【コラム】辞書は「人類の知識の結晶」。私たちの学びを支え続けてきた歴史


紙で、電子で、ウェブ上で……。辞書はさまざまな形で私たちの周りに存在しています。
学生時代に勉強していてわからない言葉があった時、社会人になってからも仕事で使う方は多いのではないでしょうか。

学生時代から大人になった今もなお、常に身近で私たちの学びの支えとなっている辞書。現存する最古の辞書は、なんと平安時代につくられたものです。そして現在に至るまで、歴史の移り変わりとともに見た目や形式を変えて、私たちのもとに存在しているのです。

歴史とともにどのように辞書が変化し、進化してきたのかをこのコラムでは紹介します。


日本最古の漢字辞書「新撰字鏡」

日本の辞書の歴史は古く、平安時代初期に編纂されたとされる「新撰字鏡(しんせんじきょう)」が現存する日本最古の漢和辞典として知られています。新撰字鏡は、漢字の字部首で分類して収録した漢和辞典です。

平安時代は、中国から多くの文物が伝来し、漢字の読み方や意味を正しく理解することが重要視されました。そのため、漢字辞書の需要が高まったのでしょうか。「新撰字鏡」は、その需要に応えるべく編纂されました。

「新撰字鏡」の特徴は、部首ごとに漢字を分類し、巻頭に部首の一覧を記載している点です。これにより、漢字を効率的に検索することが可能になりました。また、「新撰字鏡」は、単に漢字の読み方を記すだけでなく、漢字の字義(意味)についても説明を加えています。

「新撰字鏡」は、平安時代の学問や文化の発展に大きく寄与しました。貴族や学者たちは、この画期的な辞書を手にして、漢字の知識を深め、漢文の読解や和歌の創作に役立てたでしょう。

「新撰字鏡」は、日本の辞書の歴史を語る上で欠かせない存在なのです。

江戸から現代へ、辞書編纂の道のり

江戸時代に入ると、日本の辞書編纂は大きな転換期を迎えました。
1603年に成立した江戸幕府は、武家社会を中心とした封建制度を確立。その一方で、商業の発展や町人文化の隆盛により、識字率が向上し、知識欲も高まりました。
こうした社会背景を受け、辞書に対する需要が急激に増大したのでしょうか。

室町時代から昭和にかけて出版された「節用集」は、江戸時代に多種多様な形式が発生し、多くの写本が成立しました。これは原則として「いろは順」で分類がなされます。

さらに、「和訓栞』といった、国学者による辞書編纂も活発化しました、国学とは、文学や神道、国史などを研究する学問で、江戸時代に隆盛しました。国学者たちも、日本の辞書編纂にも力を注いだのです。
「和訓栞」は五十音順が初めて採用された辞書であり、完全ではないものの第二音節までが五十音順になっています。

そして、これらの辞書は、後の時代に影響を与えることになります。江戸時代の辞書編纂は、近代の辞書の礎を築いたと言っても過言ではないでしょう。

近代的国語辞典の先駆けとして名高い「言海」

明治時代に入り、まだ本格的な国語辞典がありませんでした。明治維新後の政府は自国の近代化を進めようと奮闘している時期であり、中でも国語を統一させることはとても重要な課題でした。そして文部省(現在の文部科学省)が大槻文彦に命じてつくらせたのが「言海」です。1889年から刊行され、近代的国語辞典の先駆けとなる辞書になりました。

「言海」は約四万語を収録した五十音順で配列されている辞書で、文部省に命じられてからなんと約17年の歳月をかけて完成させました。

しかし、「言海」の完成までの道のりは平坦ではありませんでした。
原稿が出来上がったのにも関わらず、なぜか文部省が印刷に取り掛からず、自費で出版することを条件に原稿が下げ渡されたのです。そして大槻は、自費出版にむけて校正作業を行っていきますが、そんな中で娘と妻が相次いで亡くなってしまったのです。そんな状況のなかで1889年に「言海」が刊行されました。彼の情熱と献身が、近代国語辞典の礎を築いたのです。

大槻の死後も、大槻の兄の如電や関根正直、新村出によって、言海を増補改訂した「大言海」が刊行されています。

時代の変化に合わせて進化する広辞苑

1955年、岩波書店から画期的な国語辞典の第一版が刊行されました。それが「広辞苑」です。
「広辞苑」は、その斬新な編集方針と圧倒的な情報量で、瞬く間に辞書界の話題をさらいました。

「広辞苑」の最大の特徴は、収録語数の多さにありました。初版の段階で約20万語を収録し、当時の国語辞典としては群を抜く規模を誇っていたのです。

また、「広辞苑」は新語・外来語にも積極的に取り組みました。カタカナ語の収録を大幅に増やし、時代の変化に対応した辞書を目指したのです。
ちなみに2018年に10年ぶりに刊行された広辞苑(第七版)では、「自撮り」、「ちゃらい」、「デトックス」など、多くの単語が新しく追加されました

「広辞苑」は刊行後、爆発的な売れ行きを示しました。第一版からの累計発行部数は、2020年には1200万部を売り上げ、国語辞典の新たなベストセラーとなったのです。
以降、「広辞苑」は版を重ねるごとに内容を充実させ、現在も国語辞典のトップブランドとして君臨し続けています。

持ち運びに不便な重い辞書が一台の小さな電子機器に

電子辞書の登場は、辞書の在り方に大きな変革をもたらしました。

従来の紙の辞書は重くてかさばり、持ち運びが不便でした。しかし、電子辞書は小型軽量で、多くの辞書を一台に収めることができます。これにより、学生や語学学習者、ビジネスパーソンなど、辞書を頻繁に使う人にとって利便性が飛躍的に向上しました。

また、電子辞書は検索機能が優れています。紙の辞書では目的の言葉を探すのに時間がかかりましたが、電子辞書ではキーワードを入力するだけで瞬時に結果が表示されます。
さらに、電子辞書には音声機能が搭載されているものもあります。発音を聞くことができるので、語学学習には非常に役立ちます。

一方で、電子辞書の普及は紙の辞書にも影響を与えています。電子化の波に乗り遅れまいと、紙の辞書も編集方針や構成を工夫するようになりました。

例えば、より専門的な内容を盛り込んだり、図版や写真を豊富に使ったりと、紙の辞書ならではの強みを活かす工夫が見られます。また、電子データとの連携を意識して、QRコードを掲載するなどの試みもあります。

しかし、紙の辞書の存在意義が失われたわけではありません。長時間の使用による目の疲れや、機器トラブルのリスクがない点は紙の辞書の利点です。また、ページをめくる感覚やインクの匂いなど、紙の辞書ならではの「アナログ的な魅力」を好む人も少なくありません。

電子辞書と紙の辞書、どちらも一長一短があります。用途や好みに応じて使い分けることが、辞書を有効活用するコツといえそうです。

インターネットがもたらす新しいツール

インターネットの普及に伴い、オンライン辞書とウェブ辞書が台頭してきました。

オンライン辞書は、インターネット上で提供される辞書サービスのことです。PC やスマートフォンがあれば、いつでもどこでも辞書を利用できるのが最大の魅力です。多くのオンライン辞書は無料で利用でき、手軽に単語の意味や用例を調べられます。

代表的なオンライン辞書としては、「Weblio」「goo辞書」「コトバンク」などがあります。これらのサービスでは、国語辞典や英和辞典、専門用語集など、多様な辞書をまとめて検索できます。利用者から単語の意味や用例を募集する、いわゆる「ユーザー参加型」の辞書もあり、言葉の多様性や変化を反映しているのが特徴です。

一方、ウェブ辞書は、もともと書籍として出版されていた辞書がモバイル版としてウェブ上で公開されたものを指します。信頼性の高い出版社の辞書がインターネットで利用できるようになったのは画期的な出来事でした。

例えば、岩波書店の「広辞苑」、三省堂の「大辞林」、などの有名辞書がウェブ版を提供しています。これらのウェブ辞書は、書籍版と同等の質の高い内容を誇りますが、一部の機能は有料会員に限定されているケースが多いです。

オンライン辞書とウェブ辞書の登場により、辞書の利用シーンは大きく広がりました。日常的な言葉の疑問解決から、専門的な研究や翻訳まで、あらゆる場面で活用されています。

ただし、オンライン上の情報は玉石混交であるという点には注意が必要です。特にオンライン辞書では、誤った情報が含まれている可能性があります。信頼できるウェブ辞書を選ぶ、複数の辞書で定義を確認する、などの情報リテラシーが求められます。

オンライン辞書とウェブ辞書は、現代の言語生活に欠かせないツールとなっています。利便性を享受しつつ、賢明に利用していくことが大切です。

歴史の移り変わりとともに変化していく知恵の結晶

日本の辞書の歴史は、平安時代から始まりました。そして現在にかけてさまざまな辞書が登場しています。

電子辞書の登場により、紙媒体の辞書は新たな変化を遂げ、オンライン辞書やウェブ辞書の台頭により、辞書の在り方自体が大きく変わりつつあります。

日本語教育においても、辞書は欠かせない存在です。そして辞書の歴史は、日本語そのものの変遷と深く関わっています。
先人たちの努力と情熱によって紡がれてきた辞書の歴史は、今後も新たな展開を見せていくことでしょう。
日本語を愛する私たちにとって、辞書は言葉の宝庫であり、知恵の結晶なのです。

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