小さな会社は戦略が9割。売上2億円、利益ほぼゼロの福井の業務用ユニフォーム販売会社が東証上場を果たすまで

地方の小さな業務用ユニフォーム販売会社でありながら、独自の「弱者の戦略」で東証マザーズ(当時)への上場を成し遂げたユニフォームネクスト株式会社。激しい価格競争から脱却し、急成長を遂げられた背景には、一体どのようなブレイクスルーがあったのか――。

その戦略の真髄と、地方企業が勝つための実践的なノウハウを言語化した一冊が『小さな会社は戦略が9割』です。著者の横井康孝さんは「強者の真似を捨て、大手がやりたがらない非効率に時間と労力を注ぐことこそが、弱者の最強の戦略になる」と言います。

ネット通販の最前線を走り続け、圧倒的な行動量と「背中で語るリーダーシップ」で組織を牽引してきた横井さん。自社の成長だけでなく「日本の働く環境をハッピーにしたい」と業界の未来を見据える横井さんとともに、これからの時代に中小企業が必要な経営戦略について考えました。 クロスメディアグループ代表の小早川幸一郎のインタビューでお届けします。

 横井康孝(よこい・やすたか)

ユニフォームネクスト株式会社 代表取締役社長
福井県生まれ。金沢大学卒業後、総合スーパーの平和堂に入社。その後、父親が創業した社員数名のユニフォーム販売会社(現・ユニフォームネクスト)に入社し、10年後に社長就任。ランチェスター戦略に出会い、多角化していた事業を整理。「飲食店ユニフォームのネット通販」に一点集中し、大手が避ける手間のかかるサービスを徹底する「弱者の戦略」で急成長を遂げる。地方の小さな会社でありながら売上を200倍に伸ばし、2017年に東証マザーズ(現・グロース市場)へ上場。ベンチャー塾や会社見学会を通じて、中小企業経営者に戦略の重要性を伝えている。

小早川幸一郎(こばやかわ・こういちろう)

クロスメディアグループ(株)代表取締役
出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開。


35歳で父の会社の後継ぎに。起業を志した青年が家業を継ぐまで

小早川 今日は新刊『小さな会社は戦略が9割』の著者である、ユニフォームネクスト株式会社の代表取締役社長・横井康孝さんにお話を聞いていきたいと思います。早速ですが、まずは横井さんのこれまでのキャリアと、今回の本のテーマでもある「戦略への目覚め」について聞かせていただけますか?

横井 僕が大学3年生の時に、父親が地元・福井県で業務用ユニフォームの販売会社を起業したんです。その後、大学を卒業するタイミングで父親から「会社を手伝ってくれ」と言われました。ただ、当時は「いつまで持つかわからないような立ち上げたばかりの会社に行くのは嫌だな」というのが本音で、すぐには入りませんでした(笑)。

小早川 立ち上げたばかりの時期だと、将来への不安もありますよね。そこからどうされたのですか?

横井 僕の祖父や親戚にも自分でビジネスをやっている人が多かったので、なんとなく「自分も将来は起業したい」という思いは持っていたんです。そこで、まずは勉強のために地元の「平和堂」という総合スーパーに入社し、会社員として2年半働きました。ただ、いずれ起業するつもりなら、やっぱり経営者である父親の下でビジネスを学んだ方が近道なんじゃないかと考え直しまして。結局、2年半で会社を辞めて父親の会社に入りました。

僕が入社した当時、社員は僕以外には父親を含めて3人しかおらず、売上も6,000万円ほどの本当に小さな会社でした。そこから10年間、泥臭くユニフォームの営業を続けました。地元の会社やお店を1軒ずつ回って「ユニフォームをつくりませんか?」と提案していくスタイルです。その結果、売上は2億円くらいまで伸びて、社員も10人ほどに増えました。

これだけ聞くと、その後自分で起業したかのように思われるかもしれませんが、結果的に僕は起業せず、この会社を引き継ぐ道を選んだんです。実はここに、父親の「うまいやり方」がありました。

小早川 うまいやり方、気になります。

横井当時、父親は僕に全社員の採用を完全に任せてくれたんです。普通なら父親が社長ですから最終面接くらいは社長がするものですが、「俺はいいから、お前が全部責任を持って採用してくれ」と。最終決定まで僕が下していました。

小さな会社ですから、面接に来てくれた人に対して、僕自身が「僕がこの会社を絶対に大きくしていくから、一緒に頑張ろう!」と熱く語りかけて採用するわけです。そうなると、自分が口説いて入社してもらったメンバーを置いて、自分だけ辞めるわけにはいかないですよね。彼らを引き連れて独立するわけにもいきません。

小早川 なるほど!自分で採用したメンバーへの責任感が、そのまま会社を引っ張る覚悟に変わったのですね。

横井 まさにその通りです。それなら、僕がこの会社の社長になろうと決意しました。35歳の時に父親に「社長を譲ってくれ」と直談判したんです。当時、父親は59歳。創業者として退くには少し早い年齢でしたが、父親も「だったらお前がやればいいんじゃないか」と快くスイッチしてくれて、後継ぎとしてのキャリアがスタートしました。

ネット通販成功の秘訣は「効率化」の逆を行く「丁寧さ

小早川 35歳で社長に就任されたのですね。そこからどのように会社を変革していったのでしょうか。

横井 社長に就任したのが2007年なのですが、当時は非常に危機感を持っていました。福井県内だけでユニフォームを販売していましたが、僕らは自分たちで商品を作っているメーカーではなく、メーカーから仕入れて販売する「代理店」です。そのため、どうしても他社との価格競争になりやすく、ビジネスとして非常にやりづらさを感じていました。「このままの延長線上では、会社は絶対に大きくならない」と思ったんです。

そこで、社長就任と同時に目をつけたのが「ネット通販への参入」でした。

小早川 ネット通販への参入は、具体的にいつ頃のことですか?

横井2007年ですね。社長になったその年に参入しました。当時は周囲から「今からネット通販を始めるなんて、もう遅すぎる」と言われました。しかし、僕には勝算があったんです。

僕がそれまで10年間、営業として現場でお客さまと向き合ってきた経験から、先行してネット通販をやっている競合他社を見て、「これではお客さまは本当に満足していないんじゃないか」と気づいたんですね。

当時のネット通販といえば、とにかくWEBサイトに大量の商材を載せて、お客さまからの問い合わせを受けることもなく、自動的にどんどん商品が売れていく……という「効率の良さ」が良しとされていました。どのお店もそういう効率重視のスタイルばかりだったんです。

でも、ユニフォームという商材は、サイズ感や加工の有無、用途に合うかどうかなど、お客さまが迷う要素が非常に多い。ただ画面に並んでいるのを見るだけでは、お客さまは本当に欲しいものを買えていないのではないか、と感じました。

小早川ネットだからこそ、逆に丁寧なコミュニケーションが求められているはずだ、と。

横井 そうなんです。「ここに、まだ誰も手をつけていないチャンスがある」と確信して、僕らは競合とは真逆の戦略をとることにしました。むやみに取扱商品を増やすのではなく、あえて商品を絞り込み、その代わり一つひとつの商品をWEB上で丁寧に説明したんです。さらに、ネット通販であるにもかかわらず、サイトの一番目立つ場所にデカデカと電話番号を載せて、「わからないことがあれば、いつでも電話をかけてください」と打ち出しました。

小早川 ネット通販の強みである効率化にあえて逆行して、安心感を担保したわけですね。

横井 はい。この「丁寧さ」と「泥臭い対応」への全振りが、安心を求めていたお客さまのニーズに奇跡的にフィットしました。結果として、多くのお客さまが当社を選んでくださるようになり、爆発的な成長へと繋がって今に至ります。

地方の小さな会社が「上場」を目指した2つの理由

小早川 2007年にEC事業へ参入され、その後、御社は東証マザーズ(当時)に上場を果たされましたよね。上場されたのはいつ頃だったのですか?

横井ちょうど僕が社長になって10年目にあたる、2017年です。

小早川 社長就任から10年での上場、素晴らしいスピード感ですね。そもそも、横井さんが上場を目指されたのには、何か具体的な理由があったのでしょうか。

横井理由は大きく2つあります。1つ目は「次の大きな目標が欲しかったこと」、そして2つ目は「採用における知名度の壁を破りたかったこと」です。

実は社長になってしばらくは、とにかく売上を伸ばすことばかり考えていたんです。でも、売上が伸びても会社は一向に良くならない。社員の休みも増やせないし、給料も上げられない。「これでは駄目だ、結局は利益を出さなければ意味がない」と気づいてからは、目標を『営業利益』に切り替えました。 そこから必死に頑張って、営業利益1,000万円、4,000万円、そしてついに1億円を達成したんです。ただ、利益が増えるのは嬉しかったのですが、「じゃあ次は3億円だ」となった時に、なんだか数字だけの目標に対して僕自身のモチベーションが上がらなくなってしまって……。

小早川 会社の数字としては成長していても、どこか心のなかで「その先」の目的を見失いかけていたのですね。

横井 そうなんです。そんな時に、ベンチャーキャピタル(VC)の方が会社に来てくださって、「今のユニフォームネクストさんなら上場を狙えますよ。営業利益が3億円までいけば十分に可能です。しかも、福井県内で当時マザーズ市場に上場した会社はまだ一社もないので、上場できれば『福井初』ですよ」と教えてくれたんです。これを聞いた時に、「福井初の上場企業」という響きに、ものすごくワクワクしたんですよね(笑)。

小早川それは挑戦しがいのある大きな目標ですね! 2つ目の「採用の壁」というのは?

横井 当時、新卒採用を始めていたのですが、深刻な問題に直面していました。学生本人は「ユニフォームネクストに行きたい!」と相思相愛になって内定を出しても、後になって「親御さんから猛反対された」という理由で内定を辞退するケースが続出したんです。

知名度のない地方の小さな会社ですから、親御さんからすれば「聞いたこともない会社に行ってほしくない」となるのは当然かもしれません。でも、これは悔しかった。会社を成長させるためには、どうしても知名度を上げる必要がありました。

「上場すれば、会社の信頼性も知名度も一気に上がる。すべての課題を解決できるんじゃないか」

そう確信したことが、上場へ舵を切った決定的な理由ですね。

父の教えは「強者の戦略」だった? 弱者には弱者の戦い方がある

小早川 今回の新刊のなかで横井さんは、「戦略は大企業だけのものではなく、小さな会社こそ戦略が必要なんだ」と強く主張されています。横井さん自身が「会社には戦略が必要だ」と気づいた転機は、どのようなものだったのですか?

横井僕が社長に就任したタイミングで、福井県内の上場企業の経営者の方々が、月1回のペースで勉強会を開いてくださっていたんです。そこへ参加したのが大きな転機でした。ちょうどその勉強会で「ランチェスター戦略が経営に効くぞ」という話になり、みんなでそれを勉強することになったんです。

小早川 それまでは、戦略についてあまり意識したことはなかったのでしょうか。

横井正直に言うと、当時の僕は「戦略」と「戦術」の違いすら分かっていませんでした(笑)。それまでは、創業社長である父親から「こうやれ!」と言われたことを、とにかく実直にこなしてきただけでしたから。

でも、その勉強会で改めて「戦略」というものを学んでみたら、ものすごい衝撃を受けたんです。「親父が言っていたことと、全然違うじゃないか!」と。

小早川お父様の経営スタイルと、ランチェスター戦略の内容にズレがあったのですね。

横井ランチェスター戦略には、大きく分けて「弱者の戦略」と「強者の戦略」があります。父親が僕に教えてくれていたやり方は、どっちかというと「強者側の戦略」だったんですよ。

世の中のビジネス書に書かれている成功法則も、大半は資本力のある「強者側の戦略」です。でも、当時の僕たちの会社は、社員数名、売上数千万円の完全なる「弱者」でした。それなのに強者の真似事をして戦おうとしていたから、苦しかったわけです。

「自分たちはまだ全然小さい会社なんだから、絶対に『弱者の戦略』を徹底しなければ生き残れない」

そのことに気づいてからですね。僕が狂ったように経営戦略を勉強し始めたのは。

戦略のない経営は「成長」ではなく、ただの「膨張」である

小早川 勉強会をきっかけに「弱者の戦略」の必要性に気づかれたわけですが、それまでの「戦略がない状態の経営」というのは、具体的にどのようなものだったのでしょうか。ひたすらマンパワーや仕事の「量」でカバーするようなイメージですか?

横井 まさにその通りです。とにかく「売上を上げること」だけを目的に置いて、ガムシャラに頑張るんですよ。でも、戦略なしに売上だけを追い求めると、何が起きると思いますか?

小早川 「営業活動を増やして、とにかく案件を獲りにいく」などでしょうか……?

横井そう、そして結果的に「値下げ競争」に巻き込まれるんです。お客さまから「買ってあげてもいいけど、もうちょっと安くしてよ」と言われたときに、売上目標が頭にあるから、利益を削ってでもその条件に乗っかってしまう。

さらに「あそこが儲かりそうだ」「あの商品を扱えば売上が増えそうだ」と、目先の売上に釣られて次々と新しいことに手を出すので、事業がどんどん広がっていってしまうんです。

小早川 手数は増えるけれど、社内のリソースが分散してしまいますね。

横井ええ。その結果、どうなるかというと「売上はあるのに利益が全くない」という状況に陥ります。実際、僕が社長になったタイミングでは、売上こそ2億円ほどありましたが、利益はほとんど残っていませんでした。 戦略を勉強して痛感したのは、ただ売上を増やすだけでは会社は良くならないということ。正しく戦略を立てて実行して初めて、利益がついてくるんです。強い会社というのは、例外なく利益性が高く、それを「継続的」に出していける会社です。そういう会社を作るための羅針盤こそが、僕にとっては戦略でした。売上だけを追うのは、会社の「成長」ではなく、ただの「膨張」なんですよね。

福井で4位〜6位からのスタート。「小さな1位」を積み上げる戦い方

小早川「売上ではなく利益」、そしてそのために戦略が必要だということですね。本書でも、まずは「小さな1位」を作っていくという弱者の戦略が強調されています。横井さんが戦略を重視し始めた当時、自社の市場でのポジション(順位)や規模などは把握されていたのですか?

横井 当時は、地元・福井県のユニフォーム販売店の中で、うちの会社はせいぜい4位、5位、6位といったレベルでした。福井という一つの県の中でさえその順位ですから、全国規模で見たら何百位、何千位というおおよそ話にならないポジションだったと思います。

小早川 県内で4位以下となると、価格競争でもかなり不利な立場ですね。

横井 そうなんです。「だから儲からないんだ」と、戦略を学んで合点がいきました。福井県で4位や5位のままで普通にユニフォームを売っていても、利益が出るわけがないんです。

だったら、ランチェスター戦略に則って、もっと「地域を集中」させようと考えました。福井県全体で勝てないのなら、まずは「福井県の中の〇〇地区」という狭いエリアに絞り込んで、その中で圧倒的な1位を狙いにいく。エリア外の遠方のお客さまからの引き合いには、あえて少し引いて、まずは狙った足元を固めて1位を作る、という動き方をしました。

小早川 まずは勝てる狭い土俵を作って、そこで確実に1位を獲る。その後、ネット通販に参入される際も、同じように1位を狙える場所を探したのですか?

横井その通りです。ネット通販を始めるにあたっても、すでに先行者がいますから、まともに戦っては勝てません。膨大なネット空間の中で「どこなら1位を取りやすいか」「どこに旗を立てるべきか」を徹底的に考えて作戦を立てました。これこそが、僕たちのとった戦略です。

大手資本にひっくり返されないための「差別化」

小早川 弱者として戦う以上、「1位を獲る」ことはもちろんですが、せっかく獲ったその1位の座を「守り続けること」も同じくらい重要になってきますよね。

横井 非常に重要な視点です。自分たちが特定のニッチな領域で1位になって、利益が出るようになると、当然周りから「あのビジネスは儲かっているらしいぞ」と目をつけられます。特に潤沢な資本力や人材を持っている大手企業が、後からその市場に参入してくる可能性は常にありますからね。

小早川 大きな資本を持った強者が攻めてきたとき、せっかく築いたポジションをそっくりひっくり返されないためには、どうすればいいのでしょうか。

横井一言で言えば、「大手がやりたがらないこと」に、徹底的に時間と労力をかけることです。大企業は効率を重視しますから、手数がかかって面倒なことや、泥臭い対応には参入しにくい。

僕たちがネット通販で実践した「商品を絞って丁寧に解説する」「電話対応を大々的に受け付ける」といった一見非効率なアプローチは、まさに大手が嫌がる領域です。そうやって、効率の良さだけでは真似できない「泥臭い強み」を地道に積み上げていくこと。これこそが、大資本にひっくり返されないための、弱者ならではの最強の防衛策になります。

「教育予算は9割社長に注ぎ込め」 泥臭く伝えた早朝勉強会

小早川経営において「組織は戦略に従う」と言われますが、いくら社長が優れた戦略を立てても、組織の末端まで実行されなければ意味がありません。横井さんは、ご自身が考えられた戦略をどのようにスタッフの方々に落とし込んでいったのでしょうか。

横井戦略をそのまま難しい言葉で伝えても、社員にはなかなか理解してもらえません。特に会社がまだ小さいうちは、最初から優秀な人材ばかりを採用できるわけではないですからね。

だからこそ、戦略を教え込むというよりは、「会社はこっちの方向に向かうよ。そのためにこういうことを大事にするから、これをやってくれ」という噛み砕いたメッセージにして、毎月毎月、勉強会を開いて全社員に伝え続けました。

実はこれ、僕が戦略を勉強しているときに先輩経営者から教わったことなんです。「会社が小さいうちは、教育費の9割は社長に注ぎ込まないと駄目だ」と。 自分が勉強したくないからといって、社員を外の勉強会に行かせたりしても会社は成長しない。まずは社長が全部しっかり勉強して、咀嚼して、社員のレベルに合わせて自分の言葉で伝えなさい、と言われたんです。

小早川 教育予算を社員ではなく、まず社長自身に全振りするわけですね。

横井 そうなんです。だから当時のうちの教育予算は、ほぼ100%僕に使っていました(笑)。その代わり、そこで僕がインプットしたものを、社内で誰よりも責任を持って社員に教育していく。

この戦略を落とし込むための場が、全社員を対象にした「早朝勉強会」でした。今の時代にやるとブラック企業と言われてしまうかもしれませんが、朝8時半の始業前の7時半に集まってもらってやっていました。

会社の規模が大きくなってくると、僕一人では人数が多すぎて、一時期は管理職に分けて担当してもらったこともあります。ただ、どうしても僕が直接話すのとでは温度差が出てしまうんですよね。「やっぱり社長が直接やった方が早い」と思い直して、もう一度僕が全員に話す形に戻しました。ちょうどその頃からZoomなどのオンラインツールが使えるようになったので、人数が増えても工夫しながら、今でもこの勉強会はやり続けています。

有言実行と圧倒的な行動量。背中で語るリーダーシップ

小早川 世の中には、本を読んで戦略を学んだつもりになっても、実行に移せなかったり、組織に徹底させられなかったりする経営者が少なくありません。ユニフォームネクストがこれほどまでに戦略を徹底させ、急成長して上場まで至った「徹底のコツ」はどこにあるのでしょうか。

横井 一番は「先に周りへ言っちゃうこと」だと思います。僕は社長になったタイミングから、一年のスタート時期に「経営計画発表会」を毎年開くようにしました。「今期はここまでの売上と利益を出す」という具体的な目標を、全社員の前で宣言してしまうんです。

社長が「ここまでやる」と大見得を切ったのに、結果を出せなかったら、自分の信頼はどんどん落ちていきますよね。社内での信頼を失ったら、会社なんて成り立ちません。だからこそ、「自分の信頼を落とさないために、何が何でもこの数字を達成するんだ」と自分自身に強烈なプレッシャーをかけるんです。

そうすると、まずは社長である僕自身の行動が180度変わります。そして、自分の行動が変わって背中を見せられているからこそ、社員に対しても自信を持って「これをやってくれ」と言えるようになるんです。

小早川 まずは社長ご自身が退路を断ち、行動で示す。だからこそ言葉に説得力が生まれるわけですね。

横井 ええ。経営者が自分は手を抜いて、朝もゆっくり出社して、口先だけで偉そうな戦略を語ったところで、社員からすれば「何を言っているんだ」としらけてしまいますよね。誰よりも社長が早く会社に来て、誰よりも仕事をして、言ったことを次々と実現していく。その姿を見るからこそ、社員も「社長についていこう」と思ってくれる。

ある程度の規模の会社になるまでは、小手先のテクニックではなく、この「背中で語るリーダーシップ」を貫かないと、戦略なんて絶対に組織に定着しないと思っています。僕自身、社長になってからは「人が遊んでいるときに仕事をし、人が休んでいるときに考える」ということを愚直に実践してきました。経営者がどれだけエネルギーを投入できるか、それがすべてだと思います。

小早川「人が休んでいるときに考える」というのは、まさに圧倒的な当事者意識ですね。やはり、すべての経営者にそれほどのハードワークや時間の投入が求められるのでしょうか。

横井いえ、これが「すべての経営者に絶対必要か」と言われれば、決してそういうわけではありません。ランチェスター戦略でも言われていることですが、要は「自分がどこまで行きたいか」なんです。別にそれが絶対の正解というわけではなく、みんながみんなそうしなければならないわけじゃない。

ただ、もし高い目標を掲げているのであれば、それに応じた圧倒的な時間を投入しなければ、当然そこにはたどり着けませんよね。誰もが身を粉にして働く必要はありませんが、目指す山の高さに見合った覚悟と時間を投下する、というのは経営の原理原則だと思います。

顧客の喜びにつなげるために、テクノロジーを自社で内製化する

小早川 御社はインターネットを駆使して急成長を遂げられました。最新のテクノロジーでいうと、DXやAIの活用において、どのような工夫をされているのでしょうか。

横井 僕たちはネットでユニフォームを売る会社ですが、上場直後くらいに中国の企業を視察した際、大きな衝撃を受けました。向こうの事業会社には、社員の半分くらいシステムエンジニアがいて、自社の生産性向上やWEBサービスの開発をすべて内製化していたんです。

これからの時代、僕たちのような小売・販売業であっても、WEBサービスを通じて独自の付加価値をつけていくことが絶対に必要になると確信しました。そこでシステム人材の採用を大幅に強化し、現在は10人ほどの自社システム部門を持っています。社内の効率化だけでなく、新しいサービスを自分たちの手でスピーディーに開発できる体制を先に作れたことは、本当に良かったと感じています。

また、最近は生成AIの活用にも多くの企業が取り組んでいますよね。大半の会社は「業務の効率化・生産性向上」から手をつけ始めると思います。ただ、僕個人の見解としては、AIの進化スピードは凄まじいので、今必死になって小手先の効率化の工夫を凝らしたとしても、次の新しいバージョンが出たらその工夫自体が無駄になってしまう可能性が高い。

ですから、単なる社内効率化のツールとして留めるのではなく、いかにお客さまの喜びや、新しい顧客体験という「付加価値」にテクノロジーを結びつけられるか。そこを常に意識して開発を進めています。

「戦略」を広め、日本の働く環境をハッピーにしたい

小早川 最後に、今回の出版を通じて、全国の中小・ベンチャー企業の経営者や読者の方々へ一番伝えたいメッセージをお願いします。

横井 当社は「ワークライフをハッピーに」というミッションと、「ユニフォームの常識を変える。日本の働くを変える」というビジョンを掲げています。

諸外国と比べても、日本は働くことに喜びや幸せを感じられていない人が多いと言われています。この現状を変えるためには、やはり働く舞台である「会社の業績」が良くならなければいけません。

では、どうすれば会社の業績を良くできるのか。経営者が「正しい戦略」を知ってビジネスをするのと、知らずに闇雲に頑張るのとでは、結果がまったく違ってきます。だからこそ、僕は本を書いたり、YouTubeで発信したりして、戦略をしっかり伝える活動をしています。

実は、僕自身が最初にランチェスター戦略を学んで自社を大きく成長させたとき、最初は「これは他社には教えたくないな」と思っていました(笑)。ライバル企業に真似されたら、強力な脅威になりますからね。

ですが、僕たちのミッションである「日本の働くを変える」を実現するためには、より多くのお客さま、そして日本の会社が業績を良くしていくための支援が必要です。幸い、当社も市場で圧倒的な地位を築くことができ、簡単には揺るがない自信がつきました。

そこで、いよいよ満を持して、僕が培ってきたランチェスター戦略のすべてを多くの経営者の方々に手渡したいという想いで、この本を世に出しました。一人でも多くの経営者の方に届き、日本の会社がハッピーになるきっかけになれば嬉しく思います。

小早川弱者の戦略から、それを組織に浸透させるリーダーシップ、そして未来へのテクノロジー活用まで、非常に密度の濃いお話でした。横井さん、ありがとうございました!

小さな会社は戦略が9割

著者:横井康孝(よこい・やすたか)
定価:1,980円(本体1,800円+税)
体裁:四六判/256ページ/1色刷
ISBN:978-4-295-41215-1
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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