「面白い」メーカーでありたい。飲料業界の風雲児が貫く経営哲学


2006年の創業以来、話題の商品、ヒット商品を数多くマーケットに送り出すトーヨービバレッジ。大手メーカーと一線を画するユニークな商品群を展開し、2022年度は社員45人で年商131憶円を超えた少数精鋭の企業です。
今注力しているのは、なんとタピオカドリンク。すでにブームが過ぎ去ったとも思える市場で、なぜ勝負をかけるのか。その背景には、確固たる経営哲学がありました。


熊谷 聡(くまがい・さとし)

トーヨービバレッジ株式会社代表取締役社長。1960年生まれ。鳥取県出身。1984年日本大学卒業後、UCC上島珈琲株式会社に新卒入社。その後に社内各部署を経て2002年株式会社ユニカフェ入社。2006年トーヨービバレッジ株式会社を設立、2009年代表取締役社長就任

コンビニエンスストアをメイン顧客とし、オリジナルカップ飲料の企画開発から製造卸までを手掛ける。小売業のプライベートブランド商品に参入し、現在はすべての小売チャネルに向けて商品供給を行っている。2020年よりカップ入り食品の開発に着手し、食品マーケットにも参入。著書に『面白くなければ仕事じゃない』(クロスメディア・パブリッシング)がある

今、「タピオカドリンク」を売り出す勝算

現在、当社ではタピオカドリンクの開発に取り組んでいます。これまでテストを何回か繰り返し、商品化に向けた課題が解決されたため、来春の発売に向けて製造の準備を始めようという段階です。

創業以来1000を超える商品を市場に送り出している当社ですが、このタピオカの開発にはとりわけ工夫を重ねています。「いまさらタピオカ?」と思われた方もいるかもしれませんね。しかし、この開発には当社創業以来の強い想いが込められているのです。

ご承知の通り、タピオカドリンクとはキャッサバの粉を丸く固めた粒をドリンクに入れて製造する飲料です。

タピオカドリンクがブームになったのは今から10年以上前のことです。元々は台湾や東南アジア全体で流行していたものを、日本のあるメーカーが現地で見つけて、日本でも流行させました。

当時のブームをつくったメーカーでは、飲料に直接投入が可能なタピオカを製造するのにずいぶん苦労したと伺っています。なぜなら生産ラインの制約があって、でんぷんの溶け出しやすいキャッサバのみを原料としてタピオカをつくることが困難だったからです。

そのためメーカーでは打開策として、こんにゃくを混ぜることにより、本物のタピオカに近い食感を開発しました。すると、当時の日本では本物のタピオカの食感がほとんど知られていませんでしたから、「食感が面白い」と話題になって一大ブームがまき起こったのです。

ブームが加熱するにつれて、街にはタピオカ専門店が一気に増え、消費者のみなさんは「本物のタピオカドリンク」を初めて体験することになりました。その結果、加工食品飲料として販売されているタピオカドリンクと、専門店で販売されているタピオカとの風味や食感の違いがわかるようになりました。いつの間にか、加工食品飲料としてのタピオカドリンクは下火になっていったのです。

一方で「本物のタピオカドリンク」はどうかといえば、コロナによって外食産業そのものが大きな打撃を受けたにもかかわらず、相変わらず好きな人がたくさんいます。 「小売店のタピオカドリンク」は飽きられてしまったけれど、「本物」を求める人々は変わらず存在する。だったら小売店の商品棚に、正真正銘のタピオカドリンクを置いて見せようじゃないか! 当社はそのように考え、「本物」の製造に踏み切ったのです。

敢えて手間のかかる方法を採用する

当社のクライアントである小売店の営業担当者の方と話をすると、みなさん「もうタピオカブームは終わったよね」とおっしゃいます。そんなとき、私はこう申し上げています。

「“こんにゃくタピオカ”のブームが落ち着いたのであって“本物のタピオカ”のブームは終わっていません。店舗数が減ったにもかかわらず、相変わらず高単価で販売されているし、消費者の評価は高い。だから、本物だけを使って商品化を考えればいいんじゃないでしょうか?」。

とはいえ、「言うは易く行うは難し」です。 タピオカを投入して密封すると、飲むときにどうしても容器に引っ付いて、溶け出してしまうのです。打開策として当社の開発部が出した結論は、タピオカを投入した状態で封入せず、パッケージに「別添付」し、後から入れるというものでした。

このような「後入れ」の商品は昔からあったのですが、RTD(Ready To Drink:パッケージ内ですでに完成し、栓を開けてすぐに飲める商品)の業界では製造の手間を嫌い、完成品を販売するのが従来のやり方でした。効率重視の大手メーカーでは、こうした方法は取らないだろうと思います。

SNSなどで昨今の消費者の様子を見てみると、自分たちで味わいをアレンジしたり、さまざまな加工を加えて遊んでみたりと、商品の楽しみ方が少し変わってきているように感じます。だったら、タピオカを「後から加える」方法でも、お客さんは違和感ないのでは。後から加えるという方法は、手間がかかって敬遠されるのではなく、かえって価値が上がる方法なのではないか? そう考え、敢えて当社は手間がかかる「後入れ」を選択しました。

たとえ爆発的なヒットにならなかったとしても、手間をかけただけの経営的なリターンがなかったとしても、本当に美味しいもの、言いかえるなら外食産業でも十分通用するほどにクオリティの高いものを、我々の扱う小売り用の飲料製品としてつくり上げたい――そんな想いがあったのです。

大手企業ではなくても消費者のロイヤリティを生み出すことができる

今回のように商品を「別添付」する方法は、手間はかかるしコストもかかります。場合によっては、それ専用の施設や機器を作成することすらもあるくらいで、相応のリスクを覚悟して実行することになります。

「なんでわざわざ、そこまでやるの?」と聞かれることもあります。理由を一言でいえば、当社にとってはそのほうが「面白い」からです。飲料商品の企画では「面白さ」をつくり出すことが重要だと思っています。やっぱり、お客様が喜ぶことがいちばん大切です。お客様が一口飲んで、「これ、本物のタピオカだよね!?」って言ってくれた笑顔が見たい。

きっとそれは周りの人たちにも伝染するはずです。「ちょっとこのタピオカ飲んでみて!」「え、なになに?」といった会話が起きることによって、当社のファンが生まれていく。それは売上を超えた強みになるのではないかと思っています。

消費者のロイヤリティとは、こうした創意工夫で徐々に高まっていくのではないでしょうか。当社はそのためだったら、手間やコストがかかっても何とかしてみせるという覚悟でチャレンジしています。

もちろん当社も大手企業同様に大量生産を実施して、たくさん売っていく戦略を徹底させていきたいところです。ですがその一方で「あの会社って面白いもの出してくるね」という商品開発のスタンスにも特別の想いを持っています。「誰もやらないよね、こんなこと」ということを敢えてやっていくのが、うちの会社のミッションだと考えています。

マーケティング理論より重要な「普通」という感覚

小売りにおいて「タピオカドリンク」のブームは終わっている。だが、街のお店屋さんでは「本物のタピオカ」のブームはまだまだ続いている。だから「本物」にチャレンジしよう――。

私はこうした決断をする際、「本物のタピオカ」の愛好者や店舗の数など、数値化されたマーケティング・データを根拠にすることはありません。

頼りにするのは、ひたすら自身の「感覚」です。当社の過去の成功事例から考えても、勝負をかけるときはやっぱり感覚で突き進むしかないのではないか、というのが正直な感覚です。

ビジネスのすべてにエビデンスがあるわけではない。当たるときは当たるし、当たらないときは当たらない。どれだけデータを積み重ねて「売れるはずだ」と作った商品でも、売れなかったものは山のようにあるはずです。

私の判断の根拠の一つに「現場」があります。今回タピオカを企画する際、東京・渋谷の界隈、たとえば宇田川町などを見て回りました。この歳でお店の列に並んでいても明らかに目立ってしまいますが、そうしたフィールドワークは怠らないようにしています。

ちなみに渋谷にはタピオカのお店がいっぱいで、それぞれのお店に人が並んでいました。宮下公園などでも、普通の感覚でカップを持ち歩いて飲んでいました。「全然、ブームは終わってない。“普通の人”がものすごい列を作っているじゃないか」と確信しました。

私がマーケットを判断するフレームワークとして「普通」という感覚があります。

商品開発において「普通」とはいちばん大事なことだと思うのです。ぱっと見て人が並んでいる、商品をいっぱい持ち歩いている。そこにいろいろな理屈をつけて分析するよりも、「みんな普通に飲んでたじゃないか」と、そんな感覚を大切にすべきと考えています。

こうした感覚が特殊なのではなく、誰でも持っているものではないでしょうか。自分がいる世界を、どんなセンサーをもって見ているかが重要なのだと思います。そして、それは経営の判断に必要不可欠なセンサーだと感じています。

お客さんの笑顔になれる商品を

私の「普通」のセンサーが機能した例として、コメダ珈琲店とのコラボレーションを挙げます。コメダ珈琲店を冠した商品は当社のナショナルブランド商品としての主力で、これまで1億本ほど販売しています。

今からさかのぼること16年ほど前、まだ当社の創業間もなくのことですが、私は全国の喫茶店とコラボした「銘店珈琲シリーズ」を企画し、それぞれの地元で有名な喫茶店に提携を申し込みました。

シリーズのスタート当初は「自家焙煎で、かつ創業30年以上」といった基準で協力店をセレクトし、コラボレーションをお願いしていました。コメダ珈琲さんはその基準に必ずしも当てはまるわけではなかったのですが、名古屋ならではの思想でオリジナリティ溢れる店舗運営をされていて、私の印象に強く残ったのです。

コーヒーを幅広い客層に向けて提供するため、コメダ珈琲さんは欧米の模倣でなく、日本独自の喫茶店、つまり「ほっとできる空間」にこだわって展開されていました。コーヒー自体も品質へのこだわりは当然お持ちですが、薄暗いところでタバコを吸いながら飲むコーヒーではなく、純粋に、普通に美味しいコーヒーを提供されていた印象でした。メニューやお店の雰囲気には「昭和の世界観」が満ちていて、だからこそ年配の世代には郷愁、若い世代には新鮮さが感じられるお店です。

この「普通に美味しい」という感覚を伝えることができれば、きっとヒット商品になる、私はそう考え、商談を重ねて発売にこぎつけました。こんなふうに「普通」を頼りに開発・販売してきたからこそ、本シリーズは多くの方々に支持をいただき、累計1億本以上売れる商品に育ったのだと思います。

コーヒーのおいしさを語るとき、さまざまな「言葉」で美味しさを飾ることは大事です。一方で、美味しさとは「記憶」とのつながりでもあります。コメダ珈琲さんのメニューは私たち皆が共通に備えている生活の原体験からくる美味しさだと思うのです。

これから時代はますます変化していきますし、当社もどのように変わっていくかはわかりません。けれども、当社の基本理念は変わりません。それは「美味しい、楽しい、嬉しい」をつくり出して、お客様に喜んでいただくということです。 「面白い」商品、つまり、お客さんが笑顔になれる商品を世に送り出していけば、ますます社会は豊かになっていくのではないかと思います。

面白くなければ仕事じゃない

著者:熊谷 聡
定価:1628円(1480+税10%)
発行日:2023年9月1日
ISBN:9784295408642
ページ数:236ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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