「選択肢を持つ生き方」これからの時代の幸せのスタンダード

デジタル化が進み、リモートワークが普及する中、場所に縛られない生活を選ぶ人が増えています。物価高騰や自然災害といった予測不可能なリスクが日常化する現代社会で、私たちはいかにして「リスクとの共存」を受け入れ、幸せを見出すことができるのでしょうか。

社会活動家として数々のメディアに取り上げられ、自らも一か所に留まらない生き方を選択してきた石山アンジュさんは、そんな変化の時代に「いくつもの選択肢を持つこと」が豊かさのスタンダードになると提唱します。

2019年に発売された本『SHARE LIFE』以降、社会に新しい価値を提案し続けてきた石山アンジュさん。今回、2作目の作品となる『多拠点ライフ』を編集したのは、数々のベストセラー書を手掛けてきた小早川幸一郎です。そんな彼が、ビジネス書のヒットメーカーならではの視点で、『多拠点ライフ』の意味と無限の可能性を聞き出します。

※この記事は、2024年3月配信の、クロスメディアグループの動画コンテンツ「ビジネスブックアカデミー」を元に文章化し、加筆・編集を行ったものです。

動画はこちら

石山アンジュ(いしやま・あんじゅ)

社会活動家。シェアハウスで育つ。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを普及するほか政府と民間の間に立ちながら社会課題の解決に取り組む。2019年から大分県の農村集落と渋谷のシェアハウスを行き来する二拠点生活を開始、以降、全国を転々とする生活を送る。政府の多拠点生活のあり方を議論する国土交通省「関係人口・ライフスタイルに関する懇談会」や地方創生の中長期戦略を議論する内閣官房「地方創生有識者懇談会」有識者委員を務め、シェアを通じて持続可能な共助地域を創る「シェアリングシティ」を全国に広げる。デジタル庁シェアリングエコノミー伝道師。新しい家族の形「拡張家族」の実践と普及、若い世代のシンクタンクPublicMeetsInnovation の設立、『羽鳥慎一モーニングショー』、『真相報道 バンキシャ!』など複数の番組でコメンテーターを務めるなど幅広く活動。株式会社USEN-NEXT HOLDINGS社外取締役(就任時、東証一部 最年少女性)。著書に『シェアライフ 新しい社会の新しい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)。趣味は大人数料理をつくること。

小早川幸一郎(こばやかわ・こういちろう)

クロスメディアグループ(株)代表取締役。出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開中。

「多拠点ライフ」で生まれる、地域との心の繋がり

小早川 アンジュさんと一緒に本をつくるのは、今回で2回目ですね。1作目は2019年『シェアライフ』。今回は『多拠点ライフ』です。

石山 2019年当時、まだ無名だった私に声をかけて下さったのが小早川さんでしたね。2019年に出版した『シェアライフ』は、私の名刺のような1冊になりました。

その頃から、だいぶ社会が変わったと感じています。コロナ以降、暮らしや生活を見直す人が増えていく中で、住む場所は1つじゃなくてもいいというライフスタイルが注目され始めています。

小早川 複数の場所を行き来する、多拠点での生活は難しいと思っている人は多いと思うんです。アンジュさんは、どうでしたか?

石山 私の場合は、10代の頃から帰る場所が複数あるというライフスタイルでした。お父さんの家、お母さんの家、彼氏の家、友達の家を行き来していて、そんな生活を居心地良く感じていたんです。この経験がルーツとなり、社会人になって東京へ移ってからも、シェアハウスを利用して一か所に留まらない生活を続けていました。今は東京と大分の二拠点を主に行き来しています。

今利用している東京のシェアハウスは、「拡張家族」というコンセプトで運営していて、「相手を家族だと思ってみよう」ということを生活の基軸にしています。

それと、もう1つ、2019年からは大分県にある、空き家バンクを通じて築90年の大きな古民家を借り、月の半分を過ごすという生活を始めました。

小早川 私も、一昨年にアンジュさんの大分の家にお伺いしました。東京から大分まで飛行機で行って、レンタカーを借り、大自然の中、冒険をしているような感覚でたどり着きました。とてもいい場所ですよね。

石山 自然99%人間1%というような、自然の中にポツンとある家です。最初は、本当にボロボロでしたので、自分でペンキを塗ったり、机を作ったりDIYしながら暮らしを作る楽しさを覚えました。

小早川 アンジュさんは生まれも育ちも横浜でしたよね。大分の生活は、ギャップを感じますか?

石山 最初に大分の家を訪れたときは、衝撃を受けました。森の中でいろんな鳥たちの囀りが聞こえ、色とりどりの花たちが喋っているかのように咲き誇る。そして、鹿やイノシシなどの動物たちが間近を通りすぎるんです。まるで、ディズニーランドの世界に迷い込んでしまったような感覚でした。

小早川 大分の生活を始めてから、地元の方とはすぐに溶け込めましたか?

石山 周りに住んでいる方々は、皆さん80代前後で、パソコンで仕事をするという感覚がありませんでした。仕事中の私を見て「この子は、なんなんだろう?」と不思議に思っていたようで、「アンジュちゃん、いつまでお勉強してるの?」という質問をよくもらっていました。日々の生活の中で、お裾分けをいただき、お返しをしたり、お祭りの手伝いをしたり、地域の方と関わることで信頼関係が築かれていきました。今では「こないだテレビ出ていたわね」と、まるで、自分の娘のように話してくれます。

そんな中で、今回出版した『多拠点ライフ』を、読んでくださった地域の方から、心に残る感想をいただきました。その方は、生まれてからずっとこの地域に住んでいて、魅力がある場所だとは一切思ってなかったそうです。でも、本の中で、都会から来た人が地元の風景をディズニーランドのようだと表現していることで、自分の住む地域への自信を持つことができ、好きになれたということでした。自分の言葉が、その地域の人に、地域の魅力を再発見するきっかけになったと感じ、嬉しくなりました。

実際に住んで、地域の人と関わっていくうちに、大分に対して愛着と誇りである「シビックプライド」を感じ始め、もっと深いところに関わりたいと思うようになりました。

国や地域の経済を活性化させる「関係人口」という概念

小早川 大分での社会活動や地域の人々との交流を通じて、アンジュさんが気付いた、地域が抱える問題や解決方法があれば教えて下さい。

石山 地方では耕作放棄地が問題となっています。私の住む地域でも高齢化が進み、どんどん農家が廃業し、農地が余っている状態です。そこで私は、3年前から田んぼを借りてお米作りを始めました。半自給自足の生活を通じて感じる豊かさや安心感、そして地域の方々から自然や農業に関する知識を受け継ぐ楽しさを実感しています。

お米作りを通じて、経済的な側面だけでなく、人の役割の重要性を強く感じるようになりました。例えば、地域には、固有の自然の生態系や水質など、長年受け継がれてきた知識があります。もし、東京や海外の企業がその知識を知らずにこの土地で農業をしても、土地本来の良質な野菜や米を栽培することは難しいでしょう。

伝承の連鎖を途絶えさせないためにも、1次産業に従事する高齢者に若い世代の人たちが積極的に寄り添い、知識を受け継いでいくことが、これからの大きな課題であると強く感じています。

小早川 これまで地域の活性化と言えば、工場や企業誘致による雇用創出や税収増加が主だったのですが、人の動きがこれからは大事になってくるんですね。

石山 その観点からいうと、もう1つ、大きな問題があります。誘致を受け入れる地域側が、市場経済を優先するあまり、その地域固有の景観や残したい価値について議論することなく、デパートやリゾートホテルのような施設を作ってしてしまうことがあります。その結果、全国の美しい風情が失われてしまうという危機を感じます。

地域固有の価値や特色を受け継ぐためには、地域に関わる多様な人を増やし、人々の繋がりを深めることが重要です。そこで注目されているのが、複数の拠点を行き来する「関係人口」という存在です。関係人口は地方創生における核心的な要素ともいわれ、その概念は、日本だけでなく世界中のトレンドとなっています。

世界では、オンラインでどこからでも仕事ができるライフスタイルの人を「デジタルノマド」と呼びます。観光で一度訪れてもらうよりも、デジタルノマドで長期的に滞在してもらった方が、国の経済は潤います。

コロナウィルス以降この考え方は加速し、多くの国がデジタルノマドを対象としたビザを発行するようになりました。従来の就労ビザはその国の企業で働く必要がありましたが、デジタルでの収入証明があれば、その国での長期滞在が認められます。

人口を「シェア」するという発想が地域創生の要

小早川 地方が抱える問題に対して「関係人口」という存在はどのような影響力がありますか?

石山 これまでの日本の地方創生政策は、移住を促すことを主な目標としてきました。つまり、定住人口を増やそうとしていたんです。ただ、日本全体の人口が減少している今、各自治体が移住を呼びかけても、結局は自治体間で人口を奪い合う形になってしまいます。

そこで生まれたのが、人口をシェアするという発想です。「関係人口」という概念を政策として国が推進をすることで、より多くの人が地方に流れていくという考え方です。私も、政府の委員会の委員として関わっています。

小早川 政府の委員会での活動で、何か問題を感じることはありますか?

石山 関係人口という存在を受け入れなければ、破綻してしまうかもしれないという地域が増えています。多くの地域は、地元の企業による雇用率を上げるのが難しく、移住してもらっても仕事がないといった問題に直面しています。

そうした地域では、東京などの都市部で仕事を持ちながら、地方で生活し消費をするという形態の関係人口を受け入れることで、地域の持続可能性が支えられるということがあります。

小早川 関係人口という存在を受け入れるための取り組みとしては、どのようなものがありますか?

石山 今、国の政策委員会の中で、住民票を1つの地域にしか持てないという現行の制度を見直し、2つの地域で住民票を持つことができるようにするべきだという議論が出ています。

また、選挙についても、関係人口として他の地域の選挙にも投票できるように制度を変えるべきだという意見があります。

さらに、教育分野でも制度の変更を求める議論が進んでいます。従来、住民票のある地域の学校しか通えないという規制に対して、2つの拠点で学校の席を持てる「デュアルスクール」という制度を導入する自治体が増えてきました。実際に、東京に住むある家族が子供にウィンタースポーツを学ばせたいと考え、1学期だけ新潟の学校に通わせる事例を今回の本で紹介しています。子育てをしながらでも多拠点ライフを実現することができる時代になっているんです。

私にとって、生活、仕事、活動のすべてが「シェアライフ」

小早川 アンジュさんは常に新しいアイデアを思いつき、時代に沿った最先端の活動をされています。現在の取り組みについて、詳しくお聞かせください。

石山 私は今、2つの団体を運営しています。1つは「シェアリングエコノミー」を普及させることを目的とした業界団体で、現在約400社が加盟しています。

この業界団体では、加盟している企業と協力して、シェアリングエコノミーの市場を政策や法制度の面から整備する活動を行っています。また、全国の自治体と連携して、地域が直面している課題を解決するためのソリューションを提供するなど、幅広い活動を展開しています。

もう1つは、「パブリックミーツイノベーション」という、ルールや法制度を作る人材を育てる「ルールメイキングスクール」です。今、政治家や弁護士だけでなく、いろんな場面で法律や制度の変更が必要とされています。例えば、学校の校則を変えることも、ルールメイキングの一環です。

このスクールでは、ルールメイキングに関する知識を若い世代に教えるとともに、彼らの声を政府に届けるためのシンクタンク事業も展開しています。

小早川 今、アンジュさんが展開している事業の中では、民間、公共、社会を指すトライセクターからの相談が多くなりますよね。どのような相談が多いですか?

石山 今、企業が、自社の利益追求だけではなく、SDGsやサステナビリティといったことにもっと責任を持つべきだという考え方が広がっています。そこで、企業が社会への貢献を深めるために、行政や他のセクターとの連携を模索する相談が増えています。

私は、様々な業界と関わりがあるので、このような相談に対して、支援や提案をすることで社会と企業をつなげる活動をしています。

小早川 アンジュさんは、本当にいろいろな活動をしていますよね。

石山 確かに私はいろいろな活動をしていますが、一貫した思いがあります。

住む場所や生活をシェアし、そこで感じた地域の人の思いを社会と共有する。私にとって生活、仕事、活動の全てが、まさに「シェアライフ」なんです。この人生が、私にはしっくりきています。

「選択肢を持つ生き方」は新たな幸せのスタンダード

小早川 アンジュさんの仕事が特別だから、多拠点での生活ができていると思うのですがいかがでしょうか?

石山 全然そんなことないです。多拠点ライフは、一部の若者や裕福な人だけのものではなくなっています。リモートワークは、フリーランスだけでなく企業にも普及し、その影響は非常に大きいと感じています。今はどこにいてもオンラインで繋がれば働くことができるようになりました。この新しい選択肢を持てる人には、ぜひ多拠点ライフを始めてほしいです。

小早川 今回、本の帯のコピーにアンジュさんの「「いくつもの選択肢を持つこと」が豊かさのスタンダードになる」という書籍のインタビューをしたときに心に残った言葉を使いました。私にとって「選択肢を持つ」という概念は、新しいものでした。これについて教えてください。

石山 今は、社会全体が不安定な中で、企業の倒産や自然災害の発生がいつどこで起こるかわかりません。幸せではないと感じるのは、不安があるときです。不安の根源は、「もしも」の状況への恐れです。「もしものときに備えて、これだけはある」という安心の選択肢を少しずつ分散して持つことで、不安から逃れることができます。

多拠点に生活の起点を置き、家も仕事も人間関係も分散して複数の選択肢を持つ生き方というのが、これからの豊かさのあり方だと考えています。

多拠点ライフ

著者:石山アンジュ
定価:1628円(1480+税10%)
発行日:2023年8月11日
ISBN:9784295408611
ページ数:192ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス

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