インタビューライターとして活動しながら、「人に興味がない」「話すのが苦手」と話す、“いしかわゆき”さん。それなのに、自ら営業をすることなく仕事が舞い込むほどに人気を集め、経営者や芸能人のインタビュー、企業のnote代筆など、幅広い分野で活躍しています。
彼女にとっての「書く」とは、唯一の生存戦略。ほかの方法では適切な表現ができないからこそ、「書く」を選んだと言います。インタビュー相手の持つ魅力を引き出し、読者に届ける。その過程では、「自分の書きたいことではなく、読者が欲しがっていることを書く」というプロ意識と、「自分のために書く」という想いが重なっていました。
いしかわゆき
ライター。早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系卒。Webメディア「新R25」編集部を経て2019年にライターとして独立。現在は取材やコラムを中心に執筆するかたわら、生きづらい世界をいい感じに泳ぐために発信している。著書に「書く習慣~自分と人生が変わるいちばん大切な文章力~」「聞く習慣~自分と人生が変わるいちばん大切な文章力~」(以上、クロスメディア・パブリッシング)、「ポンコツなわたしで、生きていく。~ゆるふわ思考で、ほどよく働きほどよく暮らす~」(技術評論社)などがある。
「初めて会う人と1時間も話をするなんて無理」
私は、インタビューライティングを軸にお仕事をしています。例えば、経営者や芸能人の方へのインタビューや、採用広報のための社員インタビュー。最近だと、企業が発信するnoteのライティング依頼なども増えています。
ただ、もともとインタビューライターになりたかったわけではなくて……。というのも、私は本当に人に対して興味を持てなくて、インタビューなんてできるとも思っていませんでした。
社会に出て最初の仕事は、雑貨メーカーの営業です。当時は働く意欲が薄くて、「ブラックじゃなければいいや」くらいの感覚で入りました。営業は絶望的に向いていませんでしたが、1年経ってやっと「働くのって意外と悪くないぞ」と感じるようになって、だったら少しでも興味のある仕事をしようと、広告代理店に転職しました。
誰とも話さなくていいような環境は快適でしたが、やってみて気づいたのが、ウェブ広告は世の中に残らないということ。作り手の思いは関係なく、費用対効果が悪ければ取り下げられてしまう。それが嫌で、何か残るものを作りたいと思ったときに、昔から得意だった文章を書くことが浮かんできたんです。
そこで、「新R25」という若手ビジネスパーソン向けのウェブメディアを運営する部署に異動して、ライティングの仕事を始めました。あまり人とは話したくないし、引きこもって仕事をしていたい。そんな“陰キャ”な私にとって、ライターの仕事はうってつけだと思ったんです。
ところが、私が異動する頃にはメディアの方針が変わり、インタビューメディアに転身。これは青天の霹靂でした。私はまず、人に会いたくない。ましてや、知らない人と1時間も会話を続けるなんて……! アドリブでスラスラと会話できる人もいるけれど、私はすごく頑張って考えないと人と話せないんです。
最初は、インタビューがすごく苦手でした。予定通りに進行できなかったり、テンパって変なことを言ってしまったり。でも、人は慣れるもので、最初はできないことも、やっているうちに自然にできるようになるんですよね。先輩に倣いながらインタビューのイロハを学んでいるうちに、だんだんと仕事の幅を広げたいと思うようになって、フリーのインタビューライターとして独立しました。
「これをあげたい」より「何を欲しがっているか」
インタビューライターの仕事は、「企画」「インタビュー」「ライティング」の3つの要素で構成されています。
まず、企画の段階では、読者が本当に知りたい情報が何なのかを客観的に見極めます。例えば、30代向けのメディアに20代のインフルエンサーの記事を掲載しても、興味を引くことは難しいですよね。特に初めてのメディアで書くときには、過去の掲載記事を研究したり、読者層になる方たちのSNSを見たりして、徹底的に情報収集します。
どんな記事を読んでいるんだろう、どんな情報を欲しがっているんだろう、どんな人が好きなんだろう。読者に近づくことで、読者に届く企画を考えることができると考えています。
私は、ライターという仕事は料理人だと思っているんです。何を作るかを考えて、必要なお魚やお肉、野菜を集める。どういう切り方や味つけをしていけばおいしい料理になるのかを考えて、実行する仕事です。
だからこそ、おいしく食べてもらうために、テーマ設定や言葉使い、話の順番など、徹底して相手のことを考えて作ります。「これを書きたい」ではなく、読者が「何を欲しがっているのか」がいちばん大事だと思っています。
「自分にしか聞けないこと」を聞くために
相手が欲しいものを届ける。その前提を踏まえると、インタビューへの向き合い方が変わってきました。先ほどお話ししたように、私は会話をするのが好きではありません。素のままだと「話したくない」「興味がない」が先行してしまう。でも、インタビューライターとして、相手の言葉を読者に届ける責任があります。誰もが話を聞きたいと願うような方の1時間を独占してインタビューをするのだから、読者を代表して、読者が聞きたいと思っていることを聞く。それを文章として読者に返していく。それが私の仕事です。
そう考えて仕事をしているうちに、“会話が苦手な自分”に、“インタビューライターとしての自分”を憑依させる技が身につきました。
そのために必要なのが、インタビューの前に徹底的に準備することです。短い時間のなかで、誰にでも聞けるようなことを聞いても、深い所にはたどり着けません。その一歩先にある領域に踏み込むために、事前に相手のことを調べつくします。相手の周辺情報はもちろん、著書やインタビュー記事があれば、徹底的に読みこみ、アーティストなら、作品を鑑賞します。
そうすると、いつの間にか「ファン」になる。だから読者が聞きたいことがわかるようになるんです。人を好きになることって偶発的なイメージがあるけれど、私はその人を知る努力を経てでも、好きになれると考えています。
それに、特にインタビューに慣れている方に話を聞く際に、型通りの質問だと、定型文のような回答が返ってきてしまいます。そこで、これまで聞かれていないことや、「これを聞くと失礼かもしれない」と思えることをあえて聞く。誰にも聞かれなかったことを聞いて初めて、どこにも載っていないような新しい言葉を引き出せます。「いい質問ですね」「初めて聞かれました」なんていう言葉の後に、思わぬ「パンチワード」が出てきたら、「おもしろい記事」に一歩近づくんです。
なぜ、インタビューライターが必要なのか
インタビューを通じて材料を集めたら、次にそれをどうおいしく料理するかを考えます。インタビューライターとして働く人の中には、インタビューが楽しいという人が多いけれど、私はライティングが好きです。
ライティングに取りかかかるときには、まず改めて録音を聞き直しながら文字起こしをして、インタビュー内容を俯瞰します。インタビューの最中は、聞いている内容すべてが面白く感じてしまいがちですが、客観的に聞いてみると不要な情報が混ざっている場合も多い。読者にとって本当に必要な情報なのか、テーマに合った内容なのかを見直していきます。
情報の取捨選択をしたら、伝えたいメッセージが適切に伝わるように構成を組んでいきます。ライティングで特に私が気をつけているのが、「言葉足らず」にならないようにすること。インタビュー相手の中には、話すのが苦手な方もいますし、話し言葉のまま書き言葉にすると違和感を覚えることもあります。そのまま書いてしまうと、厚みのない文章や、誤解を招く表現になってしまうので、著書やインタビュー記事から補足したり、意訳したりするのもインタビューライターの仕事のひとつ。その人の言葉が読者に適切に届くようにサポートします。
また、文体にも気をつけていて、メディアに合わせながらも、その人の個性を最大限に引き出せるように書き分けています。方言のある方や言葉選びが特徴的な方なら、あえて整えずに取り入れることもありますし、堅いメディアならトンマナを合わせて仕上げます。相手の言葉遣いや性格を加味して、その人が言いそうな言葉、言わなさそうな言葉を意識して選んでいます。
最終的に作り上げたいのは、「三方良し」の記事です。取材相手の持つ魅力が伝わり、メディアの価値も高め、読者にとっても学びがある。
もちろん、文章というは、インタビューされなくても、自分で書くことができるものではあります。その中で、インタビューライターが介入する意味は、他者視点を持って伝えられることだと考えています。
自分で書くと、どうしても主観の入り込む部分が大きくなります。本人と他者とでは、面白いと感じる部分が変わってきます。話し手は、自分の経験やエピソードを些末なこととして捉えがちですが、他者にとっては価値ある情報であることが多いんです。そこをインタビューライターが他者視点で問いかけて表現に介入することで、強いメッセージに昇華させたり、その人の気づいていない想いを言語化して世に出すことができる。これが、インタビューライターの大きな役割なんだと思います。
文章は最も正確にメッセージを伝えられる方法
ライターがインタビューをして、記事を造り、メディアを通して読者に届ける。その中で最も優先されなければいけないのは、もちろん読者です。ライターの書きたい文章だけを書いてはいけないし、極端なことを言えば、インタビュー相手が伝えたいことだったとしても、本筋からズレる場合にはカットする勇気も必要です。
ただ、その中にも、ライターにとっての「自分のため」はあります。読者やメディアのことを深く考えているとき、メディアと自分が一体化する感覚があります。自分が知りたいことと読者の知りたいことが、重なるときがあるんです。
そうすると、自分が面白いと思ったことは、きっと読者も面白いと思ってくれるはずだと考えることができる。だから、究極的にはメディアや読者を理解すればするほど、自分が話を聞きたい人を選んでインタビューして、自分の読みたい内容を書けるということになります。それが、自分にしか聞けないことや、自分にしかできない切り取り方に繋がっていくんだと思います。
書く習慣
著者:いしかわゆき
定価:1628円(本体1480+税10%)
発行日:2021/9/1
ISBN:9784295405931
ページ数:288ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
Amazon
聞く習慣
著者:いしかわゆき
定価:1628円(1480+税10%)
発行日:2023年5月1日
ISBN:9784295408239
ページ数:288ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
Amazon