差別化が難しい商品は「共感」で売る。消費者に「自分事化」してもらうために必要な、企業のメッセージ。(前編)


「どれを買っても大体同じ」。良質な商品やサービスが溢れる中で、多くの企業が差別化に悩んでいます。機能や価格での訴求が難しくなり、広告を打っても効果は出づらくなっている。これを消費者側から見れば、「買う理由」が見つけづらいということです。
そんな中、どうすれば多くの人に自社の商品やサービスを知ってもらい、買ってもらうことができるのか。その答えを探るために有効なのが、Z世代を理解することです。生まれたときから必要なものが揃い、SNSを通して多くの情報に触れながら生きている。そんな彼ら彼女らは、どんな基準で購入を決めるのでしょうか。
Z世代の気持ちは、Z世代に聞くのが早い。自身がZ世代であり、同世代に向けたマーケティングや商品開発を手掛ける「僕と私と株式会社」の代表、今瀧健登氏に聞きました。

前編では、これからの消費の中心となるZ世代の特徴を通して、社会全体のニーズ変化について考えます。


今瀧健登(いまたき・けんと)

僕と私と株式会社CEO、一般社団法人Z世代代表、Z世代の企画屋。1997年生まれ、大阪府出身。横浜国立大学教育人間科学部在学中に起業。花屋のコンサルティングやグラフィックデザインを担うほか、花贈りブランド『HANARIDA』をリリース。2020年、大学卒業後に教育コンサルティング会社に就職。同年に「僕と私と株式会社」を設立し、Z世代向けのマーケティング・企画UXを専門に事業を展開する。また、「サウナ採用」などのユニークな働き方も提案。「日経クロストレンド」にて『今瀧健登の「Z世代マーケティング」』を連載中。そのほか、テレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」、テレビ朝日「大下容子ワイド!スクランブル」、TBS「Nスタ」、J-WAVE 「TOKYO MORNING RADIO」、「朝日新聞」、「産経新聞」、「日経MJ」、「MarkeZine」、「宣伝会議」、「創業手帳」、「日経ビジネス」、「日経xwomen」、「KEIEISHA TERRACE」、「ABEMA NEWS」など、Z世代の代表として多数のメディアに出演。著書に『エモ消費 世代を超えたヒットの新ルール』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

いまZ世代に注目しなければいけない理由

「僕と私と株式会社」では、Z世代に特化したマーケティングや商品企画について、ニーズやトレンドの発掘からペルソナの策定、ブランディング、プロモーションなど、一貫してサポートさせていただいています。

Z世代の定義はいろいろありますが、「1990年代後半から2010年頃に生まれた年代」と考えています。この世代は2022年の時点で世界人口の25%を占めていますが、少子高齢化の進む日本では、決してボリュームのある世代ではありません。

ではなぜ、Z世代に注目する必要があるのか。それは第一に、Z世代は強い拡散力を持っているからです。「SNSネイティブ」と言われるように、物心がついたときからコミュニケーションや情報収集にSNSを使うのが当たり前の環境で育っています。上の世代と比べてやり取りする人数とその回数が多く、SNS上での情報発信もこの世代が中心です。

こうした世代が商品やサービスについて投稿することで、友人や知人を通してシェアされていきます。そこから、別の世代にも広がっていく。企業にとって、Z世代に刺さる投稿ができれば、多くの人に知ってもらうことができます。

それに、Z世代は現時点でまだ若者ですが、これから消費の中心になっていく層です。中長期的なビジネスを考える上では、この世代を外すことはできません。

Z世代とは、言葉の通り年齢ではなく「世代」を指します。Z世代を単に「若者」と捉える人もいますが、本質的には間違った考え方です。現在は確かに若者ですが、これから当然年齢を重ねていきます。

例えば、「Z世代はあまりお酒を飲まない」と言われることがあります。しかし、実際には飲む人は飲むし、飲まない人は飲みません。これは、上の世代でも同じですよね。「若い人たちの特徴」ではなく、どんな環境で育ち、どのような価値観を持っているかを捉えることが必要です。

モノが売れない3つの理由

最近、さまざまな業界で「いままでのやり方では、モノやサービスが売れない」と言われます。その理由を、僕は3つの点で考えています。

一つは、「モノと情報の過多」です。

現在の世の中には、良い商品が溢れています。例えば、コーヒーを飲んで「うわ、まずっ!」となることはまずないですよね。あるいは、家電を買ってすぐに壊れることもありません。何かにお金を払ったときに「はずれ」を引くことはほぼなく、選べる商品の数もどんどん増えています。

それに、SNSやネットの普及によって、僕たちが吸収できる情報量は従来と比べ格段に多くなりました。これによって、消費者がブランドや商品を知る機会が増えていきます。企業にとって、自社の商品を知ってもらうことは難しくなる一方です。

次に、「評価の可視化」です。SNS上では、ブランドや商品に対する「本音」の評価がいたるところで投稿されています。さらに、「いいねの数」「フォロワー数」「再生数」といったように、数値としても評価が見えるようになっています。わかりやすいのは、就職先を考えるときです。「この会社を受けようかな」と思って企業のInstagramを見てみたら、数十人しかフォロワーがいない。そうなると、やっぱり魅力的には思えないですよね。

いままで隠れていたさまざまな情報が見えてしまうことで、評価の高い商品や企業と比べられてしまう。そのなかで新しい企業やシェアの低いブランドが勝ち残っていくのは困難です。

最後に、「広告の増加」です。従来、広告といえばテレビCMやポスターなどが中心で、たくさんのお金をかけ、高いクオリティで制作するものでした。それがいまは、SNS広告をミニマムな単価で簡単に出せるようになっています。

そうして広告の数が増えることで、僕たちが広告に触れる回数も増えています。スマホで自分の知りたい情報を探しているときに広告が何度も表示されたら、ただ邪魔なだけです。

それに、広告全体の数の増加と合わせて、質の悪い広告も増えています。中には卑猥な表現もあって、スクリーンショットを撮ってSNSで拡散したら大炎上するのではないかと思うくらいです。

僕はこうした状況を、「広告ナンパ論」と呼んでいます。ナンパされたときに、笑わせてくれたり、興味のある話をしてくれたりしなければ、ついていきたいと思わないでしょう。何度もつまらない言葉で話し掛けてきて、歩くのを邪魔される。断ったら、また別の人に同じことを言っている。

特にZ世代はSNSに触れている時間が長く、広告を目にする回数も多い。企業が質の高い広告を出していても、広告だと判断した時点で「うざい」存在になってしまうんです。

Z世代は何にお金を使うのか

SNS上では、たくさんの人たちが情報発信をしています。日本全国、全世界で、どんな人がどんな生き方をしているのかを見ることができる。Z世代はいろいろな人たちの「幸せ」を知ることで多様な価値観を持ち、自分の個性や自分らしさを大事にする傾向もあります。

少し前までは「いい大学に入る」「一流企業に勤める」「お金持ちになる」ということが成功の一つの定義だったかもしれません。しかし、Z世代にとって、それは必ずしも幸せなことではありません。一流の大学や企業に行かなくても、お金がなくても、大自然の中で自給自足をして幸せに暮らす人の姿を見ています。

そうして人生の選択肢が広がる反面、自分の「生き方」に対する迷いや不安を抱えるようになっています。学校教育でどんな生き方をすればいいのかを考える時間は少なく、社会に出るときに急に「自由に選べ」「自分らしく生きろ」と選択肢を並べられる。急にそう言われても、決められないですよね。

そんな状況で、さらに「人生100年時代」と聞かされます。これまでは85歳くらいまでの人生計画を考えていればよかったのが、「100年生きる」と言われる。世の中には85歳までの人生のモデルしかないのに、そこから15年間どうやって生きればいいかわかりません。その年になったとき、本当に年金がもらえるかどうかも不安です。

さらに、終身雇用が成り立たなくなっていることは知っているし、ひとつの会社で勤め続けることが素晴らしいことだという価値観もありません。就職するときから、いつか辞めることが前提になっていて、10年後20年後、自分が何をしているのかも想像できません。近年の新型コロナ禍のように、これから何が起こるかわからないという不安もあります。

これらの不安を持ちながら過ごすことで、「しっかりと資産やスキルを持っていないと危ない」と感じるようになります。将来のことを考えて、健康面やスキルアップ、投資にお金を使います。

一方で、Z世代は現時点ではあまりお金を持っていません。限られたお金は自分らしく、あるいは将来のために払いたい。そうした背景から、自分が興味を持たないものには、とことんお金を使いません。

消費者にとっての「買う理由」をつくるために必要な共感

現在では、必要なものが一通り揃っていて、足りなくなったり壊れたりしたときも、商品によって大差はない。それに、Z世代は自分の興味のないものにはお金を払わない。ではその興味を捉えようと思っても、個性を大事にするZ世代は好きな対象も、将来の理想像もバラバラです。つまり、「こんな訴求をすれば売れる」といった公式が成り立たない。その人にとっての「買う理由」をつくりづらいんです。

そんな中で自社の商品やサービスを選んでもらうために必要なのは、「自分事化」してもらうことです。例えば、お店に並ぶ10種類のシャンプーは、どれを買ってもいい香りで、髪がキシキシになることもありません。一方で、「自分の誕生花の香りがするシャンプー」だったらどうでしょうか。簡単な例ですが、自分との関連性を持たせることで、「買う理由」になることがイメージできるのではないでしょうか。

そして、「自分事化」をしてもらうのに効果的なのが、「エモ」を通した訴求です。僕たちの考える「エモ」にはさまざまな要素がありますが、ひと言で言えば、「ハッピーな共感」です。ただし、その共感度はそれほど高くありません。感覚的な表現になりますが、「めっちゃわかる!」が100%の共感だとしたら、「エモ」は60%くらいの共感というイメージです。

100%の共感を目指してしまうと、同じ経験をした人にしか刺さりません。例えば「シャルル・ド・ゴール空港に降りたときのわくわく感」と考えてしまうと、パリに行ったことのある人しか共感できません。一方で「旅行前日の荷物準備をするときのわくわく感」という表現であれば、自分の経験を重ねることができます。40%の余白をつくることで、買う人に解釈の余地を与えることができるんです。

後編へ続く

エモ消費
世代を超えたヒットの新ルール

著者:今瀧健登
定価:1738円(1580+税10%)
発行日:2023年6月11日
ISBN:9784295408352
ページ数:240ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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