちはいま、食いつぶそうとしています。これは個人の問題ではなく、社会構造や教育に原因がありますが、過去の成功体験から脱却できないまま、「失われた30年」を過ごしてきてしまったわけです。

幸いなことに、イノベーションの必要性は理解されつつあり、新たな情報や人との出会いを求める動きも見られます。しかし、まだそれは形式的なものに過ぎない部分が少なくはありません。

イノベーションのためのツールは、揃いつつあります。まずは、私たちの「OS」をアップデートする。自分の役割や立場、自分自身の人生を再定義し、未来に向けて変革していく。それさえ叶えば、より豊かな社会を築くことができるはずです。

後編へ続く

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