成功企業に共通する「敬意」×「数字」の法則。小さな行動の積み重ねが、結果を変える。

敬意があれば、職場の雰囲気は良くなる。職場の雰囲気が良くなれば、数字も良くなる。成功経営の出発点は、敬意である。「数字」にとことん向き合えば、「敬意」という「人としての在り方」に行きつく。
「フリーランスの経理部長」として活動を始めた経営コンサルタントの前田康二郎氏は、長年にわたって経理の観点から会社経営と向き合ってきました。数字を見つめ続けた前田氏がたどり着いた、成功する会社に共通する「敬意」×「数字」の法則とは。

前田康二郎(まえだ・こうじろう)
流創株式会社代表取締役。1973年生まれ。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。Podcast番組「THE VENTURE 〜ベンチャーで成功するための101のマインドセット〜」パーソナリティ。著書に『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』『メンターになる人、老害になる人。』(以上、クロスメディア・パブリッシング)、『図で考えると会社は良くなる』『社長になる人のための経理とお金のキホン』(以上、日本経済新聞出版)ほか多数。

「受動的」な経理から「能動的」な経理へ

私はフリーランスの経営コンサルタントです。現在は経営全般に渡ってコンサルティングを行っていますが、会社員時代や起業当初は、主に経理業務に従事していました。

経理を仕事に選んだのは、子どもの頃から数字が好きだったからです。テレビでCDの売上ランキングを見て、好きな歌手の順位を毎週予想していました。自分の予想が当たるかどうかよりも、「なぜ当たったのか」を考え、その理由を分析することが好きでした。
経理の業務は、大企業でもスタートアップやベンチャーでも基本的に同じです。ただ、自分がどのように経理という仕事に向き合うかで、その役割は大きく変わるのだと思います。
私が新卒で入社したのは、いわゆる老舗の大企業。そこで求められたのは、会社からの要求に素直に応えるという「保守的で受け身の経理」でした。しかし、ベンチャー企業に転職したことで、経理に対する考え方に変化がありました。
その会社では、現場が申請してこない領収書は自分で回収しに行く必要がありました。私が「それは経理の仕事じゃない」と先輩に言ったら、「経理の仕事が計算処理をするだけなら、あなたがいる意味がない」と返された。そのときまでの私は、申請が来たものを処理して報告することが、経理の仕事の全てだと思っていたんです。
先輩の言葉をきっかけに、自分から現場に関わる「能動的な経理」を意識するようになりました。実際に自分から現場に働きかけるようになったことで、分析した数字をもとに他部署にアドバイスをしい、部門間を超えた業務だけでなく経営にも関わりたい、といった気持ちも湧いてくるようになりました。

“フリーランス経理部長”として独立

30代後半で、中国駐在を経験しました。日本にいたときには業務が忙しく、自分のキャリアをゆっくり考える暇もありませんでしたが、中国に赴任してからは時間に余裕ができました。そうして、「これから先どうしよう。そもそも自分の価値はいくらだろう」と考えるようになったんです。
“部長”という役職での価値はわかるけれど、“前田康二郎”個人の価値はわかりません。中国でのプロジェクトが一段落した時に、会社員を続けるか、転職するか、独立するか、3つの選択肢を考えました。少し迷いましたが、一度独立して3年間やってみて、ダメだったらまた転職しようと決めました。
本当は、「経営コンサルタント」と名乗って独立したかったのですが、その時点でのキャリアは経理しかありません。いきなり「経営コンサルタント」と名乗ることは、お客様に失礼ではないか。会社員として最後のキャリアが経理部長だったので、そこからスタートすることにしました。

当時、米倉涼子さん主演のドラマ『ドクターX』が放送されていました。その中の“フリーランスの外科医”というフレーズがキャッチーだと思い、私も“フリーランスの経理部長”と名乗ることにしました。
もう一つ、漫画『島耕作シリーズ』もイメージしています。島耕作は、課長、部長、社長、と出世していきますよね。私も経理部長、CFO、社長、と成長したいと考えたんです。経理部長としての仕事から、経営コンサルタントの仕事に徐々にシフトしていきたいと思っていました。実際に、独立時は経理の実務的な依頼が多かったけれど、今は経営者視点での仕事に移ってきています。
「流創(るそう)」という会社名には、「新しい流れを創り出す」という想いを込めています。すでに他の誰かがやっていることなら、自分がやらなくてもいい。会社員として老舗もベンチャーでも経験したことが、私の強みです。独立して15年近くになりますが、“フリーランス経理”と名乗って活動している人はほとんどいません。そういう意味でも「自分にしかできないこと」をやってきたつもりです。

何事にもチャレンジするマインドを持つ

経営コンサルタントとしての私の目標は、パートナーと長く付き合える関係性を築くことです。
コンサルのご相談は、経理に関するお悩みから始まることが多いです。しかし、成長と共に、会社の悩みはどんどん変わっていきます。長くお付き合いを続けるためには、変化する相談内容に柔軟に対処できるスキルが必要です。多岐にわたって自分で勉強しつつ、お客様にも「経営全般についてご相談ください」と声を掛けるようにしていきました。
総合的な経営コンサルタントとして仕事をしていく中で、これまでやったことのない依頼が来ることがあります。その内容が、自分にも相手にも成長に繋がらないと考えて、お断りしたことはあります。しかし、やる前から「できません」と言ったことはありません。どんなことでも、まずは「やってみます」とお応えしてきました。
先ほど中国駐在の話をしましたが、実は当時、英語も中国語も話せませんでした。でも、「中国に行かないか」と上司に言われた3日後には行くと決めて、1カ月半後には赴任しました。昔もいまも、「まずはやってみよう」「やってみればなんとかなるだろう」という考え方です。そして実際に、なんとかなってきました。
この「やってみる」マインドが醸成された理由の一つは、ベンチャー企業で働いた経験です。その会社には「上場する」という明確な目標がありました。達成するためには、次々と起こる課題にチャレンジしなくてはいけません。自分ができるかできないかは関係なく、とにかくやるしかなかったんです。
目標と現実があったときに、多くの人は現実を優先します。けれど私は常に、目標が第一優先で、現実は2番目。そういうマインドでいることで、できなかったこともいつの間にかできるようになっていました。

「経理」を突き詰めた先に見えたもの

どんなことにも挑戦してきましたが、やはり私のキャリアの原点は経理です。経理のプロとして企業内外から、飽きるほど数字を見てきた経験が私の強みです。経営コンサルティングのご依頼をいただいた場合には、まずは財務諸表などの数字から見せていただきます。
改善策の提案のためには、客観的な根拠となる数字が必要です。相手に納得して行動してもらうために、データや数字は非常に重要な役割を担います。しかし、数字はあくまでツールでしかありません。数字だけで判断したり、行動を指示したりすることは、非常に危険です。
経理の問題点を発見し、帳簿上の数字を「3%削るべき」などと論理的に伝えただけでは何も変わりません。むしろ、数字だけで判断や指示をすることで、社員の方のモチベーションは下がってしまう。それは会社員としての現場での経験から学びました。
私は数字を分析した後に、必ず現場に足を運んで担当者の意見を尋ねます。数字と現場の声を総合的に分析した上で、納得して改善に取り組んでもらいます。社員のみなさんが頑張っているにもかかわらず赤字になっている場合は、「頑張る方向性」が間違っているのかもしれません。そのときには「方向性を修正しましょう」と伝えます。
「これが数字を悪化させている原因じゃないか」と仮説を立て、分析する。その仮説を社員の方に伝え、改善に取り組んでもらう。そうすると、ほとんどの場合、数カ月後には数字も改善されています。小さい頃から好きだった仮説分析が、数字だけでなく人の行動に対しても応用できた。そこにやりがいを感じるようになっていきました。

数字の悪い会社に足りないもの

私に仕事のご相談をいただくお客様の中には、経営上の課題を抱えている企業もあります。では、業績のいい企業とそうではない企業は何が違うのか。数字は、社員一人ひとりの行動の結果です。そこを深く掘り下げたら、何かの法則が出てくるのではないかと考えました。

経理のプロとして数字を見つくしたからこそ、数字の先にある、人の行動やあり方に興味を持ったのだと思います。根幹にある社員の行動が改善されなければ、数字は変わらない。裏を返せば、「人の行動が良くなれば、最終的には数字も良くなるはず」と分析を始めました。
その法則がわかったのは、経営危機にあったある企業とのお仕事です。依頼を受けてオフィスに毎日通っていると、社員同士がお互いを無視していました。「その職場に足りないものは何か」と考えると、お互いに対する「敬意」ではないかと思ったんです。
敬意のない行動の積み重ねが、会社の雰囲気だけでなく、数字までも悪くしている。つまり、「敬意に欠けるふるまいを変えて職場の雰囲気が良くなれば、数字も良くなるのではないか」と仮説を立てました。そういう視点で客観的に会社を見ると、赤字経営の会社では、挨拶すらしないなど、敬意のない行動が圧倒的に多かった。反対に、経営が上手くいっている会社では、社員同士が敬意を持って接していました。
「敬意があれば職場の雰囲気は良くなる。職場の雰囲気が良くなれば、数字も良くなる。成功経営の出発点は、敬意である」。これが、私の導き出した成功する会社の「敬意」×「数字」の法則です。

敬意のある職場が「働き方」を楽しくする

会社は数字を追い求めます。その数字を扱うのは人であり、人の集まるところが会社です。だからこそ、社員同士が互いに「敬意をもって接する」ことが起点となります。会社として何百人何千人で働く意味は、生産性を上げ、効率を高めるため。敬意ある関係性がないと、集合体である意味がないということです。
「職場において必要な敬意」を一言で表すならば、「相手にとって嫌なことをしない」です。最低限のビジネスマナーに近いことだと思います。仲良しチームではなく、気が合わない人や大嫌いな人であっても一緒に仕事をしなければいけないのが職場です。会社として数字を出すためには、誰もがパフォーマンスを発揮しやすい環境を作る必要がある。そのための第一歩が、相手が嫌がる振る舞いをしない、ということです。
「職場のマナーだから」と苦手な相手に「笑顔で優しく接しよう。互いに協調性を持ちましょう」と言われても、ストレスが溜まるだけです。そうではなく、お互いのパフォーマンスや生産性が高まるように「人として敬意のない行為だけはしないでほしい。無視はやめて、挨拶くらいはしましょう」と言えば、皆さん賛同してくれます。社員一人ひとりが相手に敬意を持って接すれば、言葉遣いも態度も変わり、職場全体の空気が変わります。

他人の行動を変えることは難しい。けれど、自分の行動で他人の心に影響を与えることはできます。相手に対して「この人は敬意を持って接してくれている」と感じれば、「自分も同じように敬意を持とう」と思えるはずです。私自身も、常に敬意のある行動を心がけています。「前田のように人と接すればいいんだ」と思ってもらえるロールモデルになりたいと思っています。
企業で働く人の多くが、1日のうち3分の1の時間を職場で過ごします。その時間を少しでも過ごしやくしたい。社員一人ひとりにとって嫌ではない職場、お互いが敬意を持って接し合う職場を作れば、働き方が楽しくなり、生き方までも楽しめる人が増えると思っています。コンサルティングや作家活動など通して「敬意のある職場づくり」を啓蒙し、働きやすい職場をひとつでも増やしていきたいです。

取材・文:倉﨑尚子

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